(第107回全国高校野球選手権1回戦、静岡・聖隷クリストファー5―1茨城・明秀日立) 輝夢(きらむ)がくると安心する―…

 (第107回全国高校野球選手権1回戦、静岡・聖隷クリストファー5―1茨城・明秀日立)

 輝夢(きらむ)がくると安心する――。

 1点リードされた八回表、1死一、三塁。左足首を負傷している主将の能戸輝夢(3年)が伝令としてやってきた。

 「楽しんで。かっこつけろ」。そう言われ、投手の中岡誠志郎(3年)は笑みをこぼした。

 「能戸のために、がんばらないといけないな」

 その後、スクイズ、内野安打と続き、3点を失ったが、試合をあきらめることはなく、全力投球を続け、八回を終わらせた。

 遊撃手一本だったが、昨年6月ごろから投手を始めた。小学2年生から野球を始め、遊びで覚えていた変化球が決め球にもなった。茨城大会で直球の最速を144キロまで伸ばした。「アドレナリンが出ていい球がいった」という。甲子園入り後は、副主将として能戸の分までチームを引っ張ると口にした。

 この日は、能戸の代打出場が決まっていた。「楽に打たせられるようにしたい」。チームを束ねるため隠れて泣くこともあった主将への感謝を示そうと思った。

 ところが、初回から2安打を浴び1失点。直球の最速が140キロに届かず、「球威がない」。2段モーションやクイックの投法を採り入れるなど投げ方を修正し、しのいだ。だが、八回に相手打線につかまり、九回はマウンドを託した。

 試合後、人生初めての背番号「1」について「チームを勝たせられず、自分には似合わない」と言った。でも、この試合で投じた全力の112球は色あせない。

 将来の夢はプロ野球選手になること。いつかこの舞台に戻ってくると、胸を張って甲子園を去った。(後藤隆之)