ヤクルトの奥川恭伸は、2026年シーズンに向けて参加した10月のフェニックスリーグと、11月の松山での秋季キャンプを振…
ヤクルトの奥川恭伸は、2026年シーズンに向けて参加した10月のフェニックスリーグと、11月の松山での秋季キャンプを振り返り、「ケガのことを考えずに取り組めて、めちゃくちゃ充実した1カ月半でした」と語った。
「フェニックスでは『こうやって投げていたんだ』と、その感覚をちょっと思い出すことができました。オフは、そのバランスのなかでの出力を上げていく。ひとつの方向性みたいなものが決まりました。
松山ではもっと体を強くする、出力を上げるということで、ブルペンではトータルで500球くらい投げたと思うんですけど、もうちょっと投げたかったなと(笑)。フェニックスで戻った感覚を参考にしながら、いいトレーニングができました」
秋季キャンプで笑顔を見せるヤクルト・奥川恭伸
photo by Sankei Visual
【力を抜くことを覚えた】
奥川は9月28日の本拠地最終戦に登板したあと、二軍の戸田球場で調整を続けていた。今シーズンは開幕投手を任されるなど18試合に登板し、4勝8敗、防御率4.32。投球回は100イニングに達し、二軍での登板を含めると計121イニングを投げた。
「勝負にいくのが怖くて、打たれることが怖くて、自信を持ってマウンドに立てなかった」と振り返る一方で、「大きな目標だった1年間をケガなく終えられたのはよかったです」と、表情は明るかった。
そう話した数日後、フェニックスリーグ開幕直前に急きょ参加が決定。登板に向けた調整が入ったことで、思い描いていたトレーニングができず、当初はそのストレスが表情に滲んでいるように見えた。
10月7日の日本ハム戦(西都)でフェニックスリーグに初登板。5回9安打6失点で敗戦投手となり、14日の西武戦(南郷)では、2回に5連打を浴び4失点したものの、その後の3イニングは1安打、4奪三振、無失点と立て直した。
試合後は、「力を抜くことを覚えました」と笑顔を見せた。
「いや、力を抜くことを思い出した、ですね。そこからは真っすぐでファウルも取れた。結局、今年は強い球を投げたい、速い球を投げたいと、力が入りすぎていたんですね」
今年最後の実戦となった10月24日のオリックス戦(都城)は、降雨ノーゲームとなったが、3回をパーフェクトに抑えた。
試合後「やっとです(笑)」と、奥川は白い歯を見せた。
「スピードも出ていましたし、打者も真っすぐに振り遅れていました。このあとの松山キャンプも楽しみですし、むちゃくちゃ練習したいと思っています(笑)」
【投げ込むほど状態がよくなる】
11月2日、約2週間の秋季キャンプがスタート。奥川は「今までは、ランニングやウエイトにはあまり前向きじゃなかったのですが、しっかりすることができました」と語った。
ブルペンには、2日に1回のペースで入った。その内容は、5分間に何球投げられて、そのうち何球ストライクが入るかというルールで2セット。当初は5分で20球台後半だったが、キャンプ終盤には30球を超えることが増え、球数は投手陣のなかでトップクラスとなった。
投げ込むごとに、フォームに力みがなくなり、躍動感が増し、ボールも強くなっていった。
「フェニックスと松山で思ったのは、投げ込むほど自分の状態がよくなるということ。その感覚が出てきましたね」
真っすぐをアウトコースに、5分間投げ続ける日もあった。
「もちろん、投球フォームは過去と変わっていくものなんですけど......。記憶をたどっていく作業というか、自分がアウトコースに投げ込んでいた時の軌道のイメージだったり、視覚的なものを思い出す作業をずっとやっていました。
その景色が見えなくて困っていたのですが、少しずつ見えてきました。12月、1月にそれを自分のモノにしていって、タイミング、バランスのなかで出力が上がれば、来年面白くなるかなって」
そして「そういう風に練習しようと思えたのは......」と言って続けた。
「やっぱりフェニックスに行ったことが大きかったですね。最初は残留して、自分のやりたいことをしたい気持ちもありましたが、結果的には行ってよかったです(笑)。10月、11月とすごく前向きに過ごせました」
チーム練習が終わると、球場内の室内ブルペンで、同学年の石原勇輝や、年下の坂本拓己とともに談笑しながらピッチング。奥川は「次はチェンジアップからのスライダー」と坂本の球種を言い当てるなど、野球を存分に楽しんでいた。
【現時点では筋量アップがテーマ】
ウエイトルームから出てきた奥川を見て、「こんなに分厚い体だったかな?」と思い、なかでも二の腕の太さに驚いて「今、トレーニングを終えたばかりだからですか?」と尋ねたことがあった。
「今日は下半身のメニューで、上半身はやっていません(笑)。スクワットをメインに、8回×8セットとけっこうなボリュームでした。それをしっかりこなして、筋量を増やせるように頑張っています。
このキャンプが終われば、2月、3月と開幕に向けてトレーニングの方向性も少しずつ変えていくつもりです。とにかく、現段階では筋量アップがテーマなので、スクワットもベンチも、そのほかの細かい種目も含め、楽しくトレーニングできています」
現在の体重は、90キロにいくかいかないかだという。
「体重はもうちょっとあっていいかなと思いますが、そこはトレーニングして、栄養をしっかり摂っていくなかで増えればいいなと。増やそうというより、『やることをやっていれば勝手に増えるでしょう』というイメージですね」
来年2月に向けては、「もちろん今より体も大きくしたいですし、出力も上げたい」と、すでに明確なイメージを描けている。
「これも今年1年やってみて感じたことですが、春のキャンプでの投球量が、やはり少なかったのではないかと思っています。先ほどもお話ししたとおり、投げ込んだほうが自分の状態はいいと感じました。来春のブルペンからどんどんアピールできるよう、しっかり投げ込める準備をこのオフにやろうと考えています。来年は"元気に、大きく、強く"です(笑)」
【阪神戦の悔しさを晴らしたい】
奥川にはケガのイメージがついてまわるが、今年は春季キャンプで数日間の離脱があったものの、シーズン、フェニックス、秋季キャンプを完走した。復活の年となった昨年も、フェニックス、松山キャンプを最後までやりきった。
「今年、トレーナーさんに『体がパンパンになるくらいまで投げたほうがいいですね』と話したら、『それ、去年も言ってたぞ』と言われまして(笑)。でも、今しっかりやっておけば、シーズン中も無理なく練習量を増やせることが、今年1年取り組んだことで実感できました。
フェニックスと松山キャンプでは、『いい時はこうだったんだ』と感覚を思い出せた場面もありましたし、本当に来年が楽しみです。今年は阪神に負けまくりましたから(1勝4敗)、その悔しさも晴らしたいですね(笑)」
11月17日、松山キャンプは最終日も天気に恵まれ、マウンド上には首脳陣、選手、裏方が大きな輪をつくっていた。
「手締めは、ヤス(奥川)!」
池山隆寛新監督は、奥川を手締めの役に指名した。数日前、池山監督は奥川をフェニックスリーグとキャンプに参加させた理由について、「投げて覚えていくことを重視してほしい。そして、丈夫な体で来シーズンに臨んでくださいということです」と話した。
奥川は「朝から手締めの話をめちゃくちゃされていたので、準備はしてましたよ(笑)」と語り、ニコニコしながら一歩、二歩と前に進み出た。すると池山監督が「ヤスからの〜(西村)瑠伊斗!からの〜(北村)恵吾!」と続け、最終的には北村が手締めを務めた。チームが笑いに包まれるなか、奥川は笑顔で輪の中へ戻っていった。
「結果は(回避できて)よかったです。ああいうのはあまり得意じゃないんで(笑)」
フェニックスリーグと松山キャンプでの1カ月半、奥川は「投げることで、ちょっと思い出せた」と語ったが、野球の楽しさと笑顔もまた取り戻したように見えた。