■2日前に行われたドラフト会議の会場から“吉報”は届かなかった 東京六大学野球秋季リーグは25日、すでに今季最下位が確定…

■2日前に行われたドラフト会議の会場から“吉報”は届かなかった

 東京六大学野球秋季リーグは25日、すでに今季最下位が確定している東大が法大1回戦に5-2で先勝。4日の慶大1回戦に続き、今季2勝目を挙げた。プロ志望届を提出しながら、2日前(23日)のプロ野球ドラフト会議で無念の“指名漏れ”となった渡辺向輝投手(4年)と酒井捷(すぐる)外野手(4年)がそろって活躍し、東大にとっては2017年秋以来、8年ぶりとなる勝ち点奪取に“王手”をかけた。

 東大は先発の左腕・松本慎之介投手(2年)がパワフルな法大打線を相手に、7回1失点(自責点0)の快投。過去最多の99球を上回り115球を投じた松本慎の奮闘こそ、客観的に見れば一番の勝因だった。しかし、2年生の働きを勝利へと結びつけた4年生2人の活躍は、さらに味わい深い。

 まずは酒井だ。2年生だった2023年の秋に、打率.316をマークしてベストナインに選出され、この頃にプロ入りの志を立てた。ところが3年生の春、鹿児島キャンプ中に右膝前十字靭帯断裂の大怪我を負い、同年の春季リーグを棒に振ってしまう。昨秋から戦列に復帰したが、今春は打率.088(34打数3安打)、今季も試合前の段階で.091(22打数2安打)。9月にプロ志望届を提出したものの、すっかり輝きを失っていた。

 そんな酒井のバットが、ドラフト会議が終わった途端、久しぶりに火を噴いた。2回に右翼線二塁打を放つと、3-1とリードして迎えた5回2死一、二塁の好機には、右中間を破る2点二塁打。リードを広げ、勝利をぐっと引き寄せた。7回にも中前打を放ち、4打数3安打2打点を記録したのである。

 これまで重圧と1人で戦ってきたのだろう。試合終了後の会見に呼ばれた酒井は、腰を下ろすなり、両目からぽろぽろと涙を流し始めた。言葉を詰まらせながら「ずっと忘れていた景色というか、2年生の時に見たような景色を見られて、よかったです」と絞り出した。涙の理由は「本当にしんどかったなと……それだけです」と表現した。

法大1回戦で3安打2打点の活躍をした東大•酒井捷【写真:加治屋友輝】

■「すんなり気持ちを切り替えられたわけではありませんが…」

 ドラフト会議で指名されなかったことについては、「正直言って期待できるような成績を出せていなかったので、そういうものだと思っていました。ただ、区切りとしてプロ志望届は出しておきたかった。自分が挫折したことというか、“負け”をしっかり目に焼き付けることができました」と吐露した。

 一方、元ロッテ投手でNPB通算87勝の渡辺俊介氏を父に持つ渡辺。昨秋の途中から東大エースの座にのし上がり、今年6月の侍ジャパン大学代表候補合宿に呼ばれたことをきっかけに、プロ志望届提出を決意した。父・俊介氏と同じ右のアンダースローで、ファンからも熱い視線を浴びることになったが、ドラフト会議当日に“吉報”は届かなかった。

「これから何年も野球を続けられるか、続けられないかの分かれ道だったので、すんなり気持ちを切り替えられたわけではありません。でも、指名されない覚悟は十分していたので、受け入れることはできました」と淡々と振り返る。この日は4点リードの8回からリリーフでマウンドに立ち、2イニングを1失点でしのぎ切った。

「すぐる(酒井)が先にプロ志望届を出すと口にしていなかったら、僕も出していなかったかもしれません」と、渡辺は感慨深げに、隣に座る酒井へ視線を送った。

 2人とも野球には今季限りで区切りをつけ、渡辺は来春から一般企業に就職。酒井は留年という形を取って大学に残り、来年改めて就職活動を行い、同じく一般企業に進むつもりだと言う。

 その前に、東大にとって8年ぶりの勝ち点奪取という大チャンスが訪れた。酒井は「4年生のみんなの頑張ってきたことが、報われたらいいなと思います。自分も何か1つでも力になりたいです」と力を込める。渡辺はこれに笑顔を浮かべ、「もう最後なので、怪我をしてもいい。いつでも、いくらでも投げます」と請け合った。