■珍しい感じ一文字、一音の名字「打撃練習で調子が良かった」 東京六大学野球秋季リーグは27日、明大が慶大1回戦に4-1で…

■珍しい感じ一文字、一音の名字「打撃練習で調子が良かった」

 東京六大学野球秋季リーグは27日、明大が慶大1回戦に4-1で先勝。1-1で迎えた7回、代打の瀨千皓(せ・ちひろ)外野手(4年)が値千金の決勝ソロを放った。瀨の本塁打は1年生の春、開幕戦でいきなりスタメン起用され、初打席初本塁打の偉業を成し遂げて以来、1260日ぶりの通算2号だった。

 同点で迎えた7回の攻撃も、2死走者なし。打順が9番の毛利海大投手(4年)に回ると、戸塚俊美監督は6回まで101球1失点(自責点0)に抑えていたエースに代打を送ることを決断した。指揮官は「迷いはなかったです。毛利の球数が100球を超えていましたし、長打もあるかな、という感じがしていました」と明かす。

 珍しい漢字一文字、一音の名字の瀨はカウント1-1から、慶大先発の左腕・渡辺和大投手(3年)の111キロのカーブが真ん中に入ってきたところを見逃さなかった。思い切り引っ張った打球が、軽々と左翼フェンスを越えていく。「打撃練習で調子が良かった。打てると思ったボールは全部振るつもりでした。手応えがよかったので、行ってくれと思いながら走っていました」というヒーローは、何度も両拳を握りしめ、雄叫びを上げながらダイヤモンドを回った。代えられた毛利も両拳を突き上げ、満面に笑みをたたえながら同級生をベンチ前で迎えた。

 忘れかけていた感触だった。瀨は奈良・天理高3年の春、4番打者としてエースの達孝太投手(日本ハム)とともに選抜大会ベスト4入りの原動力に。そして明大入学早々、チャンスを与えられる。2022年4月16日、1年生にして春季リーグ開幕戦(東大1回戦)でスタメン「6番・右翼」に抜擢され、初回の初打席で左翼席へ2ラン。1年生が開幕戦に先発出場し初打席で本塁打を放つのは、リーグ初の快挙であった。当時は、いまや今秋ドラフト上位指名候補となった同級生チームメートの毛利や小島大河捕手(4年)もスタンドで応援。「エグイと思いました」と毛利が振り返る。

慶大1回戦で値千金の決勝ソロを放った明大•瀨千皓【写真:加治屋友輝】

■チームを明るくするムードメーカー「だから監督は彼を外せない」

 しかし、その後は伸び悩んだ。スタメン出場は3年生だった昨春、東大2回戦を最後に途絶えた。今春は代打に5度起用されるも、5打数無安打(内野ゴロの間に1打点)。「大学レベルの投手に苦戦し、スイングが小さくなったり、自分がどういうスタイルの打撃をする選手なのかを見失ったりしました」という茨の道だった。

 それでも大学ラストシーズンの今季は、開幕前から「コーチやOBの方々にたくさん指導していただいて、『自分の“売り”はバッティング』と言えるくらい調子を戻せていました」と秘かに自信を抱いていた。

 瀨の存在価値は打撃だけではない。ネット裏席で見守っていた明大OBのDeNA・木塚敦志アマスカウトは「彼はムードメーカーとしてチームを引っ張ってきました。だから調子が悪い時でも、監督は彼をベンチから外さないのです」と評する。8回に勝利を決定づけるソロを放った小島も、「練習はもちろん、寮生活でも神宮でのウォーミングアップでも試合中でも、常に明るくやってくれています。この勝利は瀬の力でもあるかなと思います」とうなずいた。5季ぶりの天皇杯奪回を目指す明大にとって不可欠な存在なのだ。

 卒業後も社会人で野球を続ける予定の瀨。大学で伸び悩んだ右のスラッガーが捲土重来を期す。トレードマークの眼鏡の奥が輝きを増した。