■宿敵を相手に8回2失点「慶応には負けられないという気持ちでした」 東京六大学野球秋季リーグは1日、早大が慶大1回戦に5…
■宿敵を相手に8回2失点「慶応には負けられないという気持ちでした」
東京六大学野球秋季リーグは1日、早大が慶大1回戦に5-3で先勝。エースで楽天からドラフト2位指名された伊藤樹(たつき)投手(4年)が8回を2失点に抑え、大学通算22勝目を挙げた。4年間手塩にかけて育てた小宮山悟監督は、万感の思いで見守った。
「今季はこれまでの投球が本当にふがいなかったので、最低限ゲームをつくり、チームを勝ちに導くことだけはしたいと思って投げました。優勝の可能性はありませんでしたが、慶応には負けられないという気持ちでした」と伊藤樹。
今季は既に明大の優勝が決まり、早大の4季連続優勝への挑戦は潰えていたが、伝統の早慶戦の雰囲気はやはり格別だった。小宮山監督は「4連覇を掲げて臨んだシーズンで優勝の可能性がなくなり、ちょっと気の抜けた空気が蔓延して心配していたのですが、実際に神宮に来て慶応のユニホームを見たら、ふつふつと沸き上がるものがあったようで、いい試合になったと思います」と評した。
そんな中、ドラフト後初登板の伊藤樹は持ち前の制球力と頭脳的な投球で要所を締めていく。3回には先制打を許し、次打者にも四球を与え、2死満塁のピンチを招いて4番・常松広太郎外野手を右打席に迎えた。しかし「カットボールの調子が良く、左打者も右打者も嫌そうにしていたので多投した」そうで、カウント2-1から外角低めの変化球を2球続け、いずれもバットに空を切らせて三振に仕留めた。
今季は3勝2敗、防御率3.67(1日現在)。6勝1敗、同1.80だった昨秋、6勝無敗、同2.44を誇った今春に比べて数字を落としているのは、入学当初から「1位で指名されること」を目標に掲げてきたプロ野球ドラフト会議が目の前に迫っていたことと無関係ではないだろう。「正直言って、緊張して、夜もいろいろ考えてしまって眠れないことがかなりありました。(10月23日にドラフト会議が終了し)安心したのか、普通に寝ることができるようになりました。いろいろな方に喜んでいただいて、早慶戦に向けて頑張ろうという気持ちがなれました」と吐露した。

■見守り導いた4年間振り返り「あえて言わず気付かせることが大事」
宮城・仙台育英高3年の春、エースとして選抜大会8強入りの実績を持っていた伊藤樹は、早大進学後、1年生の春から神宮デビューを果たし、3年生の春からは押しも押されもせぬエースの座にのし上がった。
一方、小宮山監督は自身も早大在学中に通算20勝を挙げ、1989年ドラフト1位でロッテ入りしているだけに、自分が大学時代に残した詳細な記録を手渡し、プロを意識する伊藤樹を刺激してきた。
「俺より能力ははるかに高い。何せコントロールがいい」。小宮山監督は今、こう称賛を惜しまない。「ただ、俺の時に比べると打線の援護がある。点を取られないようにしようという気持ちは、俺の方が強かったと思う。何せ俺は2〜3点取られたら負けだと思って投げていたからね」とも。
その上で、「(伊藤樹は)1年生の頃から試合で投げ始めて、いろいろな経験を積んできた。楽天がどういう風に使うのかはわからないけれど、ああしてくれ、こうしてくれというリクエストに応えられるレベルだと思う」と自信を持って送り出す。
さらに4年間を振り返り、「余計なことはしないように心がけました。ああしろ、こうしろと言うのは簡単ですが、それをあえて言わず、気付かせることが大事だと思っているので。実際、プロに行くにはどうしたらいいのかを含めて、自分で考えて成長してくれました」と胸の内を明かした。
伊藤樹もそこは承知の上で、「本当に早稲田に育てていただきました。応援してくださる方々がいて、小宮山監督の指導があってこその(今春までの)3連覇だったと思いますし、僕自身も早稲田に来ていなければ、ここまでになっていなかったと思います」と感謝を口にした。
9回には、こちらも巨人から2位指名された田和廉投手(4年)が登板し、1点を失ったものの試合を締めくくった。「最後なので、樹が投げて、田和が最後を締める……4年生のリレーでいければと考えていました」という小宮山監督の描いた通りの展開で、早大が宿敵・慶大に先勝した。