【人生で初めてのスピン0点】 11月7日、フィギュアスケートのGPシリーズ・NHK杯は男子シングルショートプログラム(S…
【人生で初めてのスピン0点】
11月7日、フィギュアスケートのGPシリーズ・NHK杯は男子シングルショートプログラム(SP)が行なわれた。最終滑走だった鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大)は演技後、「ただ呆然としている自分がいます」と苦笑いを交えて話した。
「記憶にあるなかでは初めてのミスで、リンクから上がった瞬間に父(正和氏)にめちゃくちゃ笑われて。自分も笑っていいのか、笑っちゃダメなのか、ちょっとわからない感じで複雑でした」
11月7日、NHK杯ショートプログラムでスピンにミスがありながらも首位発進した鍵山優真
曲の音を丁寧に拾いながら滑り出した鍵山は、最初の4回転トーループ+3回転トーループをしっかり決めると、次の4回転サルコウも成功させて安定感があった。だが、そのあとのフライングキャメルスピンでまさかのミスをしてしまい、0点という判定になったのだ。
「スピンの入りでエッジの引っかかりがうまくいかなかった。変なところで引っかかってしまい、最初のキャメルポジションで全然回らなくて。修正のきかないミスだったのでどうしようもなくて足替えのキャメルになってなかったから、(判定は)ちゃんと0点でした」
その瞬間はすごく混乱し、「何が起きているのか」理解できなかったという。そのあとのトリプルアクセルは決めたものの、終盤のステップシークエンスでもスケートがスリップしてバランスを崩すミスをした。
「父には『初めて見た』と言われたけど、僕も初めて『やっちまった』と思って......。でも会場に来る前に、まったく同じミスを一回やっていて。その時は『焦り過ぎ』と言われていたけど、今日はたぶん、逆に慎重になりすぎて中途半端な部分で引っかかってしまったので、そこがうまくいかなかったのかなと思いました。
ジャンプはすごくリスクのある要素だけど、スピンやステップというのはそれと違ってできて当たり前だと思っている。そこで失敗することを想定していなくていかにレベルとGOE(出来ばえ点)を取れるかという部分で練習してきたので、『あれっ?』って。ステップでバランスを崩したのも、重心が下へいかず、少し上に行きすぎたのかなと思う」
「絶対にやってはいけないところでミスが出てしまった」と話した鍵山は、ジャンプでのミスよりも「悔しさが大きい」という。それでも得点は98.58点で1位発進とした。
「演技が終わってからは(ミスをした)『スピン、スピン、スピン』という思いが大きすぎて点数はもうまったく意識できなかったけど、やっぱりミスしたから100点に届かなかった。今回のショートは自己ベスト(108.12点/2022年北京五輪)を目指して練習してきたけれど、細かい部分の点数の積み重ねというのはすごく大事だなと肌で感じたし、ジャンプ以外の部分をしっかりと落ち着いてやらなければいけないなと思いました」
【ライバルの躍進にも焦らず、自分のペースで】
痛いミスをしたものの、それを振り返る鍵山の表情には、落ち着いた雰囲気があった。この落ち着きこそが、今季の鍵山の特徴のひとつだ。
GPシリーズはNHK杯が初戦という遅めのスタート。このあと、11月下旬のフィンランド杯、GPファイナルを経て12月の全日本選手権まで中1週で4連戦というタイトなスケジュールが控えている。
GPシリーズでの他の選手の結果について、鍵山は「自分の練習を必死に頑張っていたので結果だけ追って『ああ、そうなんだ』と見ていただけ。焦ることもまったくなく、自分自身のペースでNHK杯へ向けて練習してきました」と話す。
さらに、すでに2勝してGPファイナル進出を決定しているイリア・マリニン(アメリカ)が、スケートカナダのフリーで歴代世界最高得点の228.97点を出したことに対しても、冷静に捉えている。
「とくに気にすることもなく『ああ、またやってる』という感じ。でも、やっぱり同じカテゴリーで戦っているので意識せざるを得ないのは正直なところだし、大きな壁だと思います。自分自身はプログラムの完成度や構成もまだまだ上げていける段階ではあるので、しっかり追究していけば結果も少しずつ上がってくるのかなと思っています」
今回ミスをせず、しっかり加点をもらったジャンプについてはこう分析する。
「どのジャンプもちょっと耐えながら降りたなという感触だった。いつもの練習だともっといい流れで跳べているし、実際、サルコウも今まで4点台の加点を取れていた部分もあったので、今回の3.74点はもう最低限かなと思っている。フリーに向けて、しっかり切り替えて頑張りたいと思います」
競技人生初めてのスピン0点というミスに悔しさを感じながらも、それを素直に受け止めて次へのステップにしようと、落ち着いた姿勢の鍵山。そんな「落ち着き」こそ、今季の鍵山の強みになるはずだ。