「あ、お久しぶりです」今月12日にスタジアム広島で開催されたトライアウトのミックスゾーン。筆者の質問に顔を向けた彼は、そ…

「あ、お久しぶりです」

今月12日にスタジアム広島で開催されたトライアウトのミックスゾーン。筆者の質問に顔を向けた彼は、そんな挨拶をした後、人差し指で敬礼した。

 彼の名は又吉 克樹。主に右のサイドハンドリリーバーとして中日ドラゴンズで8年。FA移籍した福岡ソフトバンクホークスで4年間プレーし一軍503試合登板で47勝32敗11セーブ173ホールドという輝かしい実績をあげた。

 プロ入り前には西原、環太平洋大を経て2013年に四国アイランドリーグplus・香川オリーブガイナーズで13勝4敗、防御率1.64という圧倒的な成績で現在も独立リーグ出身者最上位タイとなっているドラフト2位指名。さらに2015年春には侍ジャパントップチーム入り。2017年秋には「ENEOS アジア プロ野球チャンピオンシップ」のオーバーエイジ枠として再び侍ジャパントップチーム入りし、優勝に貢献したサクセスストーリーは実に見事なものだった。

 よって四国の地で「又吉 克樹」の名は2013年WBC侍ジャパンメンバー入りを果たした千葉ロッテマリーンズ・角中 勝也(日本航空第二ー高知ファイティングドッグス)と並び、レジェンドとして語り継がれている。

 環太平洋大4年秋にはじめて又吉と出会い、独立リーグ時代は何度も取材を重ね、彼の常に発し続ける気迫と細部に渡る技術論に舌を巻いていた筆者だが、振り返れば取材で接するのは2017年秋の侍ジャパントップチーム宮崎合宿以来。ただ、いい意味で「構想外になってからここに向けてやってきた」又吉のトライアウトでのマウンドは「あの時」と同じままだった。

 NPBでの12年間でも生命線となったインコース攻めで相手打者の特徴を把握し、打ち取るイメージを体現。2番目の打者には「シュートが曲がり過ぎた」と四球になったものの、残る2人の打者を三塁フライ、二塁ゴロに打ち取った点は流石の35歳・熟練の技である。

 筆者が冒頭で投げかけた質問は「ある意味、独立リーグ時代のハングリー精神を思い出すこともあったのでは?」。又吉の答えはこうだった。

「2013年の7月に四国アイランドリーグplus選抜チームで東京に行って、(イースタンリーグ選抜の)フューチャーズと交流試合をした雰囲気と似ていました。後ろにスカウトがいて、いかにどうアピールすることだけを考えていたことを思い出しましたね。あの時の感覚に似ているな、と。まさか12年ぶりに同じような状況になるとは……。やることはやった。やりきれたと思います」

 今後については「いけるところまでいってみようと思っています」と言いつつ「まずは福岡に戻って考えます」と笑った又吉。NPB入り前のマインドを忘れぬサイドハンドは、これからも求められる場所で全力で取り組む姿勢を貫いていくことだろう。