■「樹と田和のどちらを最後にするかは、主将の小澤に委ねました」 東京六大学野球秋季リーグは2日、早大が慶大2回戦に3-0…

■「樹と田和のどちらを最後にするかは、主将の小澤に委ねました」

 東京六大学野球秋季リーグは2日、早大が慶大2回戦に3-0で勝ち、2連勝で2位を確定させ全日程を終えた。今季は天皇杯を明大に奪われ、リーグ史上最多タイ記録の「4連覇」に届かなかったが、最後の試合では楽天からドラフト2位指名されたエース・伊藤樹投手(4年)が8回、巨人2位の守護神・田和廉投手(4年)が9回を、1イニングずつ締めた。

 勝てば、4年生にとって自動的にラストゲームとなる試合。早大の小宮山悟監督は開始前、「これは4年生のための試合だ。3年生以下は4年生のために戦ってくれ」と求めたという。

 もともとレギュラー野手8人中、4番の寺尾拳聖外野手(3年)以外は全員4年生。しかし、そんな指揮官にとっても、前日(1日)の1回戦に先発し8回を114球で2失点に抑えていた伊藤樹が、リリーフでの連投を志願してきたことは想定外だった。

 小宮山監督は「(伊藤)樹はベンチから外そうかとも考えていたほどです。球場に来てから、『樹が投げたいと言っています』と聞かされました。『投げたいといっても、負ければ明日も(3回戦が)あるんだよ?』と返しましたが、『それを承知で、最後に投げたい』と。結局、樹を最後にするか、田和を最後にするかの判断は、主将の小澤(周平内野手=4年)に委ねました」と経緯を明かした。そして小澤主将の判断で「最後はいつも通り(クローザーを務めてきた)田和、樹は8回」と持ち場が決まったのだった。

 先発のマウンドに立った髙橋煌稀(こうき)投手(2年)は、宮城・仙台育英高時代から伊藤樹の2年後輩である。184センチの長身から投げ下ろす速球の威力と精密なコントロールで、慶大打線に得点を許さない。6回3安打無失点で見事に役割を果たした。

 一方、打線は3回に相手投手の暴投で先制すると、6回には無死二塁の好機に3年生の4番・寺尾が右翼線に適時打。攻守で主力を占めてきた4年生がごっそり抜ける来年も、十分戦っていけることを証明するような頼もしい下級生の活躍であった。

早慶2回戦でリーグ戦初ヒットを放った早大•清宮【写真:加治屋友輝】

■正真正銘最後の打席でものにしたチャンス「同期が泣いてくれたことが…」

 4年生たちにとって感動的なシーンが、3-0とリードして迎えた8回2死走者なしの場面で訪れた。日本ハム・清宮幸太郎内野手の弟・福太郎外野手(4年)が代打で登場したのだ。東京・早実高時代は通算20本塁打の右のスラッガーとして知られていたが、早大進学後は伸び悩み、最終学年を迎えた今春にようやくリーグ戦デビューを果たしたものの、これまで通算5打数無安打。これが紛れもなく、神宮球場のスコアボードに「H」ランプを灯す最後のチャンスだった。

 初球の外角のストレートを迷わず振り抜く。弱い当たりだったが、打球は右前にポトリと落ちた。正真正銘、最後の打席で生まれたリーグ戦初安打。すぐに代走を送られた福太郎はベンチに戻ると、涙を浮かべて出迎えた同級生のチームメートたちと次々に抱擁を交わし、自身の頬にも熱いものがつたった。「(初安打が)もうちょっと早く出てくれていたら、もっとうれしかったですが、最後に出るあたりはついているなと思いました。同期が泣いてくれていたことが、うれしかったです」と声を詰まらせた。

 小宮山監督は「他の4年生によると、(福太郎は)常に人一倍声を張り上げて、一生懸命チームに貢献してきたそうです。今季、私が福太郎をベンチから外し、他の選手を入れよう思ったことが何試合かありましたが、4年生の学生コーチから『福太郎を入れてください』と進言されて、やめました。仲間たちが、なんとか彼をすくい上げようとしていました」と説明する。チームメートに愛される福太郎の人柄が、そこはかとなく伝わってくるエピソードだ。

 そして指揮官は「私が監督を7年間務めてきた中で、一番仲のいい4年生だったという印象です」と付け加え、温かな笑みを浮かべた。

 こうして迎えた8回の守備は、伊藤樹が1安打を許したものの、3アウト全てを三振で奪い無失点。9回も田和が1安打無失点、最後の打者を空振り三振に斬って取った。伊藤樹は「来年は(髙橋)煌稀が柱になって投げていかなくてはいけないと思います」と“エースの矜持”を後輩に託した。

 昨春から今春にかけて3季連続優勝を果たした早大。目指した4連覇には届かなかったが、新たな挑戦はもう始まっている。