(12日、第107回全国高校野球選手権2回戦 岡山学芸館3―0松商学園) 仕事の合間をぬって、母校・松商学園の試合に上條…

(12日、第107回全国高校野球選手権2回戦 岡山学芸館3―0松商学園)

 仕事の合間をぬって、母校・松商学園の試合に上條紗也香さん(27)はカメラと望遠レンズを持って駆けつける。公式戦、練習試合を問わず、その数は年間でおよそ100試合。うまく撮れた写真は、選手や保護者に贈る。

 打席に臨む選手、控え選手が試合前にノックを受けているとき。走者が塁上で喜ぶ姿――。シャッターを切る。「どれを(SNSの)アイコンにしようか迷う」。選手からそんな言葉をもらえると、「撮ってよかった」と思える。

 高校時代はずっと、硬式野球部の松宗勝監督が担任のクラスにいた。でも、野球にあまり興味はなかった。ソフトテニス部を引退した3年生の秋、友達と硬式野球部の試合を見に行った。仲のよかった選手に、携帯電話のカメラ機能で撮ったプレー写真を渡すと、「うれしい」。その一言が、きっかけだった。

 もっとうまく撮りたい。短大時代はアルバイトでお金をため、カメラを買った。10万円以上したが、値段は気にならなかった。

 高校を卒業して、今年でちょうど10年。後輩たちからはいつしか「さや姉(ねえ)」と呼ばれるようになった。カメラは2代目。20万円くらいした。

 実は、周囲の目が気になって試合に通うのをやめようと思ったこともある。しかし、選手は「やめないで」「また来て」。「甲子園に連れて行きます」とも言ってくれた。もう、撮るしかない。

 見続けているから、チーム状態はなんとなくわかる。特に昨秋と今春は、良くなかった。主将もなかなか決まらなかった。「今年の松商は弱い」という声も聞こえてきた。だから、シャッターボタンを押す指に、力がこもった。がんばれ、と。

 この夏も長野大会の1回戦から見守った。甲子園では三塁側内野席に陣取り、レンズを向けた。

 試合後、アルプス席へのあいさつを終えた選手を撮ろうとしたときは、涙でファインダーからの景色がにじんだ。「最後まで諦めない姿が見られた。甲子園に連れて来てくれて、ありがとう」(高億翔)