夏のジョギングで汗をかくのは当然ですが、実はその汗が思わぬ健康リスクを招いていることをご存じでしょうか。朝の涼しい時間帯…

夏のジョギングで汗をかくのは当然ですが、実はその汗が思わぬ健康リスクを招いていることをご存じでしょうか。朝の涼しい時間帯や夕方でも、大量の発汗により体内の水分バランスが崩れ、腸内で「大腸の砂漠化」という深刻な状態を引き起こす可能性があります。

この現象により、夏は他の季節とは異なる特有の便秘が起こりやすくなります。単なる不快感にとどまらず、腸内環境の悪化を通じて全身の健康に影響を及ぼすことが最新の研究で明らかになっています。

今回は、国立消化器・内視鏡クリニック院長の吉汲祐加子先生に、夏の便秘が起こるメカニズムと効果的な対策法について詳しく解説していただきました。

夏の便秘は「大腸の砂漠化」が原因

夏の便秘には、他の季節とは異なる特徴的なメカニズムがあります。最も重要なのが「大腸の砂漠化」という現象です。

人が経口摂取した水分は、小腸で約90%が吸収されます。大腸に届くのはわずか10%程度。つまり、1リットルの水を飲んでも、大腸に届くのはコップ1杯程度なのです。

夏の高温多湿な環境で大量の汗をかくと、体内の水分不足を補うため、大腸へ届く水分がさらに減少してしまいます。これが「大腸の砂漠化」の正体です。

当院で大腸内視鏡検査を受けた患者さんのデータを季節別に解析したところ、興味深い結果が明らかになりました。夏便秘を訴える方は年間平均と比較して約2割も増加していたのです。

特に猛暑となった2023年と2024年では、前年同期と比べて夏便秘の患者さんが約2割増加しており、気温と便秘の関連性が数値でも裏付けられています。

実際に、6月からすでに真夏日・猛暑日が続く今年は、猛暑による脱水や水分不足により便秘を訴える患者さんが増加しています。

また、便秘に伴って残便感、腹部膨満感、食欲低下といった連鎖的な不調を訴える方も増えている状況です。

次:夏便秘の5つの特徴

夏便秘の5つの特徴

1. 水分不足による大腸の砂漠化
大量の発汗により、便が硬くなりやすく排出困難になります。

2. 食生活の変化
冷たくさっぱりしたメニューが多くなり、食物繊維の豊富な食材が取り入れにくくなります。また、夏バテによる食欲不振で全体的な食事量が減り、便の形成がしにくくなります。

3. 運動不足による腸機能の低下
日照時間が長く野外活動が減りやすい上、夏バテによる疲労感で運動に消極的になります。腹部周囲の筋力低下により、大腸の腸管運動が弱まってしまいます。

4. 寒暖差による自律神経の乱れ
暑い屋外と冷房の効いた室内を行き来することで、体温調整を担う自律神経が過度に働き疲労します。自律神経と連携する腸管神経も正常に機能しにくくなり、腸管運動や消化管分泌が影響を受けます。

自律神経を整える方法「1位」は?食べ物、運動、音楽、ストレスケア…どれ優先⁉

5. 紫外線の影響
適度な紫外線は腸内環境に有益ですが、7〜8月の過度な紫外線は活性酸素を増加させ、腸内細菌に負担をかけます。

次:「便秘薬を飲めばいい」は間違い

便秘薬に頼る前に知っておきたいリスク

便秘で悩む方の多くが市販薬や処方薬に頼りがちですが、刺激性の便秘薬の長期使用には注意が必要です。

刺激性の便秘薬には依存性と耐性があるため、漫然と使用するとかえって便秘が悪化してしまう可能性があります。

便秘対策として、日常的に行える薬以外でのアプローチが重要です。

夏便秘対策の切り札「発酵性食物繊維」

夏便秘の根本的な解決には、腸内環境を整える「発酵性食物繊維」の摂取が効果的です。

発酵性食物繊維は、小麦ブラン(小麦ふすま)などに多く含まれています。この食物繊維は、腸内の善玉菌によって分解され、その際に生み出される「短鎖脂肪酸」という物質が私たちの健康に有益な作用をもたらします。

短鎖脂肪酸が腸に与える4つの効果

・腸のバリア機能保護
・腸管運動の促進
・炎症の抑制
・免疫機能の調整

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発酵性食物繊維が便秘に効く3つの理由

1. 善玉菌の増殖促進

発酵性食物繊維は善玉菌のエサとなり、腸内の善玉菌を増やします。善玉菌が増えることで腸内環境が改善され、自然な排便リズムが整います。

2. 便の質の改善

短鎖脂肪酸の働きにより、便に適度な水分が保たれ、硬くなりすぎることを防ぎます。また、便のかさも増すため、腸管運動が促進されます。

3. 腸の動きの活性化

短鎖脂肪酸が腸を刺激して、便を自然に押し出す力を強くします。これにより便がスムーズに移動し、排便しやすくなります。

次:発酵性食物繊維を効率よく摂る「おすすめの食品」は?

発酵性食物繊維を効率よく摂る「おすすめの食品」は?

発酵性食物繊維は、1日3g程度の摂取で十分な効果が期待できます。数ある発酵性食物繊維の中でも、特に摂取しやすいのが小麦ブラン(小麦ふすま)を使ったシリアルです。

小麦ブランには「アラビノキシラン」という発酵性の高い食物繊維が豊富に含まれており、便通改善に関する多くの研究報告があります。

小麦ブランシリアル(40g)の場合、約4.4gの発酵性食物繊維が含まれているため、朝食1回で1日の目標量をクリアできます。

おすすめの食べ方

手軽な食べ方は、牛乳やヨーグルト、はちみつと一緒に摂取することです。また、バナナやベリー類などのフルーツをトッピングすることで、さらに栄養価がアップし、おいしく続けることができます。

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監修者プロフィール

吉汲 祐加子先生

国立消化器・内視鏡クリニック院長、日本消化器内視鏡学会指導医。神戸大学医学部卒業、東京大学大学院博士課程修了。東京大学医学部附属病院、三井記念病院、国保旭中央病院勤務医を経て、2021年より現職。
数少ない女性指導医として「腸脳皮膚相関」に関する情報発信に取り組んでいる。

<Edit:編集部>