勝てば官軍。この言葉を、サッカーの試合に当てはめてもよいものか。日本サッカーは現在、岐路に立たされている。サッカージャ…

 勝てば官軍。この言葉を、サッカーの試合に当てはめてもよいものか。日本サッカーは現在、岐路に立たされている。サッカージャーナリスト後藤健生が延長戦を含めて120分の激戦となった今年の天皇杯準決勝と、その周辺から日本のサッカー界の「危機」に警鐘を鳴らす!

■延長戦の「素晴らしい」2得点

 11月16日に第105回天皇杯全日本選手権大会の準決勝2試合が行われ、FC町田ゼルビアヴィッセル神戸が決勝進出を決めた。

 僕は東京・国立競技場の町田対FC東京の試合を観戦して帰宅したが、延長戦になってしまったので帰宅は夕方になった。なんとなくテレビを見ていたら天皇杯のニュースもやっており、延長戦に入ってからの町田の2ゴールが映し出されていた。呉世勲(オ・セフン)のヘディングでの落としに、走り込んだ林幸多郎がDFアレクサンダー・ショルツと競り合いながら足を延ばしてボールに触って、GK波多野豪の頭上を越すループシュートを決めた場面だ。追加点は前線で羅相浩(ナ・サンホ)がDFに囲まれながら持ちこたえたボールを受けた相馬勇紀がドリブル突破して、最後は呉世勲が決めた。どちらも素晴らしい得点だった。

 延長戦での決着。そして、素晴らしい得点……。これだけ見ていると、大接戦でとても面白い試合だったように見えた……。

 しかし、である。

 実際に国立競技場の記者席で見ていたのは、両チームともとても守備的な“凡戦”だった。

■まさに「決勝戦のような試合」

 もちろん、それは僕の主観である。だが、少なくとも僕の周囲の記者たちは口をそろえて「つまらなかった」と言っていた。むしろ、僕が「そこまで言わなくてもいいのに」と思うくらいの酷評だった。だが、その後、見かけたほとんどの記事は町田の守備の堅固さを称えたり、延長まで信じて走り切ったといった、勝った町田を称賛する内容のものだった。

 それって、フェイクニュースではないのか!

「つまらない試合だった」と思うのだったら、「つまらない試合だった」と書くべきだ。もちろん、どんな試合でもその中から見どころを拾いだして、その面白さを伝えるのもメディアのあり方なのではあるが……。

 もちろん、サッカーというのは勝つためにプレーするものである。「勝つ確率を上げるために守備的に戦うべきだ」と考えるなら、それを遂行すべきなのは間違いない。

 また、サッカーの世界には「決勝戦のような試合」という言葉がある。

 リーグ戦とは違って負けたら終わりのカップ戦では、両チームが慎重になりすぎて、つまらない試合になることが多い。そのことを表わす言葉である。

 町田とFC東京の試合は、まさにその「(準)決勝のような試合」だった。

■1週間前「国立競技場」で対戦

 昨シーズンはJ1昇格1年目に最後まで優勝争いに絡んだ町田だったが、今シーズンは現在6位でリーグのタイトル争いからは脱落している状況。クラブとして初めてのタイトル獲得のチャンスとなった天皇杯の重要度は非常に高い。

 一方のFC東京もリーグ戦では11位と出遅れており、久し振りのタイトルが是が非でもほしいところだ。

 さらに、ちょうど1週間前に同じ国立競技場で行われたJ1リーグ第36節で両チームは対戦していた。この試合では町田が数多くのチャンスをつくりながら決めきれず、最終盤の87分にカウンターからの失点で敗れてしまった。

 結果にこだわり、守備を重視する黒田剛監督としては許せない試合だったことだろう。そのため、相手のカウンターを警戒し、町田はふだん以上に慎重に試合を進めた。ウィングバックの裏を取られた前節の反省から、WBも引き気味で5バックと言ってもいいような時間帯も長かった。

 一方、FC東京のほうも、当然、前週と同様にカウンターを狙った。

 こうして、両チームともに慎重過ぎる、腰が引けた試合となってしまったのである。

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