(16日、第107回全国高校野球選手権奈良大会2回戦 高田3―2法隆寺国際) 「飛んでこい。飛んでこい」 一回裏、右翼を…

(16日、第107回全国高校野球選手権奈良大会2回戦 高田3―2法隆寺国際)

 「飛んでこい。飛んでこい」

 一回裏、右翼を守る法隆寺国際の野々村侑斗(3年)がつぶやく。願いがかなったのか、先頭打者が放った飛球が右翼に。難なくつかんで1アウト。「チームのため」。それしか考えていなかった。

 でも、新チームが始まった頃は自分のことで頭がいっぱいだった。練習中、思ったところに球を投げることができなくなった。それまでそんなことはなかった。原因は分からない。仲間に言えず、「すぐに直さなきゃ」と焦りだけが募った。

 最初に声をかけてくれたのが大前健太朗(3年)だった。「投げるのが怖い」。そう打ち明けると、「少しずつでいいんちゃうか」と返ってきた。大前も中学3年生の頃、急に送球が不安定になった経験があったからこその言葉だった。

 以来、2人の朝練が始まった。最初は5メートルの下投げから始め、少しずつ距離を伸ばし、投げる手の位置を上げた。どんなに悪送球をしても、大前は「大丈夫、大丈夫」と言ってくれた。今年3月ごろ、ようやく安定して投げられるようになった。

 同点で迎えた七回表2死一塁。野々村の打席に大前が代打で入った。「大前!絶対いける!今までやってきただろ!」。ベンチから叫んだが、1点が遠かった。

 試合後、野々村は泣きながら声を振り絞った。「家族が、監督が、チームメートが支えてくれた。感謝しかない。勝ってみんなと野球を続けたかった」(周毅愷)