熱戦が行われた夏の高校野球地方大会。12球団のスカウトから高い評価を得ている超高校級14人の投手たちの現在地をレポートす…
熱戦が行われた夏の高校野球地方大会。12球団のスカウトから高い評価を得ている超高校級14人の投手たちの“現在地”をレポートする
■アピール度
A=文句無しの成績を残した
B=ある程度のアピールはできた
C=思うような成績は残せなかった
■春からの成長度
A=春よりもワンランクレベルアップ
B=春から変わらず
C=春より評価を下げた
「別格の投球」を見せた剛腕
石垣 元気(健大高崎)
■夏の地方大会成績 2試合 5回8奪三振 無失点
■アピール度 A
■春からの成長度 A
■ドラフト評価 1位クラス
ドラ1候補の石垣の場合、春の大会までのパフォーマンスで評価付けがほぼ終わった感じがある。大会直前の浦和学院との練習試合では全12球団が集結した。
浦和学院戦では最速153キロの速球、140キロ前半のカットボールを披露し、コントロールも安定していた。幹部クラスが視察する中での好アピール。ドラフト1位は確定したような雰囲気が現場には漂った。
夏の大会では、2試合で5回を投げ8奪三振。決勝戦では強力打線を誇る前橋育英相手に4回6奪三振とヒットすら打たせなかった。そのうち2回は延長タイブレークで失点しやすい状況の中でも失点を与えなかったのだから、能力だけではなく、勝負強い投手となったといえるだろう。甲子園で圧倒的な投球を見せれば、ドラ1競合も濃厚だ。
森 陽樹投手(大阪桐蔭)
■夏の地方大会成績 3試合 15回18奪三振 2失点
■アピール度 A
■春からの成長度 B
■ドラフト評価 上位指名
夏の準々決勝・大阪偕星戦では完封勝利を挙げたが、決勝の東大阪大柏原戦では3回2失点に終わり、チームも敗れて甲子園には届かなかった。140キロ後半の速球、切れのあるスライダー、フォークで圧倒するパワーピッチングを見せたが、高校2年生の時と比べると目に見えてレベルアップはしていない。今年の高校生右腕トップクラスの投球をしたが、本領発揮をしないまま終わった印象だ。将来は常時150キロ中盤の速球を投げるパワーピッチャーになる可能性は秘めており、重篤な故障がないことからも、本人がプロ志望ならば上位指名は揺るぎない素材ではないか。
佐藤 龍月(健大高崎)
■夏の地方大会成績 2試合 3回3奪三振 無失点
■アピール度 A
■春からの成長度 A
■ドラフト評価 下位指名
センバツ前、健大高崎の青柳博文監督は佐藤について「本人に強いプロ志望があっても、夏の内容次第だ」と語っていた。たとえ実戦で投げられたとしても、故障前と内容が代わり映えしなければ、育成クラスと筆者は見ていた。
しかし、7月の浦和学院との練習試合および夏の群馬大会の投球を見ると、故障前より格段に成長していた。投球フォームは右足をインステップから真っ直ぐ踏み込むフォームに改善。常時140キロ中盤・最速147キロの速球は威力があり、ストレートと同じ軌道で曲がるカットボールの精度も非常に高い。
練習試合では1イニングだけだったが、決勝の前橋育英戦では2イニングを投げた。投げられるイニング数が増えれば、本指名の可能性も高まるだろう。
佐藤が本指名されるかどうかの鍵は、プロ入り2年目以降、フルシーズン稼働できる青写真が描けること。夏の投球を見ると、プロ2年目以降から本領発揮しそうな投球だった。
指名有望!4人の左腕投手たち
奥村 頼人(横浜)
■夏の地方大会成績 3試合 6.1回 12奪三振 3失点
■アピール度 B
■春からの成長度 B
■ドラフト評価 中位指名
今年の高校生左腕トップクラスの実力を誇る。4回戦の相模原城山戦では、4回9奪三振の快投を見せた。140キロ中盤の速球、チェンジアップで翻弄する投球は見事だったが、準々決勝の平塚学園戦では2回途中で3失点と、内容の差が激しいのが気になった。打者としては準決勝、決勝戦の2試合で3本塁打を記録したが、やはり将来性は投手にあるだろう。奥村の潜在能力の高さからすればもっとできていてもおかしくない投手。ぜひ、甲子園で投打ともに躍動することを期待したい。
吉川 陽大(仙台育英)
■夏の地方大会成績 4試合 20回 25奪三振 2失点
■アピール度 A
■春からの成長度 B
■ドラフト評価 中位指名
今年の高校生左腕の中では春季大会のパフォーマンスが最も高かった投手。夏の大会では、春よりも緊張感があり、思い通りコントロールできないことがあった。準々決勝の東北戦では、2失点してしまい、逆転を許しながらも味方が逆転し、完投勝利。決勝戦でも粘られ、さらにコントロールに苦しみ、3四球を与えてしまい、いつもの吉川ではなかった。それでも大会通して20回、25奪三振、2失点の快投だった。
思い通りいかない中でも点を与えなかった投球は見事。スカウトたちの評価も上がっただろう。
春の投球を見る限り、もっとできてもおかしくない。甲子園ではプレッシャーから解放され、四球を与えず、三振を量産する投球を期待したい。
江藤 蓮投手(未来富山)
■夏の地方大会成績 5試合 30回 37奪三振 10失点
■アピール度 A
■春から成長度 A
■ドラフト評価 中位指名
チームを初の甲子園出場に導いた大型左腕。常時140キロ台前半だが、ボールには威力があり、木製バットならば、数本折っていそうなほどの勢いがあった。さらに130キロ台前半のカットボール、120キロ台後半のチェンジアップも落差があり、高確率で三振が奪え、ピンチでも持ちこたえる底力がある。決勝戦では7失点を喫したが、連投の疲労もあり、その点は考慮されるべきだろう。春に比べゲームメイク能力も高まり、ドラフト指名の可能性も高まった。
鈴木 蓮吾投手(東海大甲府)
■夏の地方大会成績 1試合 8回 7奪三振 1失点
■アピール度 B
■春からの成長度 A
■ドラフト評価 中位指名
初戦敗退に終わったため、投げたのは1試合のみ。それでも140キロ台後半の速球、130キロ近い高速スライダーで圧倒するパワーピッチングは今年の高校生左腕でもピカイチのものがあった。もう少し試合数が多ければ、さらに評価は上がっていたかもしれない。
夏に光った右腕たち
藤川 敦也投手(延岡学園)
■夏の地方大会成績 3試合 17.2回 21奪三振 4失点
■アピール度 A
■春からの成長度 A
■ドラフト評価 中位指名
この夏は惜しくも準々決勝で敗れたが、常時140キロ台後半・最速151キロの速球は迫力があり、スライダーの精度も高いものがあった。春先から直球だけでなく、変化球を器用に使い分ける意識の高さがあり、夏も継続して、実戦的な投球ができていた。
中西 浩平投手(豊川)
■夏の地方大会成績 9.2回 11奪三振 3失点
■アピール度 B
■春からの成長度 A
■ドラフト評価 中位指名
春の大会ではコントロールを乱してしまい、思うような投球ができなかった。夏は投球フォームを改善させ、150キロ前後の速球、切れ味抜群のスライダーで翻弄する投球が復活した。5回戦敗退に終わり、優勝候補として上位進出が期待されていた中西にとっては早い夏の終わりとなってしまった。
中野 大虎投手(大阪桐蔭)
■春の地方大会成績 17回 14奪三振 5失点
■アピール度 A
■春からの成長度 A
■ドラフト評価 中位指名
安定して140キロ中盤の速球を投げ込み、スライダー、カーブの精度も高く、マウンド裁きの上手さは一級品。クイック、フィールディングなどを見ても鍛えられている。春よりも不用意な配球がなくなり、ワンランクレベルアップした。投球以上に評価されているのは精神面。西谷浩一監督からも全幅の信頼を受けている人間性など、チームにいたらプラスになりそうな要素を備えている点も魅力だ。
長塚 陽太(杜若)
■夏の地方大会の成績 15.1回 18奪三振 8失点
■アピール度 B
■春から成長度 A
■ドラフト評価 下位指名
真っ向から振り下ろす投球フォームから繰り出す常時140キロ台中盤の速球は角度があり、スカウト受けする球筋をしている。阪神2位の今朝丸 裕喜投手(報徳学園)に似た球質だ。
溜めが効いた投球フォームをしているので、カーブの精度も高く、フォークも良い。球速的に物足りなさはあるが、まだ細身で、155キロまでは投げられそうな潜在能力の高さを感じる。強いプロ志望があれば、指名はありそう。大学に進学した場合、4年後にはドラフト1位を狙えそうな逸材だ。
早瀬 朔投手(神村学園)
■夏の地方大会成績 4試合 16.2回 15奪三振 6失点
■アピール度 C
■春からの成長度 B
■ドラフト評価 下位指名
今年の九州を代表する本格派右腕として注目を浴びていたが、夏の鹿児島大会は不調に終わった。初戦の鹿屋工戦では7回を投げ9奪三振、無失点の快投。140キロ後半の速球は勢いがあったが、準決勝、決勝戦の2試合だけで8回6失点。合計6四死球とコントロールも乱してしまい、大会通して、16.2回、6失点、15奪三振。終盤の乱れ具合が痛かった。
12球団のスカウトが一斉に集結する甲子園でどれほどの投球ができるかが本指名へ向けてのラストアピールになりそうだ。
中山 優人投手(水戸啓明)
■夏の地方大会成績 3試合 17回 21奪三振 4失点
■アピール度 A
■春からの成長度 A
■ドラフト評価 下位指名
この夏、茨城大会で47年ぶりの完全試合を達成し、話題となった本格派右腕。186センチ65キロと細身だが、常時140キロ台前半の速球、鋭く曲がるスプリット、スライダーで三振を量産し、制球力も非常に良い。プロで大化けする要素を秘めた右腕として、スカウトたちの評価も高い。
藤本 勇太(英数学館)
■夏の地方大会成績 2試合 17回 13奪三振 4失点
■アピール度 B
■春からの成長度 B
■ドラフト評価 下位指名
この春以降、急激に成長した本格派右腕。夏は3回戦敗退も、滑らかな体重移動から繰り出す140キロ台中盤の速球は伸びがあり、スライダーの精度も良い。完投能力もあり、制球力も一定以上のレベルにあり、完成度が高い。
将来は阪神・西 勇輝投手(菰野)のような先発投手に成長しそうな予感。早期敗退となり、思うようなアピールはできなかったが、威力ある速球は健在で、スカウトからの評価は変わらないだろう。