写真提供:共同通信 ■ラミレス監督が見せた継投策 史上2度目の「レギュラーシーズン3位からの下克上」に挑むDeNAと、2年ぶりの日本一を狙うソフトバンクが対戦する日本シリーズが開幕する。DeNAがセ・リーグ覇者の広島を退けたクライマックスシ…

写真提供:共同通信

 

■ラミレス監督が見せた継投策

 史上2度目の「レギュラーシーズン3位からの下克上」に挑むDeNAと、2年ぶりの日本一を狙うソフトバンクが対戦する日本シリーズが開幕する。DeNAがセ・リーグ覇者の広島を退けたクライマックスシリーズ(以下、CS)では、投手陣が相手強力打線を全試合で3点以内に封じ、第4戦では今永、第5戦では濵口と、今季の先発ローテーションを担ってきた投手を中継ぎ起用するといった継投も見せた。今永、濵口ともにプロでのリリーフ経験はなかったが、思い切った起用がリーグ王者を下す要因のひとつとなったのかもしれない。

 レギュラーシーズンと比較して、ポストシーズンでは先発投手の降板するタイミングは早い(表1)。そのため、救援投手に掛かる負担は大きくなりがちだ。こうした背景もあってか、先発投手をスクランブル的に救援で起用する采配は以前からしばしば見られ、また結果を見ても、その役目を果たした投手も少なくないようだ(表2)。

■救援登板による球速の変化

 一般的に、救援時は球速が上がりやすい。レギュラーシーズンの先発時とポストシーズンの救援時でストレートの平均球速を比較すると、多くの投手が球速アップを果たしていることが分かる(表3)。リリーフでの登板は、投手が自身の「最大出力」に近いボールを投げられる場であるといえる。

 先発と救援で球速の変化に特徴がある投手として、DeNA・今永の投球を見ていこう。CSの登板では、投じたすべての球種でレギュラーシーズンの平均球速を上回った(表4)。中でもスライダーは、プロ入り後初めて140キロを記録するなど、平均で7キロ近く上昇。よりストレートとの球速差が小さいスライダーへと変貌を遂げ、このスライダーを多投(全27球のうち16球)することで広島打線を抑え込んだ。

 今永に似た例として、昨年の日本シリーズにおけるメンドーサ(当時日本ハム)が挙げられる。メンドーサは2勝2敗で迎えた第5戦にロングリリーフとして登板し、5回2/3を1安打無失点。ほぼ完璧といえる投球を見せ、結果的にこのシリーズのターニングポイントとなる一戦を制した。

 メンドーサのレギュラーシーズンとの変化は、ツーシーム、チェンジアップの2球種に現れている(表5)。メンドーサはツーシームを軸に、ボールを動かしてゴロを打たせる投球スタイル。毎年のように高いゴロ割合を記録しているが、日本シリーズの登板では、ツーシームで打たせたすべての打球がゴロとなった(表6)。同じく10キロ以上の上昇を見せたチェンジアップでは空振りを量産し(表7)、2つの球種でゴロに、三振にと凡打の山を築いた。母数が少ないため断言こそできないが、スピードの変化がボールの効力に何らかの影響を及ぼしていたとみられる。

■前を取るか後ろを取るか

 長いイニングの投球を求められる先発は、「ある程度余力を残しながら」投げている状態ともいえる。紹介した今永やメンドーサのように先発を担ってきた投手が、救援登板でその力を引き上げられたとしても不思議ではない。今季はMLBのポストシーズンでもドジャースの前田健太がリリーフに回って無失点を継続しているように、先発から救援の配置換えの成功例がよく目立っている。一方でローテーションの質を下げてしまう可能性も高いだけに、ばくちの要素も強い選択といえる。

 間もなく始まる日本シリーズは、先発に豊富な駒をそろえる両チームの対戦。故に今シーズン先発を担っていた投手が、リリーフに回ることも十分に考えられる。リミッターが外れた“先発投手の救援登板”が、シリーズを左右するポイントになるかもしれない。

※データは2017年10月27日現在

文:データスタジアム株式会社 竹石 健太郎