前身の大会も含めU18野球ワールドカップで5回の優勝を誇る韓国だが、2008年を最後に優勝から遠ざかっている。今大会では…

前身の大会も含めU18野球ワールドカップで5回の優勝を誇る韓国だが、2008年を最後に優勝から遠ざかっている。今大会では17年ぶりの優勝が目標になっている。

 今年の韓国のドラフト会議は9月17日に行われるが、今回のメンバーで3年生は全員指名されることが有力。2人の2年生は、来年のドラフトの目玉となる見込みだ。

韓国代表にとって国際大会は兵役免除がかかった重要な大会

 しかし韓国にしてみれば、それは特別なことではない。韓国の高校チームは106。基本的にプロになることを前提とした少数エリート制度になっている。したがって代表に選ばれた選手が指名されなければ、それ自体がニュースである。また日本の高校生ならプロ、進学、社会人といくつか選択肢があるが、韓国の高校選手はまずプロで、プロ入りできなければ、大学で再起を期すといった感じだ。

 日本以上に超学歴社会の韓国だけに、2000年ごろまでは大学に入ってからプロというのが一般的だった。流れが大きく変わったのは、1998年からオリンピックなどの国際大会にプロ選手も出場できるようになったことだ。オリンピックのメダリストとアジア競技大会の優勝者は兵役が免除になる。大学生のうちに代表選手になり、兵役免除の資格を得たい。兵役免除にならなくても代表選手として箔を付けたい、という思いがあった。

 今回U18韓国代表の監督であるソク・スチョルは、成均館(ソンギュングァン)大4年の時に韓国代表になり、アトランタ五輪のアジア予選に出場した。学生時代に兵役免除にならなかったが、韓国の五輪出場に貢献した。ソク監督は96年からサンバンウルという今は解体された球団に入団したが、股関節を痛めプロ野球生活はわずか2年。その後は成均館大のコーチ、2012年からは出身高校である群山(クンサン)商業(現群山象一高校)の監督になり、現在もその職にある。

 韓国では20代のうちに兵役を終えなければならない。そのため早くプロ入りして代表選手になり、アジア競技大会で優勝して兵役の免除を得たい。仮に代表選手になれなかったとしても、兵役までにプロ選手として早く実績を残したい。そのため、高校でプロに入団できるかどうかはかなり切実な問題である。今回のU18野球ワールドカップは、ドラフト会議を控えてのアピールの場でもある。

唯一、選出されたビッグ4の1人はダルビッシュを意識した157キロ右腕

 今年の韓国高校球界には、ビッグ4と呼ばれる投手がいる。光州(クァンジュ)第一高校のキム・ソンジュン、京畿航空(キョンギハンゴン)高校のヤン・ウジン、奬忠(チャンチュン)高校のムン・ソジュン、北一(プギル)高校のパク・ジュンヒョンだ。しかしキム・ソンジュンはレンジャースに入団し、ムン・ソジュンも今年前半不振だったうえに、ブルージェイズ入団に向けて交渉中ということで代表から外れた。韓国では自国のドラフト会議で指名されるには、申請書を提出しなければならない。けれども海外は対象外。メジャーのスカウトは、シーズン中でも選手に接触できる。韓国のプロ野球関係者は、「学校長が認めれば、我々は流出を防ぐ手立てはない」と言っている。日本とは取り決めがあるが、米国とは特に決まりはない。韓国の高校のトップ選手は、メジャーか国内かの選択をすることになる。

 キム・ソンジュンとムン・ソジュンが抜けたうえに、ヤン・ウジンも一度は代表メンバーとして発表されたものの、その後負傷により離脱。結局高校ビッグ4で今回出場するのはパク・ジュンヒョンだけになった。

 けれども、このパク・ジュンヒョンがすごい。身長が188センチで、ダルビッシュ有(パドレス)をロールモデルにしているというパクの最速は157キロ。スライダーなどの変化球もキレる。今年度の公式戦で40回2/3を投げて奪三振は54を記録している。そのうえ、サムスン、NCの内野手として活躍し、WBCにも出場している朴錫珉(パク・ソンミン)の長男としても知られる。朴錫珉はプレーの動作がユーモラスで人気があった選手で、昨年は巨人の育成コーチ(コーチ研修)も経験している。パク・ジュンヒョンもメジャーの少なくとも5球団から声がかかったと言われるが、本人は韓国のプロ野球を目指すことを宣言した。今年のドラフト会議では、トップ指名が確実視されている。

3試合連続本塁打のスラッガー、釜山の大谷など野手に逸材が揃う

 パク・ジュンヒョン以外にも、パク・チソン(ソウル高校)が190センチ、シン・ドンゴン(東山〈トンサン〉高校)が193センチと大型の選手が多い。韓国代表全体をみても、190台が3人、189~185センチが6人。170センチ台が2人いるものの、ほぼ180センチ以上だ。

 日本のメンバーと韓国のメンバーを比べて、最も大きな違いは、日本は投手登録が9人で外野手登録が2人であるのに対し、韓国は投手登録が7人で外野手登録が4人であることだ。日本は坂本 慎太郎(関東一)、奥村 頼人(横浜)のように外野手も兼ねる投手がいるのに対し、韓国は投手も兼ねる野手がいる。

 三塁手のシン・ジェイン(裕信〈ユシン〉高校)は、投手としても145キロの速球を投げる。2年生のオム・ジュンサム(徳寿〈トクス〉高校)に至っては、最速が151キロ。それでも本人は「投手は副業」という意識だ。筆者も一度みたことがあるが、遊撃手としても守備範囲が広く、打球処理もうまかった。

 それにもう1人の2年生であるハ・ヒョンスン(釜山〈プサン〉高校)は、身長194センチの外野手で長打力があり、投手としては140キロ台半ばの速球を投げる二刀流の選手で、「釜山高校の大谷」と呼ばれている。

 オム・ジュンサンもハ・ヒョンスンも来年のドラフト会議でトップ指名を争うことになるが、メジャーに行く可能性もある。

 それから野手で注目すべき選手は、三塁手のキム・ゴンフィ(冲岩〈チュンアム〉高校)だ。韓国の高校野球は木製バットが使用されているが、キムは5月に開催された黄金獅子旗全国高校野球大会で3試合連続で本塁打を放っている。

 一方韓国の高校野球でもバントは多用されているが、今回のメンバーをみると、バントをする選手が少ない。KBSA(大韓野球ソフトボール協会)のホームページには、公式戦の細かいデータが記されている。

 今年度の成績をみると捕手のイ・ヒソン(原州〈ウォンジュ〉高校)が64打席で犠打は1.遊撃手のホ・ユン(冲岩高校)が124打席で犠打は2、三塁手のキム・ジソク(仁川〈インチョン〉高校)は101打席で犠打2、二刀流のオム・ジュンサンは111打席で犠打は5、今回の代表の主将である遊撃手のオ・ジェウォン(裕信高校)は121打席で犠打は2、外野手のアン・ジウォン(釜山高校)は123打席で犠打は4、外野手のパク・チホ(群山象一)は68打席で犠打は1,二刀流のハ・ヒョンスンは117打席で犠打は2で、あとの選手は犠飛はあっても犠打はない。そのため、タイブレークなどの接戦でどのような戦いをするのか注目される。なおこのチームで最多の犠打5を記録しているオム・ジュンサンは、本塁打2本で長打率は.517。投手としても遊撃手としても長距離打者としてもチャンスメーカーとしても注目の選手だ。

最後に触れておきたいのは、韓国ではいじめ、暴力の加害者は、年齢別のものも含め代表にはなれない。SNS時代だけに、代表決定後に過去の加害事例が暴露され、メンバーを交代することもあった。そのため代表メンバー発表後10日間は異議申し立て期間となっている。今回のU18韓国代表は、7月11日にメンバーが発表されたが、異議申し立て期間を過ぎた21日に正式決定となった。こうしたことは、日本でも他人事ではなくなっている。