2025年のJ1リーグもクライマックス。首位の鹿島アントラーズは優勝のプレッシャーの中で、苦しみながらも勝利した。勝点…

 2025年のJ1リーグもクライマックス。首位の鹿島アントラーズは優勝のプレッシャーの中で、苦しみながらも勝利した。勝点3を積み上げたわけだが、その大熱戦の裏側には、対戦相手である東京ヴェルディが披露したものも含めて、雌雄を決す「3つのマジック」があったという。サッカージャーナリストの後藤健生が、その瞬間を試合の経過とともに、詳らかにする!

■穏やかな顔つきだった「敗戦の将」

 ホーム最終戦のセレモニーを終えて記者会見場に現われた東京ヴェルディの城福浩監督は、0対1の悔しい敗戦の後だったにもかかわらず、穏やかな顔つき。試合内容に満足しているようにも見えた。

「やれることはやりました。今の持っている力は出せた……」

 いつもなら、敗戦後には目を充血させて、選手に対する叱咤激励の熱い言葉を繰り出す城福監督だが、この日は最後まで表情が穏やかだった。それはけっして、セレモニーがあったせいで、試合終了から長い時間が経過していたからだけではないように見えた。

 J1リーグ第37節。東京Vが優勝に王手をかけている鹿島アントラーズを味の素スタジアムに迎え撃った一戦は、期待を大きく上回る大熱戦となった。

 そんな大熱戦を生んだのは、いくつかの“マジック”によるものだった。

 まず、特筆すべきは東京Vの素晴らしいプレーぶりだった。中断期間中にチームを見事に立て直すことに成功したのだ。それが、「城福マジック」である。

■変貌を遂げた「中断期間後」の東京V

 J1リーグはYBCルヴァンカップ決勝や天皇杯全日本選手権大会、日本代表の活動などによる長い中断があった。東京Vの公式戦は11月8日のJ1リーグ第36節のアビスパ福岡戦(0対0)以来だった。

 J1復帰初年度の昨シーズンとは違って、今シーズン、東京Vはかなりの苦戦を強いられた。財政事情から経験の少ない選手や大卒新人、あるいはレンタル選手によってチームづくりをしなければならない東京V。選手が成長しても、翌年には選手がチームを離れてしまうというケースも多い。

 そんな経験の少ない選手を日々のトレーニングを通じて強化して、試合では真っ向から勝負を挑ませることで経験を積ませながら戦っていくのだ。選手層も厚くない。

 しかし、今シーズンはすでにJ1残留は確定させた。そのため、城福監督は長い中断期間を使って、しっかりパスをつないで攻めるためのトレーニングを重ねてきたらしい。中断期間を利用して選手ひとり一人がしっかりと力を発揮できるようにして、チームを立て直した城福監督の、これは「マジック」と呼んでもいいだろう。

■しっかりと「決定機」を作り続けた前半

 そして、その成果が如実に出たのが鹿島戦の前半の45分間だった。

 ロングボールを使って前線に当ててくる鹿島の攻撃に対して、東京Vの守備陣は激しく体を当てていった。3人のCB(右から宮原和也、林尚輝、谷口栄斗)の間の連係、カバーも良かった。この東京Vの激しい守備に対して、鹿島の選手たちの動きが止まり、思わずボールを下げてしまう場面も増えていった。その背景には、「あと2つ勝てば9年ぶりのタイトル」という重圧もあったのだろう。

 もちろん、鹿島にもチャンスはあったが、いずれも単発だった。

 東京Vはしっかり守備をするだけでなく、奪ったボールを丁寧にDF陣の間で回し、さらにボランチの森田晃樹平川怜につないだ。2人にも技術力があり、正確なパスで前線につなげた。

 東京Vは1トップに染野唯月を置き、シャドーには左に齋藤功佑、右に松橋優安を置いたが、齋藤は中盤に下りてパスをさばき、松橋は鹿島の守備ラインの裏に動く動きを繰り返すというように、役割分担もはっきりしていた。

 東京Vには失礼な言い方だが、弱者が強者に挑戦するこういう試合では、弱者がボールを握って攻めていても、なかなか決定機に結びつけられないという展開になりがちだが、東京Vはしっかりと決定機をつくり続けた。

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