後半戦にチームの躍進を支えた竹田(C)萩原孝弘「こんなに爆上がりしたのはいなかった」「何も変えていませんし、正直わからな…

後半戦にチームの躍進を支えた竹田(C)萩原孝弘

「こんなに爆上がりしたのはいなかった」

「何も変えていませんし、正直わからないですね」

 レギュラーシーズン後半戦に続いたDeNAの快進撃のキーマンとなった竹田祐は、150キロ連発した“快投”の理由に首を傾げた。

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 社会人野球の名門、三菱重工Westから昨秋にドラフト1位で入団した25歳の右腕は、当然ながら「即戦力」との期待を背負い、春季キャンプもA班として1軍に帯同。しかし、沖縄から帰浜した竹田は「いい感覚で投げられなくなってしまいました。ストレートを痛打されていましたからね」と、プロの打者たちに対する球威不足を痛感。そこから球速低下の課題を克服するべく試行錯誤を繰り返した。

 そして約5か月の時が経ち、猛暑真っ只中の8月中旬にデビューを果たした竹田は、150キロ台の剛球をビシビシとコーナーへと決め、1か月半で6先発、4勝1敗、防御率1.69と躍動。チームを2位に導く原動力となったと言っても過言ではなかった。

 大原慎司チーフ投手コーチも「めちゃめちゃ大きかった」と彗星の如く現れたルーキーの存在に脱帽。ただ、突然の球速アップの理由を訊けば、「正直大きくフォームが変わったわけでもないですし、たまに1軍に上がったときにアドレナリンで球速が上がるピッチャーはたまにいますけど……いい意味で気持ちが入って、形は変わらないけど並進運動が早くなって球速が出た、地面を踏む反力が強くなったとかは考えられますけどね」と“核心”は見いだせていなかった。

「ファームにいるとき、『平均で146から147キロまで上がればいいね』って話をしていたのですけれども、148くらいまで上げてきましたから。たまたまその日が球速マックス更新とかはありますけれども、こんなに爆上がりしたのはいなかった」

 また、小杉陽太1軍投手コーチも「僕もわからないですね」と即答。オープン戦で露呈されていた出力不足は「合同新人自主トレの時からでした」と心配していたが、そこから約半年での“激変”には「ファームにいたときよりも明らかに球の質もアベレージもマックスも上がっているので、正直驚きました」と想像以上のボールを投げていたと証言する。

 そして、小杉コーチは「あくまで仮定」として、こう推測している。

「肩の機能的に球数を投げたり、短いスパンが続いたりすると出力が低下してしまうので、反復練習で基礎体力の部分を強化したことで改善された部分はあると思います。本当に何かを大きく変えたわけではなく、(社会人時代に)戻したというところからさらにフィードアップしていった感じだと思います」

入来コーチと春先から己と見つめ直し、徹底的に課題を洗い出した竹田。その濃密なやり取りは、やがて「結果」に結びついた(C)産経新聞社

球団スタッフたちを見つけ出した“意外な特徴”

 3月に横浜スタジアムで行われたオープン戦で結果を残せず、さらに同下旬には足に打球が直撃して戦線離脱と、プロ入り前に思い描いていたスタートを切れなかった。そうした困難に直面した竹田は、ファームでは「球速と球の力」にフォーカスし、自身を磨いた。

 そんな竹田の取り組みに携わった入来祐作2軍投手コーチは「本人にとって歯がゆかったのは、真っ直ぐがいかないので、いろいろな球を操っていろいろなところに投げてもちょっと甘くなったら打たれるところ。彼の中では悶々としていたと思います」と。結果の出ない日々を送った本人の心中を察した。

 悩めるドラ1再生に向け、球団スタッフたちも熱心に寄り添い、「コーチのみんなとアナリストを含めて、どのように1つずつ彼に階段を登らせていけばいいか」とチームで改善を図った。その上で「彼はコントロールが良く、結構いろいろな球種を操れるんです。ですけど、不器用なんです」と意外な特徴を掴んだ。

「いろいろな選手はいますけれども、だいたい投げることが器用な選手って、アドバイスしたら器用に反応できる子が多いんです。だけど、彼は自分のボールは操れますけど、その投げ方でしかできないんです」

 そう語る入来コーチを中心に濃密なコミュニケーションを図りながら、竹田にとっての最適解を探った。

「いろいろなことを難しく考えてしまう子だと思いましたので、そこからはシンプルに彼に発信していきました。投球フォームなどからアプローチするとややこしくなるタイプなので、身体の動き、構造を考えたトレーニングで彼のパフォーマンスを変えていこうと、途中でシフトチェンジしました」

 努力は実を結んだ。一気に1軍の戦力となった右腕の成長を喜ぶ入来コーチは、まなじりを下げる。

「それをただひたすらやって、ちょっとずつちょっとずつ上がっていきました。その上がってきたときに1軍に上がって、いい流れになっていったと思いますよ。ストレートの出力があれだけ上がったら、これだけバッターの反応が違ってくることを実感できたと思いますよ」

細部まで見直した日々の努力の積み重ねがあったからこそ――

 当の竹田も「投球フォームの動きの中で、力を捉えるポイントを掴みなさいという感じでした。それにつながるトレーニング方法を提示していただきました」と恩師のシンプルなアドバイスを地道に続けた影響を告白。アドレナリン効果を推測する声もあったが「自分ではそうは思っていません」と一時的な気持ちの問題ではないと言い切る。

 あくまでも「コンディションも良くなり、単純にいい感じで投げることができたので150キロも出すことができたのかなと思います」と語る25歳は、ドラスティックな変化はなかっただけに、良化の端的なポイントはわからない。だた、細部まで見直した日々の努力の積み重ねがあったからこそ、数字になって現れたことは明確な事実として残っている。

 10月11日から始まるクライマックスシリーズ。巨人とのファーストステージを勝ち上がれば、ファイナルステージで自身の出番が回ってくる可能性は高い。敵地甲子園でのマウンドとなるが、「投げていたら、あんまり(野次は)聞こえないタイプですし、そこは気にせず自分のやるべきことをやれればいいです」とサラリ。「チームの勝利に貢献できるような投球をするために、今からそこに向けて身体を作っていきます」と大舞台を見据えた。

 2度の指名漏れを経て掴んだドラフト1位の座。プロでも努力で手に入れた自信を武器に、遅咲きスターの煌めきは加速度的に増していく。

[取材・文/萩原孝弘]

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