はじめに:脂肪肝=MASLDは軽視できない肝臓病近年、健康診断で「脂肪肝」と言われる方が急増しています。従来はNAFLD…
はじめに:脂肪肝=MASLDは軽視できない肝臓病
近年、健康診断で「脂肪肝」と言われる方が急増しています。従来はNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)と呼ばれていましたが、現在はより明確な診断概念としてMASLD(Metabolic dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease:代謝異常関連脂肪性肝疾患)という名称が用いられています。
MASLDは、糖尿病や肥満、高血圧、脂質異常などの代謝異常が関与する肝疾患であり、放置すれば肝炎(MASH)→肝線維化→肝硬変→肝がんへと進行する可能性があります。医師の指導のもとで、食事・運動などの生活改善を行うことが最優先ですが、近年ではそれを補完する手段としてサプリメントの活用も注目されています。
【関連記事】脂質異常症の症状とは? ― 自覚のない“サイレントリスク”に気づくために
サプリメントで脂肪肝は治るのか?
まず大前提として、サプリメントだけで脂肪肝が「治る」ことはありません。エビデンスの多くは、補助的な効果(脂肪肝の改善・肝酵素の低下)を期待できる可能性があるというものであり、医薬品とは異なります。そのため、過度な期待や自己判断での多剤摂取は禁物です。
脂肪肝に関連する主なサプリメントとエビデンス
① オメガ-3脂肪酸(EPA・DHA)
・効果:肝臓の脂肪蓄積の抑制、肝酵素の改善、インスリン感受性の向上
・エビデンス:RCTやメタアナリシスで一定の効果が報告されているが、線維化への効果は不明
(Yan JH et al., J Clin Gastroenterol. 2018;52(6):547–556)
・注意点:過剰摂取で出血傾向のリスクあり。EPA/DHA比に注意。
② ビタミンD
・効果:インスリン抵抗性や慢性炎症の軽減を通じた肝機能の改善可能性
・エビデンス:欠乏状態のNAFLD患者ではALTの改善報告あり
(Barchetta I et al., World J Gastroenterol. 2014;20(30):8787–8795)
・注意点:過剰摂取で高カルシウム血症や腎障害のリスク。採血による血中25(OH)D測定が望ましい。
③ N-アセチルシステイン(NAC)
・効果:強い抗酸化作用で肝細胞障害を軽減
・エビデンス:ALT・AST改善の報告あり(小規模研究)
(Serviddio G et al., Liver Int. 2009;29(5):750–758)
・注意点:サプリではなく医薬品として使用されることもあり、用量管理が重要。
④ ウコン(クルクミン)
・効果:抗炎症作用、脂肪蓄積の抑制
・エビデンス:小規模RCTで肝酵素改善・肝脂肪減少効果を確認
(Panahi Y et al., Phytother Res. 2014;28(4):544–550)
・注意点:吸収率が低いため、バイオアベイラビリティを高めた製剤を選ぶ。過剰摂取で胃腸障害のリスク。
⑤ プロバイオティクス/プレバイオティクス
・効果:腸内環境を整えることで腸肝軸を改善し、肝炎進行を抑制
・エビデンス:肝酵素・インスリン抵抗性の改善を報告
(Aller R et al., J Clin Gastroenterol. 2011;45(8):760–767)
・注意点:菌株の種類により効果は異なる。整腸薬とは区別が必要。
注意点:サプリは「補助」、主体は食事と運動
脂肪肝に対する本質的な治療は、「糖質制限を含めた食事の改善」「筋肉量を維持・増加させる運動」そして「体重管理」です。サプリメントは、これらの生活習慣のベースがある上で初めて有効に機能します。
また、過剰な摂取は肝臓に逆効果になることもあるため、特に複数のサプリメントを併用する際は、医師や管理栄養士の助言を受けることが望ましいです。
まとめ
サプリメントは、脂肪肝(MASLD)の進行を防ぐうえでの補助的役割を果たす可能性があります。ただし、個々の効果には限界があり、過信は禁物です。正しい知識と科学的根拠をもとに、適切な食事と運動にサプリメントを組み合わせるという考え方が重要です。
[文:池尻大橋せらクリニック院長 世良 泰]
※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。
池尻大橋せらクリニック院長・世良 泰(せら やすし)
慶應義塾大学医学部卒。初期研修後、市中病院にて内科、整形外科の診療や地域の運動療法指導などを行う。スポーツ医学の臨床、教育、研究を行いながら、プロスポーツや高校大学、社会人スポーツチームのチームドクターおよび競技団体の医事委員として活動。運動やスポーツ医学を通じて、老若男女多くの人々が健康で豊かな生活が送れるように、診療だけでなくスポーツ医学に関するコンサルティングや施設の医療体制整備など幅広く活動している。