待てども待てども出てこない──。 フランスのリールで行なわれた国際親善試合で日本代表を3-1で下したブラジル代表の選手たちは、試合後2時間近くが過ぎても、誰ひとりとして取材エリアに姿を現さなかった。3-1というスコア以上に日本代表を圧…

 待てども待てども出てこない──。

 フランスのリールで行なわれた国際親善試合で日本代表を3-1で下したブラジル代表の選手たちは、試合後2時間近くが過ぎても、誰ひとりとして取材エリアに姿を現さなかった。



3-1というスコア以上に日本代表を圧倒したブラジル代表

 現地記者に聞いたところ、ブラジルのチッチ監督は毎試合後、選手たちに必ず入念にリカバリーをさせるため、これくらい遅いことは珍しくないという。こんなことなら、ネイマールが涙したという記者会見に出ればよかったと思ったが、それはチッチ監督の意図によるものだったのだ。

 日本のヴァイッド・ハリルホジッチ監督が、戦前に「これほど組織的なブラジルはいまだかつて見たことがない」と称賛した現在のセレソンは、特に試合の前半でクラブチームのような高い練度を見せた。

 そして試合が終わった後は、4日後にイングランド戦が行なわれるロンドンへ向かう前に、体内に乳酸が溜まらないようしっかりとケア。また、記者会見でエースを泣かせたのも、56歳の指揮官の熱い言葉だったという。今季からパリ・サンジェルマンに移籍し、様々な重圧に晒されているネイマールを思い、彼を擁護する発言をしたのだった。

 世界のトップ中のトップが集うチームを、これほど緻密かつ求心力のある監督が率いている。ハリルホジッチ監督は「ブラジルがロシア大会の優勝候補」と述べたが、その意見には同意するほかない。

 そんな相手と戦った日本代表の選手たちも、ブラジルの印象をそれぞれに語った。

「相変わらず強かったです」と率直に言ったのは、相手の破壊的な攻撃に晒されたGK川島永嗣だ。「今回のブラジルは、これまでよりもコレクティブ(組織的)だったのでは? 」と尋ねると、「それはありますよね。守備時には、それぞれのポジションをしっかり守っていた。特に前半は組織的で、規律あるチームに見えた」と答えた。

 一方、自らのチームについては「もっともっとチャレンジすべきだったと思う。もちろん引くべきときもありますけど、そんな場面でも(ボールを取りに)アタックする意識を忘れてはいけない。そこにいるだけでは意味がないので。特にこういう相手には最初から激しくいかないと、前半で試合を決められてしまう」と課題を述べた。

 終盤に途中出場した遠藤航は、「(ブラジルの)中盤のポジショニングがすごくよかった」と、より具体的に説明してくれた。

「ボールを動かすときは、中盤の3枚が少し引き気味に受けながら、ちょっとずつ全員で前進していく。それがものすごくうまかったです。ボールを取りにいこうとすれば、ポジションを下げて剥がされますし。前に出ていくタイミングもすごくよかったですね。特に、ネイマールとマルセロの左サイドは、相手のプレッシャーによって、ポジションを微調整していました」

 およそ3年ぶりに日本代表に復帰した森岡亮太は、前回の代表戦の相手もブラジルだった。今回の試合には70分に投入され、ロスタイムに右サイドを崩す起点となったMFの上昇株は、今日の手応えについて尋ねられると、「3年前のブラジル戦よりはできたかなと思います。あの時はブラジルが目の前に立っているだけでプレッシャーを感じた。(今日は)あのレベルの相手にも自分の色を出せたような気がするので、その意味では成長ですかね」と振り返った。

 最後に自身が創出したチャンスについては、「(酒井)宏樹くんと2対1のいい形が作れて、最後は惜しかったですけど、ああいう形がブラジル相手にできるということは、どんな相手にもできると思う」と手ごたえを口にしている。

 88分に乾貴士のFKに頭で合わせてネットを揺らしたものの、オフサイドの判定を下された杉本健勇は、「(あの場面は)狙い通りだったんですけどね。ちょっと出てました。ブラジルは適当に見えて、そういうところもしっかりしていた。そういう、ちょっとした差を突き詰めていかないといけない。反省したいと思います」と悔しさを滲ませた。

 ネイマールの落ち着き払ったPK、マルセロの利き足ではない右足でのスーパーミドル、桁違いのスピードと精度のカウンターを仕上げたガブリエウ・ジェズス。ブラジルの得点はどれも見事なものだった。後半はペースを落とした印象もあるが、ニュートラルに見て、今の日本よりもその実力は数段上にあった。

 ようやく取材エリアに出てきたブラジル人選手たちのなかで唯一、英語の質問に応じてくれたのは、前日の記者会見にも出席したウィリアンだった。セレソンで初めてキャプテンマークを巻いたアフロヘアのナイスガイは、「(主将を任されて)本当に嬉しかった」と真っ白な歯を見せた。そして日本については「スピーディーで規律のある、とてもいいチームだった」と印象を語った後、「どんなチームでも進化を続けられると信じなければならないよ。僕らブラジル代表はそう考えているし、日本もそうだといいね」と続けた。

 日本は15日の早朝(日本時間)にベルギーとの試合が組まれている。その一戦を含め、本大会までの限られた時間のなかで、どれだけチーム力を高めていけるか。現時点で世界最高のチームのひとつから授かった教訓を糧に、進化は可能だと信じて、やり続けるしかない。