南野拓実と堂安律のゴールで2点をマークし、守備では4試合ぶりのクリーンシートを達成して勝利を飾ったガーナ戦。日本にとっ…
南野拓実と堂安律のゴールで2点をマークし、守備では4試合ぶりのクリーンシートを達成して勝利を飾ったガーナ戦。日本にとっては結果のみならず、内容も上々だった。
サッカー日本代表は南野拓実(右)の先制ゴールなど2-0でガーナに快勝
photo by Kishimoto Tsutomu
「日本が攻守の切り替えに優れていることはわかっていたので、(中央で)ボールを奪われたくないと考えていましたが、やはりその中央でボールを奪われて一気にシュートをされるという展開になり、それによって最初の失点が生まれてしまいました」
試合後の会見で、敗軍の将となったオットー・アッド監督がそう振り返ったように、この試合の日本はトランジションの部分が際立ち、ガーナを圧倒。そこが、両者の明暗を分ける大きなポイントになっていた。
とりわけ9月以降に戦ったW杯出場国との強化試合では、アジア予選とは違い、日本の縦に速い攻撃が増加。今回のガーナ戦でも、その傾向がよく現れていた。
【縦に速い攻撃の回数と精度】
それを象徴しているのが、ボール奪取後からフィニッシュまでにかかった時間だ。
公式記録上にある日本のシュート13本のうち、セットプレーを除いたオープンプレーで記録したシュートは9本あったが、そのなかでボールを奪ってから10秒以内でシュートに至ったのは計6本。そのうち5本は、5秒以内のシュートだった。
アッド監督が言及した前半16分の南野の先制点も、ボールを奪ってからシュートまで9秒しかかかっていない。
中盤右サイドで縦パスを受けようとしたアントワヌ・セメンヨ(11番)に対し、谷口彰悟と佐野海舟がプレス。近くでボールを回収した堂安を起点にショートカウンターが発動され、谷口、佐野、久保建英、佐野と細かくつなぎ、佐野がドリブルで一気にスピードアップすると、見事なアシストで南野のゴールを生み出している。
また、後半に入って60分の堂安の追加点にしても、ボールを奪ってからシュートまでにかかった時間は13秒だった。
左サイドで鈴木淳之介が相手のパスをカットしたボールを中村敬斗がダイレクトで前線の上田綺世に縦パスを入れると、上田がワントラップして久保に展開。ガーナの素早い帰陣もあって一度はスローダウンするも、久保がタメを作ったことで、最後は右サイドからボックスに進入した堂安がフィニッシュ。速攻と遅攻的要素がアレンジされたゴールになった。
「ボールを奪ったら、まずは縦に速く攻める。それができなければ、両サイドの幅を使いながら、パスをつないでゴールを目指す」とは、これまで森保一監督がよく口にしてきたフレーズだ。しかし実際のところ、アジア予選の戦いでは相手がローブロックで守るシチュエーションがほとんどだったため、日本がボールを奪ってから縦に速く攻める回数はそれほど多くはなかった。
そういう意味では、来年のW杯本大会出場権を獲得したチームと対戦してきた9月以降の強化試合で、日本が縦に速い攻撃を見せるシーンが増加するのも当然のこと。今後も、その回数と精度はチェックポイントになりそうだ。
【デュエルでガーナを上回る】
こうしたポジティブ・トランジション(守備から攻撃への切り替え)とその後の速攻の威力を発揮させるためには、前からの守備を機能させる必要があるが、ガーナ戦の日本はその部分でも手応えを得た。特に前半は、敵将が「日本がハイプレスでくるのはわかっていたが、いいポジションが取れず、それを回避できなかった」と振り返ったように、ガーナにプレッシャーをかけ続けた。
この試合では、引き続き両ウイングバック(WB)にアタッカーを配置する3-4-2-1を採用した日本に対し、ガーナも同じ布陣を採用。両WBにDFを配置していた点は異なるが、各ポジションがマッチアップするミラーゲームを挑んできた。
W杯予選時は4-2-3-1を基本布陣としていたガーナだが、「今日はほとんど一緒にプレーしたことがないメンバーだった」とアッド監督が語ったように、数多くの主力選手が不在だった影響もあったのだろう。
いずれにしても、こうなると日本の守り方もシンプルだ。相手の3バックに対しては1トップの上田綺世と2シャドーの南野と久保が圧力をかけ、中盤は佐野と田中碧が相手のダブルボランチをマーク。WBを務めた右の堂安と左の中村はそれぞれ対峙する相手WBを、そして渡辺剛、谷口、鈴木の3バックはそのまま相手の1トップ2シャドーを捕まえた。
両チームががっぷりよつで組むかたちとなったわけだが、この構図で優位に立つためには、当然ながら各選手が対峙する相手との1対1の局面で上回る必要がある。そこに焦点を当ててみても、この日の日本はデュエルで「59%対41%」、空中戦においても「72%対28%」の勝利率を記録など、本来アフリカ勢が最大の武器としている部分でガーナを上回ることができていた(SofaScore調べ)。
特にこの試合で際立っていたのは、マン・オブ・ザ・マッチ級の活躍を見せたボランチの佐野と、相手唯一の主力選手であるセメンヨにまったく仕事をさせなかった谷口。ふたりは、試合後に敵将が名前を挙げて称賛するほどのハイパフォーマンスを披露した。
【ウイングバックにDFを入れる起用も】
ただし、後半になると、ガーナはビルドアップ時に右WBのカレブ・イレンキー(3番)が前に出て、逆サイドのWBデリック・アーサー・コーン(13番)が最終ラインに下がって"つるべ式"の4バックを形成。日本の前からのプレッシングを回避するための策を打ったこともあり、ガーナが日本陣内でプレーする時間が増加している。
それでも、この日のガーナは最後まで攻撃の糸口を見つけられず、ボール支配率は49.3%と、ほぼ互角の数字を残したものの、決定機と言えるようなシーンを作り出すことはできなかった。シュート数も、日本の13本(枠内7本)に対し、ガーナは5本(枠内3本)に終わっている。
もっとも、日本が自陣で守るシーンが少なかったため、自陣深い位置での両WBの守備という9月以降の強化試合で露呈した課題については、先送りとなった格好だ。
それ以外の収穫についても、9月に対戦したメキシコとアメリカ、10月のパラグアイとブラジルと比べれば、この日のガーナの総合力が数ランク低かったことは否めなかった。それだけに、両WBにアタッカーを配置する3-4-2-1が、W杯出場国レベルの相手にどこまで通用するかは、今回の試合では確認できる要素は少なかった。
それともうひとつ、この試合で注目しておきたいのが、後半途中から森保監督が両WBにDFを起用したことだった。68分に右WBの堂安に代わって菅原由勢が、75分の3枚代えによって鈴木が左WBに移動すると、5人のDFがピッチ上に立った。
もちろん、2点をリードしていたことと、次のボリビア戦のスタメン編成との兼ね合いもあったはずだが、これはW杯本番でも十分に考えられる選手起用と見ていいだろう。
この試合では確認できるようなシチュエーションは少なかったが、5人のDFを同時起用する3-4-2-1の場合、自陣で5バックになって守る時にどのような現象が起こるのか。この部分についても、本番に向けた強化試合のなかで確認すべきポイントになりそうだ。