J1の第27節は、4ゴールを挙げて勝利したチームが3つもあった。そのうちの2つ、柏レイソルと京都サンガF.C.の勝ち方…

 J1の第27節は、4ゴールを挙げて勝利したチームが3つもあった。そのうちの2つ、柏レイソルと京都サンガF.C.の勝ち方は、J1優勝争いの行方はもちろんのこと、今後の日本サッカー界に与える影響も大きいという。どういうことか? サッカージャーナリストの後藤健生が第27節の柏の浦和戦と京都のFC東京戦2試合を分析しつつ、その本当の意味を解説する!

■欧州の流れが「2~3年」遅れて日本上陸

 ところで、柏レイソル対浦和レッズFC東京対京都サンガF.C.の2試合は、チームのスタイルあるいはコンセプトの違いが浮き彫りになった試合でもあった。

 FC東京がゴールキックからパスをつないでビルドアップしようとしたところを、京都が狙ってボールをカットして得点を重ねたということは(1)の冒頭で紹介した通りだ。

 FC東京の松橋力蔵監督は、アルビレックス新潟時代からポゼッション・サッカーを追求し続けている指導者だ。FC東京では、なかなか新潟時代のようにスタイルが定着しないが、理想としてはポゼッションを追い求めている。

 一方、京都のチョウ・キジェ監督は、川崎フロンターレが連続優勝を飾り、ポゼッション・サッカーが全盛だった時期から、湘南ベルマーレでプレッシングのスタイルを追求していた指導者だ。

 ヨーロッパでも、かつてFCバルセロナの「ティキタカ」が一世を風靡した時代があった。だが、その中心だったチャビやイニエスタが姿を消すと「ティキタカ」の天下は終わり、ドイツ人指揮官が仕掛けたカウンター・プレスの時代に突入する。

 日本でも、ヨーロッパでのそうした流れとは2、3年のタイムラグはあったが、ポゼッション・サッカーでJ1のタイトルを独占していた川崎や横浜F・マリノスの時代が過ぎて、ハイプレスとショートカウンターを武器としたチームが上位を占めるようになり、一昨シーズン、昨シーズンとヴィッセル神戸がJ1リーグ連覇を果たした。

■柏とソシエダが示した「プレス」回避

 だが、カウンター・プレスのサッカーが世界をリードするようになってから早くも10年ほどが経過し、これから将来のサッカーのスタイルがどうなっていくかが興味深いテーマとなっている。

 リカルド・ロドリゲス監督の柏は、浦和の前からのプレスを完全にはがして、引っ繰り返してしまった。そこで、浦和のスコルジャ監督は、すぐにハイプレスをあきらめて、ミドルブロックで守ることを選択した。

 相手がプレスをかけてきても、柏の選手たちは落ち着いてワンタッチでパスを回して、プレスを回避することに成功。しかも、単にプレスをかわしてボールを保持するだけでなく、ボールをスペースに出したり、前線の味方につけたりして効果的に攻撃につなげた。

 相手のプレッシングはワンタッチパスを回すことで回避できるのである。

 そういえば、7月にスペインのレアル・ソシエダが来日して横浜FCと対戦した試合でも、レアル・ソシエダは相手のハイプレスを見事にかわして見せた。横浜FCの三浦文丈監督も、記者会見でまずその技術レベルの高さについて言及した。

 プレスがハマったかと思われた瞬間に(相手を引きつけてから)パスを出してプレッシングを回避して、スペースを利用して引っ繰り返してしまうのである。

 もちろん、横浜FCは今シーズンはJ1降格圏を脱出できずに監督交代に追い込まれ、三浦監督が就任した直後の試合だった。スペイン1部の強豪レアル・ソシエダが、そんな不調の横浜FCのプレッシングを回避できるのは当然かもしれない。

 浦和も、けっしてハイプレスに定評のあるチームというわけではなく、柏が浦和のプレスを回避することも当たり前かもしれない。

 だが、いずれにしてもハイプレスをかけてくるチームに対して、ポゼッション・サッカーを志向するチームがどういう方向性で戦えばいいのか。浦和戦の柏や、横浜FC戦のレアル・ソシエダがそれを示してくれたことに変わりはない。

■完成度が「高くなかった」ビルドアップ

 一方で、ハイプレスを志向するチームが、ポゼッション・スタイルのチームに対するときに、ゴールキックからつなごうとするところでプレスをかければ、いかに効果的にチャンスを生み出せるかを示したのが京都だった。

 もちろん、FC東京はポゼッション志向とはいえ、スタイルを確立しているチームではない。京都戦のメンバーを見れば、GKの金承奎とCBのアレクサンダー・ショルツは夏の移籍で加わったばかりの選手。もう1人のCBの岡哲平は明治大学出身のJリーグ2年目の選手(FC東京の下部組織出身)だった。

 従って、最終ラインからのビルドアップの完成度はそれほど高くはなかった。だからこそ、京都のプレスにハマってしまったのだ。

 しかし、いずれにしてもプレッシング型のチームとポゼッション型のチーム(および、その中間型)が混在するのがJ1リーグである。そうした各チームの異なったスタイル同士の攻防も大きな見どころの一つと言うことができよう。

■ACL組を今後も悩ませる「過密日程」

 J1リーグは第27節終了時点で、首位の京都と6位のサンフレッチェ広島までが勝点2の間にひしめくという大混戦となってしまった。

 優勝争いを繰り広げる強豪同士の激突も続くし、下位チーム相手のたった1つの取りこぼしが致命傷になる……。そんな緊迫した戦いが続くのだろう。

 第27節では、AFCチャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)組のFC町田ゼルビアとヴィッセル神戸が引き分けに終わって、勝点2を失った。ともに、水曜日にACLEのために第30節の前倒し開催があって、中2日での試合だった。

 もちろん、町田と神戸の取りこぼしは日程のせいだけではなかったが、ACL組は今後もそうした過密日程に悩まされることだろうし、9月以降は代表ウィークなどによる中断があり、カップ戦がないチームにとっては試合間隔が開きすぎるといった問題もある。

 そんな日程の機微も含めて、最後まで大混戦が続くのであろう。

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