(19日、第107回全国高校野球選手権大会準々決勝 県岐阜商8―7横浜 延長十一回タイブレーク) 絶望的とも言える状況で…
(19日、第107回全国高校野球選手権大会準々決勝 県岐阜商8―7横浜 延長十一回タイブレーク)
絶望的とも言える状況で、県岐阜商の宮川鉄平は「開き直っていた」と笑った。3点を失った直後の延長十回裏。先頭打者は、初球から仕掛けた。
打球は中前で弾み、無死満塁。続く小鎗稜也も初球から果敢に振った。2球目の浮いた直球を引っ張り、走者一掃の同点二塁打になった。
選抜優勝校との一戦に、藤井潤作監督の見立ては「100回やったら99回は負ける」。その「1回」をつかむために、心構えを説いた。
「いろんなことがゲームの中で起こるだろうけど、いちいちびっくりしていたらもたない。全ては想定内。甲子園で『お祭り』をしよう」
一発勝負。緊張だってするし、うまくいかないことは当然ある。それでもなお、攻める姿勢を貫こうということだ。
そして、勝負手を打った。先発の左腕渡辺大雅だ。3回戦でこの夏初登板したばかりの2年生に期待したのは、左打者7人が並ぶ相手打線に120~90キロ台の緩急を丁寧に使うこと。5回1安打無失点の好投で応え、流れをつかんだ。
五回を終えて、4点リード。勝利がちらつき始めると異変が起きる。六回の守り。1死満塁から二ゴロで併殺を狙ったが、遊撃手からの転送を受けた一塁手の坂口路歩は「焦った」。足がベースに数センチ届かず、セーフの判定に。さらに無人の本塁に送球してしまい、2者が生還した。追いつかれた八回も、延長タイブレークに入った十回の3失点も、失策が絡んだ。
そんな窮地でもベンチでは、明るい言葉だけが飛び交った。「いいゲーム! いいゲーム!」。監督の言葉を胸に、開き直って楽しむ余裕があった。
同点の十一回裏2死一、三塁。最後は坂口がミスを取り返した。ライナーが三遊間を抜けると、サヨナラ打を祝福する大歓声で実感した。「ああ、横浜に勝ったんだ」
県岐阜商は昨年9月に藤井監督が就任。明るく自主性を重んじる指導のもと、選手の感性を大切にしてきた。生まれつき左手の人さし指から小指がない右翼手の横山温大は「誰かに『無理だ』と言われたことはない」という。バットを短く持つなど、相手投手の対策も選手にゆだねてきた。
藤井監督は目をうるませながらも笑い、「私自身が落ち込みかけたところを、何度も立ち直らせてもらった」。3試合で計1失点だった横浜から16安打8得点。あらゆるアクシデントを「想定内」とポジティブに受け止めた創部100周年の夏は、まだ終わらない。(大宮慎次朗)