全国大会での導入に向け、高校野球界で議論が進んでいる7イニング制。しかし、現場からは肯定的な意見が少ないという(C)Ge…

全国大会での導入に向け、高校野球界で議論が進んでいる7イニング制。しかし、現場からは肯定的な意見が少ないという(C)Getty Images

なぜ7イニング制の導入は進められているのか

 タイブレーク制、球数制限、新基準となった低反発の金属バット、夏の甲子園大会の二部制導入……多くの改革が行われている近年の高校野球において、今現在、大きな話題となっているのが、7イニング制についての検討だ。

 日本高野連は今年1月に「7イニング制等高校野球の諸課題検討会議」を発足。6月30日にはその狙いやメリット、デメリットについてまとめた資料を発表し、アンケート調査も実施(アンケートの収集は7月11日で終了)。すでに10月に行われる国民スポーツ大会が7イニング制で行われることが決定し、12月までには本格的な導入に向けた方針をまとめるとされている。

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 筆者も現場で取材する際に指導者と7イニング制について話題となる機会が非常に多い。しかし、これまで多くの指導者、あるいは関係者と話す中で、「ぜひ7イニング制にするべき」という意見を聞いたことはない。ある指導者からは「理由もなく9イニングが絶対に良いという意見には賛成できない」という声も聞かれたが、7イニング制に肯定的な意見は少ないというのが大まかな印象である。

 その理由として多く聞かれるのが、導入の狙いがよく分からないというものだった。日本高野連がアンケート募集の際に発表した声明によると、7イニング制を検討する背景として、主に以下のような理由が挙げられている(一部抜粋)。

・成長期である部員が、安全に安心して野球に取り組むための対策を講じていく必要がある。

・社会全体で夏季の熱中症リスクが叫ばれる中、夏季に大会を開催することが高校野球関係者以外(社会)からどのように映るのかを認識、自覚する必要がある。

・普段の練習や公式戦開催に伴い、選手・部員・応援生徒・指導者・審判員・観客などの方々に重大事故が発生してから、あるいは国や自治体からの指示を受けてから議論をスタートするのではなく、高校野球関係者が自主自律の姿勢で議論していかなければならない。

・7イニング制を考察するうえでは、熱中症対策は重要なテーマだが、数ある課題の一つである。一方で、熱中症対策は差し迫った喫緊の課題である。

 つまりは、夏季に大会を実施する上での熱中症対策が必要であり、選手や関係者の安全面を考慮して検討するということである。加えて各校の野球部員数の減少が顕著にあり、チームによる部員数の差が大きく、連合チームが増えていることもグラフをつけて紹介している。

「暑さ対策なら、そもそも暑い時期を避けて大会を行うというのが一番でしょう。でも…」

 しかし、一連の課題解消に7イニング制は本当に有用なのだろうか。熱中症対策が喫緊の課題なのであれば、大会を行う時期をずらすという議論はなぜ行われないのだろうか。甲子園出場経験もある指導者もこの点について以下のように話している。

「暑さ対策というのであればそもそも暑い時期を避けて大会を行うというのが一番でしょう。でも、『そうしよう』という声は聞いたことがありません。もちろん夏休みでないと長期の大会は難しいということや、会場の問題もあるかもしれませんが、上手く分散して行うなども検討すべきではないかと思います。

 そういったことと並列して、一つの方法として7イニング制も検討するというのであれば理解できますが、いきなり7イニング制だけが先に議論されるというのはちょっと理解に苦しみます。また球数制限の時にも一応加盟校にアンケートはありましたが、それがどのように議論されたかなどのフィードバックはありませんでした。誰がどんな思惑で進めようとしているかは分かりませんが、目的と議論がかみ合っていないように感じます」

 冒頭で触れた数々の改革についても、その効果によってどの程度選手への負担が減ったのかという検証結果は公開されていない。にもかかわらず、一方的に9イニングを7イニングにすると言っても、「理解できない」というのは妥当な意見だろう。

 ただ一方で、現場から声を上げづらいという側面もあるようだ。別の指導者はこう話す。

「何か新しいことを進めようとした時に反対意見を出すと考えが古い、頭が固いと非難されやすい風潮があるように思います。やっぱり9イニングでずっとやってきたところから、2イニング減るというのは多くの人が違和感を持っていると思うのですが、表立って反対とは言いづらい雰囲気がありますね。

 絶対9イニングが良いという理由づけも難しいのですが……。ただやっぱり100年以上この形でやってきたわけですし、イニングや人数は野球のベースとなる部分ですので、個人的には7イニングが良いとは思えません。慣れてしまえば違和感はなくなるのかもしれませんが」

 暑さ対策以外の目的としては運営側の働き方改革という部分もあるとのことだが、この点に関しては運営にもかかわっている指導者の中で、ぜひそうすべきという声は聞かれなかった。

 改めてまとめると、これまでの改革も7イニング制についても、「夏に甲子園球場で全国高校野球選手権を行う」ということを守るために行っている改革という印象は否めない。ただ、そう言い切らないところに現場の関係者たちも気持ちの悪さのようなものを感じているのではないだろうか。

 高校野球は100年以上の伝統があり、今年の夏の甲子園大会の開会式でも高野連の寶馨会長が「日本の野球の基盤」と話していた。だが、それだけ影響力が大きいものだからこそ、多くの関係者が納得する形であらゆる議論が進められていくことを望みたい。

[取材・文:西尾典文]

【著者プロフィール】

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。

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