J2リーグも残り5試合。第33節、首位の水戸ホーリーホックが3位のジェフ千葉に敗れ、首位を陥落した。『サッカー批評』で…
J2リーグも残り5試合。第33節、首位の水戸ホーリーホックが3位のジェフ千葉に敗れ、首位を陥落した。『サッカー批評』では、悲願のJ1昇格へと気合いを入れ直した水戸・森直樹監督を支える林雅人コーチを直撃。2025年に水戸へと加入した林コーチは、日本体育大学を卒業後、オランダで選手として、コーチとして活躍。その後、中国女子プロリーグ1部の監督、FC今治のアカデミーダイレクターなどを務めた後、現在、水戸で「攻撃担当コーチ」として活躍している。
J1リーグ昇格に向けて多忙を極める林コーチに、一般的には、そこまで知られていない「攻撃担当コーチの役割」も含めて、水戸ホーリーホックの「攻撃面」、そして「現在地」について語ってもらった! 第2回は、林コーチが今季のチームに植えつけた「縦へのサッカー」の意識から!(全3回/第2回)
■「今のままじゃ勝てない」不安の中からのスタート
――10月21日現在、勝ち点61、17勝6敗10分、1位のV・ファーレン長崎と勝ち点差1の2位につけています。今季、水戸に呼ばれた際に、こんなにも勝ち点を重ねて、残り5試合で2位にいると想像できましたか?
林 まったくなかったですね。今のままじゃ、勝てないかもしれない。そうした不安の中から始まりました。おそらく誰も、今の成績を予想していた人はいなかったと思いますよ。
――具体的に何が変わったのでしょうか? 昨シーズンは在籍していなかった林コーチに、今シーズンとの比較を聞くのは難しいと思うんですが…。
逆に、今シーズン通して、やられていることを聞いたほうがいいかもしれませんね。昨シーズンも水戸の試合を見てきた私が、林コーチの言葉の中に「違い」のヒントを見ることができるかもしれません。
林 そうですね、どうなんでしょうね。僕は去年いなかったので、その部分は、去年もいた人に聞いたほうがいいかもしれません。西村卓朗GMや森直樹監督にうかがったほうがいいと思います。
――西村GMにはこの後インタビューをするので、そのときに同じ質問をしてみます。では、シーズンを通してトレーニングなどでやられていることはなんでしょうか?
■縦へのサッカーを推奨「前に出せなかったら“運べ”」
林 僕が推奨するサッカーは「縦へのサッカー」です。ボールを奪った後に、得点する機会が増えていますよね。守備から攻撃へとつながった後を強化した点が大きいのかと思います。
――昨年までの水戸は、私が見ていてですが、ボールを奪ったらボールをつなごうとする傾向が強かった。今シーズンも、ボールを奪われたら、すぐに奪い返しにいく「プレスバック」は相変わらず激しいですね。
林 守備の部分は森監督が担当しているので、昨年と同様に激しくやっていると思います。僕は攻撃を担当しているので、ボールを奪ってから、どうやって攻めていくのかについて、チームに落とし込む仕事をしていると言えばわかりやすいかもしれません。
――そこに今季の水戸の躍進のヒントがあるのかもしれませんね。
林 僕が選手全員に言っていることは、奪った後に、ボールを保持するやり方をしていたら、「そんなことやってないでゴールへ行け」と伝えているんです。
――8月23日の第27節のサガン鳥栖戦で、FW齋藤俊輔が36分に先制点をあげたシュートシーンがありました。
相手からボールを奪ってインターセプトした齋藤が自らドリブルをしてシュートを決めた。その際に、渡邉新太が右から左に動き出して、相手ディフェンダー(以後、DF)の間に走って裏に抜けようとする。
鳥栖のDFは渡邉の動きにつられてしまって、ドリブルして向かってくる齋藤へのプレスが一歩遅れる。シュートスペースができた齋藤は迷いなく右足を振り切る。こうした場面を、今季はしばしば見かけることがありますね。
林 あのシーンが今季の水戸の攻撃を物語っています。選手全員に言っていることですが、「奪ったらゴールへ向かえ」と。
後ろの選手がボールを持った選手を追い越していく。それはトレーニングからずっと継続していることです。ボールを奪った選手がボールを前に出す。それを狙わない選手がいたら指摘しますし、それを狙わない選手は試合に出られません。もし、前にボールを出せなかったら「運べ」と。
それが齋藤のシュートにつながったのかもしれません。運んだ瞬間に前の選手には「道を開けろ」と言っているんです。カウンターの仕方までトレーニングで丁寧に落とし込んでいます。
■ボールが基点へ「周りの選手はとにかく走れ!」
林 齋藤がシュートに入る前に、言われた通り、渡邉が右から左にディフェンダーの裏に抜けるように動いたんです。ディフェンダーが齋藤へのプレスに遅れた。あれで齋藤のシュートコースが作られたのでシュートを打てた。
つまり「プルアウェイ」や「ダイアゴナルラン」ですね。それは毎週、練習の中に取り入れて反復しています。これをスリーポイントカウンターと呼ぶんですが、それがうち(水戸)の特徴です。
――「スリーポイントカウンター」ですか。行為を言語化して選手に共通認識を作ることは重要なことですね。
林 ちょうど8月30日の第28節の山口戦で、後半39分に久保征一郎が左足でシュートした場面があったんです。
インターセプトしたボールをすぐさま前にパスを出してシュートにつながった。あの場面が「スリーポイントカウンター」の流れですね。
――ありましたね、その場面。ボールを奪った選手が「ボールを前に出す」。もしもボールを出せなかったら「自ら運ぶ」。バイタル前までボールが運ばれたら、その選手のために「道を開ける」。この攻撃パターンを反復してトレーニングに落とし込んでいく。なるほどね。
林 前への推進力とボールを持った選手を追い越して数的優位を作る。そうした攻撃に関するイメージは常に持っています。
相手陣内でボールを奪った際に、基点を置かなくてはならないんです。それをサイドのプレーヤーに置いていて、そこにボールが入ったら周りの選手がとにかく走れ、と。
基点になった選手が相手を引き出している中で、走っている選手は裏に抜け出せ、と。クロスも狙いどころと入る場所を明確にして、徹底してトレーニングの中でやっています。
――実際に鳥栖は、水戸の基点となるサイドを潰しに来ていましたね。サイドにボールが出されるのを予測してインターセプトを何度も試みてきた。相当に分析してきていますよね。
では今後、再び首位を奪還するために、もしくは下位のチームの追撃をかわすために、どうやって戦っていこうと考えていますか?