第107回全国高校野球選手権宮崎大会は、第2シードの宮崎商が驚異の粘りで勝ち上がり、61年ぶりの連覇を成し遂げて閉幕し…
第107回全国高校野球選手権宮崎大会は、第2シードの宮崎商が驚異の粘りで勝ち上がり、61年ぶりの連覇を成し遂げて閉幕した。準決勝と決勝はいずれも終盤の逆転劇だった。46校45チームが熱戦を繰り広げた夏を、振り返る。
今大会では決勝のほか、準決勝の2試合とも1点差。準々決勝4試合のうち2試合も1点差だった。力が拮抗(きっこう)したチーム同士の接戦が相次いだ今大会を象徴したのは、甲子園をかけた宮崎商―日南学園の決勝だろう。
同点で迎えた終盤、日南学園が七回に先頭打者の四球から好機をつくって連打で勝ち越し。この試合初めてリードを奪い、押し気味となった。だが、それもつかの間、宮崎商が九回表2死二、三塁からしぶとい打撃で連続適時打を放ち、土壇場で決勝点を奪った。
強烈な打球が内野手の好捕に阻まれる一方、鈍いゴロが内野安打になって貴重な適時打になるなど、一球の行方から目が離せなかった。九回裏の1死一、三塁を三ゴロ併殺でしのいだのは、宮崎商の鍛え抜かれた守備陣。わずかな送球のずれさえ勝敗を左右しそうな一瞬のプレーだった。
勝敗が決まると、日南学園の選手たちは泣き崩れ、しばらく立ち上がれなかった。宮崎商の選手たちの目からも涙があふれていた。こうした場面だけでなく、球場の外では一転、両チームの選手たちが笑顔を取り戻し、健闘をたたえ合う光景も、印象に残った。
連覇を成し遂げた宮崎商は今大会5試合のうち4試合が1点差の接戦。決勝の記録を見ると、日南学園の強力打線に14安打を浴びながら、宮崎商は8安打で競り勝っている。
1点差だった延岡工との準々決勝でも、同校の10安打に対して宮崎商は6安打。相手が出塁しても簡単に得点させない守備力、逆に好機では着実に得点に結びつける攻撃力。接戦に持ち込んだ時の驚異の粘りは、意識の高い練習の成果だろう。
決勝だけでなく、宮崎商と同じ県立の富島は、準決勝で中盤までに5点リードを奪い、宮崎商を一時追い詰めた。ノーシードの日章学園は、シード校を破って快進撃。特に三塁コーチを務めた児玉涼太選手(3年)の全身を駆使してチームを奮い立たせる姿は、野球は9人だけでやるものではないことを印象づけた。
そして、大会前に取材した門川の黒木賢斗選手(3年)のこと。右目が子どものころから義眼の捕手は、バックネット近くへの飛球を好捕してチームを奮い立たせた。初戦をサヨナラ勝ちで突破し、2回戦は4強入りした日章学園に敗れた。その直後の球場の外での取材に、特別支援学校の先生になりたいという夢を語ってくれた。白球を懸命に追う日々のなかで育んだ将来の夢だ。
宮崎商の選手たちは活躍の舞台を甲子園へ移す一方、今夏の大会を終えた選手たちの新たな物語が、始まっている。(奥正光)