<令和7年度 秋季東京都高等学校野球大会:帝京3―0日大三>◇2日◇準々決勝◇スリーボンドスタジアム八王子 今年の秋季都…
<令和7年度 秋季東京都高等学校野球大会:帝京3―0日大三>◇2日◇準々決勝◇スリーボンドスタジアム八王子
今年の秋季都大会は雨天の日が多く、観客は少ない日もあったが、準々決勝は天候に恵まれた。準々決勝最後の試合は、帝京・日大三の強豪対決とあって内野のスタンドはほぼ埋まり、外野の芝生席にも大勢の人が観戦した。9回表の日大三の攻撃も二死。途中出場の川中 遥稀外野手(2年)の痛烈なライナーを帝京の遊撃手・木村 成良(1年)が好捕した瞬間、観客から歓声とともに驚きの声を上がった。
この夏の甲子園で準優勝した日大三が敗れた。それも強打の三高が完封で敗れたとあって、その衝撃はさらに大きかった。完封勝利を成し遂げたのは仁禮 パスカルジュニア(2年)だ。1年生の春季関東大会にベンチ入りし、早くからその存在は知られていたが、夏までは短いイニングを投げるだけだった。この秋から背番号1になったが、1回戦の専大付戦に先発して7回を投げて自責点2という成績。2回戦、3回戦は登板の機会がなかった。しかし金田 優哉監督は準々決勝の日大三戦に先発に起用した。
身長187センチの長身の左腕。しかし速球投手ではない。やや変則な投げ方からチェンジアップやカーブを多投し、球場のスピードガンも100キロ前後を表示することが多く、遅すぎて表示されないこともあった。「初見では打ちづらいと思います」と金田監督は言う。
2回表、この回の先頭打者である日大三の6番・松下 寛大朗内野手(1年)に二塁打を打たれピンチを迎えるが、後続の打者に対し左翼手・蔦原 悠太(2年)の好捕もあって、得点を与えない。
先取点は仁禮のバットから生まれた。2回裏一死二塁で9番・仁禮の打球は左中間を破る三塁打となり、二塁走者の池田 大和内野手(2年)が生還した。「監督から真っ直ぐを打てと、言われていました」と仁禮。真っ直ぐのタイミングに合わせて振った打球が伸びて先制打になった。
それでも日大三には甲子園で2本の本塁打を放った強打者の田中 諒捕手(2年)がいる。「怖かったです」と仁禮は言う。4回、田中が放った打球は、センターのフェンス近くまで伸びたが、中堅手の目代 龍之介(1年)が捕球する。仁禮の球が遅い分、最後のひと伸びが足りなかった。
強打者に遅い球を投げるのは勇気がいることだが、仁禮はバックの守りを信じて遅い球を投げ続け、内外野とも野手が好捕でそれに応えた。
5回裏帝京は二死一塁から5番・木村のレフトへの打球を、太陽のせいか、日大三の左翼手が打球を見失い二塁打となって、追加点を挙げた。
日大三も次第に仁禮の球にバットが合いはじめ、7回表には連続安打も出たが、金田監督は「(相手は)代えない方が嫌だと思います」と考え、仁禮を続投させた。7回表のピンチも鈴木 優吾捕手(1年)の好捕などがあり、無失点が続く。8回裏はその鈴木の適時二塁打で1点を追加する。
そして9回表日大三は、この回先頭の2番・福井 理仁外野手(1年)の左前安打に続き、3番・田中は四球で一、二塁のチャンスをつかむ。しかし左翼手の蔦原、一塁手の安藤 丈二(2年)、遊撃手の木村と好守が続き無得点。帝京が3-0で日大三を破った。
仁禮は9回を投げて投球数は107。被安打6、四死球2、奪三振2で無失点。「完封は初めてです。気持ちがいいです」と仁禮は語る。「半信半疑の部分はありましたが、しっかり投げてくれました」と金田監督も評価する。
仁禮は父親がナイジェリア出身で母親は奄美大島の出身で本人は名古屋出身。愛知守山ボーイズの監督が帝京の出身で、帝京野球部の環境に憧れて入学した。野球に限らず大半のスポーツはパワーとともに、体のバランスが重要だ。そうしたこともあり体の大きい選手は、育成するのに時間がかかる。けれどもしっかり育成すれば、可能性は広がっていく。仁禮はいま、その途上にある。それだけに、今大会のみならず、これからの成長が楽しみだ。
夏の甲子園準優勝校の日大三の敗戦という結果になったが、両チーム無失策の締まった好ゲームだった。勝った帝京は、準決勝で試合巧者の国士舘と対戦する。