はじめに「薬を使わずに血圧を下げたい」「健康診断で高血圧と言われたけど、生活をどう変えればいいの?」――そんな悩みに答え…
はじめに
「薬を使わずに血圧を下げたい」「健康診断で高血圧と言われたけど、生活をどう変えればいいの?」――そんな悩みに答えるのが運動療法です。
日本高血圧学会のガイドライン2025でも、運動は高血圧治療の第一歩であり、必ず取り入れるべき基本戦略とされています。
この記事では、なぜ運動が血圧を下げるのか、どのような運動が効果的なのか、そして実際にどのように始めればよいのかを解説します。
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1. 運動が血圧を下げるメカニズム
血管の柔軟性を高める
有酸素運動は血管内皮の機能を改善し、血管を拡張しやすくします。その結果、末梢血管抵抗が下がり、血圧が安定します。
自律神経のバランス改善
交感神経の過剰な働きを抑え、副交感神経を優位にすることで血圧を下げます。
体重管理
体重1kgの減少で、収縮期血圧が約1mmHg下がるといわれています。運動は肥満改善を通じて血圧を下げます。
インスリン抵抗性の改善
糖代謝が良くなると血管への負担が減り、高血圧予防に直結します。
2. 高血圧に効果的な運動の種類
(1) 有酸素運動
・ウォーキング、ジョギング、自転車、水泳など
・推奨:1日30分以上、週5回(合計150分以上)
・「少し息が弾むが会話はできる」程度の中等度運動が理想
研究では、収縮期血圧を平均5〜7mmHg低下させる効果があると報告されています(Cornelissen & Smart, 2013)。
(2) レジスタンス運動(筋トレ)
・自重スクワット、腕立て伏せ、チューブトレーニングなど
・推奨:週2〜3回、10〜15回を1セットとして全身をバランスよく
・近年は「筋トレも降圧効果がある」とされ、特に中高年に有効
有酸素運動と筋トレを組み合わせると、血圧改善効果はさらに高まります。
(3) 柔軟・バランス運動
・ヨガやストレッチ、太極拳
・血圧を直接下げるエビデンスは限定的ですが、ストレス軽減や転倒予防に有用
3. 運動療法を安全に行うための注意点
・急に激しい運動は避ける:心臓や血管への負担になるため、まずはウォーキングから
・血圧が非常に高い(180/110mmHg以上)の場合:医師の許可が出るまで強い運動は控える
・持病がある方:心臓病、腎臓病、整形外科疾患がある場合は医師と相談の上で開始
4. 日常生活に取り入れる工夫
・通勤で1駅分歩く
・エレベーターの代わりに階段を利用
・テレビを見ながらストレッチ
・買い物帰りに荷物を持って歩く
「特別な運動時間を作る」よりも「生活の中で動く工夫」を取り入れる方が続けやすいです。
まとめ
・運動は高血圧治療の第一歩であり、薬に匹敵する効果がある
・有酸素運動+筋トレの組み合わせが最も効果的
・日常生活の小さな工夫で「1日30分の運動習慣」を身につけることが可能
・医師のサポートを受けながら無理なく継続することが成功の鍵
参考文献
1.日本高血圧学会. 『高血圧治療ガイドライン2025』
2.Cornelissen VA, Smart NA. Exercise training for blood pressure: a systematic review and meta-analysis. J Am Heart Assoc. 2013.
3.Whelton PK, et al. Effects of aerobic exercise on blood pressure: JNC7 evidence. Hypertension. 2002.
4.Pedersen BK, Saltin B. Exercise as medicine in chronic disease. Scand J Med Sci Sports. 2015.
[文:池尻大橋せらクリニック院長 世良 泰]
※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。
池尻大橋せらクリニック院長・世良 泰(せら やすし)
慶應義塾大学医学部卒。初期研修後、市中病院にて内科、整形外科の診療や地域の運動療法指導などを行う。スポーツ医学の臨床、教育、研究を行いながら、プロスポーツや高校大学、社会人スポーツチームのチームドクターおよび競技団体の医事委員として活動。運動やスポーツ医学を通じて、老若男女多くの人々が健康で豊かな生活が送れるように、診療だけでなくスポーツ医学に関するコンサルティングや施設の医療体制整備など幅広く活動している。