はじめに糖尿病は、私たちの体に「高血糖状態」が慢性的に続く病気です。しかし、どの段階で「糖尿病」と診断するか、その基準に…
はじめに
糖尿病は、私たちの体に「高血糖状態」が慢性的に続く病気です。しかし、どの段階で「糖尿病」と診断するか、その基準には歴史的な変化があります。近年では、血糖値だけでなく HbA1c(ヘモグロビンA1c) を用いる診断基準が国際的に取り入れられ、日本の診療ガイドラインにも反映されています(糖尿病診療ガイドライン2024など) 。
この記事では、現行の診断基準・その変遷・注意すべき点をわかりやすく解説します。
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1. 現行の診断基準 — 日本および国際基準
日本(日本糖尿病学会・診療ガイドライン2024)
日本では 2024年版のガイドラインで、次のうち いずれか1つ が糖尿病型と判断されるとされています。
1.空腹時血糖値 ≥ 126 mg/dL
2.経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間後血糖値 ≥ 200 mg/dL
3.HbA1c ≥ 6.5 %(ただし他の血糖基準と併用すべき)
4.随時血糖(いつでも測定した血糖値) ≥ 200 mg/dL + 高血糖症状がある場合
ただし、典型的な高血糖症状を伴う場合は、1回の検査で確定診断とすることも可能と規定されています。再検査の必要性はケースによります。
国際/米国基準(ADA 他)
国際的には、以下の基準がよく用いられています。
・空腹時血糖(FPG) ≥ 126 mg/dL
・OGTT 2時間値 ≥ 200 mg/dL
・HbA1c ≥ 6.5 %
・随時血糖 ≥ 200 mg/dL + 高血糖症状あり
これらの基準は、日本基準と大部分で一致します。ただし、HbA1cを診断基準に正式に取り入れるかどうか、その活用法には国やガイドラインによって違いがあります。
2. 診断基準の変遷と最近の見直し
■HbA1cの導入
過去には血糖値のみで診断する基準が主流でしたが、2009年以降、国際的な議論を経て、HbA1c ≥ 6.5 % を診断基準の一つに加える流れが強まりました。
この導入により、一時の血糖変動の影響を受けにくい平均血糖を反映できるようになりました。
■空腹時血糖の正常域見直し
日本でも以前は空腹時血糖の上限を 110 mg/dL とする考え方がありましたが、その後 “正常高値” の範囲を 100~109 mg/dL とするよう見直されました。
■再検査要件の整理
昔は「2回以上の陽性検査」が必須とされることが多かったのですが、現在では 典型症状を伴う高血糖値が確認された場合は1回で確定 とする基準も認められています。
■最近の調整点
最新ガイドラインでは、HbA1c と他の血糖基準を組み合わせて診断することの重要性が強調されています。つまり、 血糖値単独でも HbA1c 単独でも不十分 と考える方針です。
また、測定精度の変動や貧血・腎機能異常・輸血など HbA1c に影響を与える因子にも注意という記載があります。
3. 診断時に注意すべきポイント・限界
・HbA1c の影響因子:貧血、腎機能低下、赤血球寿命異常などが HbA1c を誤判定させる可能性があります。
・空腹・OGTT検査の環境依存性:食事制限状況や検査準備が結果に影響を与える。
・境界型(前糖尿病)との扱い:空腹時血糖 100–125 mg/dL や HbA1c 5.7–6.4 % は前糖尿病(糖尿病予備軍)として扱われ、将来的な発症リスクが高いとされます。
・典型症状を伴わない高血糖:自覚症状がなくても検査で陽性になる例が多く、見逃しリスクがあります。
まとめ
・現行の診断基準は、空腹時血糖値・OGTT値・随時血糖・HbA1c を用いて判断。典型症状を伴う場合は一度で確定可能。
・過去には HbA1c 非導入や空腹時血糖上限の見直しといった変遷があり、最近は「複数基準の組み合わせ」が強調されている。
・HbA1c には影響を与える因子があるため、単独では判断できないケースもある。
参考文献
1.日本糖尿病学会. 『糖尿病診療ガイドライン2024』
2.日本糖尿病学会 “診断の指針” PDF
3.糖尿病標準診療マニュアル2025(診断基準記載)
4.ADA “Diagnosis and Classification of Diabetes”
5.New diabetes diagnosis criteria including HbA1c (厚生労働省資料)
[文:池尻大橋せらクリニック院長 世良 泰]
※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。
池尻大橋せらクリニック院長・世良 泰(せら やすし)
慶應義塾大学医学部卒。初期研修後、市中病院にて内科、整形外科の診療や地域の運動療法指導などを行う。スポーツ医学の臨床、教育、研究を行いながら、プロスポーツや高校大学、社会人スポーツチームのチームドクターおよび競技団体の医事委員として活動。運動やスポーツ医学を通じて、老若男女多くの人々が健康で豊かな生活が送れるように、診療だけでなくスポーツ医学に関するコンサルティングや施設の医療体制整備など幅広く活動している。