バッテリーを組む人たちと信頼を築くために、あらゆる気配りを徹底する坂本。(C)産経新聞社時に配球だけでなく実は“構え”に…

バッテリーを組む人たちと信頼を築くために、あらゆる気配りを徹底する坂本。(C)産経新聞社
時に配球だけでなく実は“構え”にも変化を
今季のセ・リーグで首位を独走している阪神の圧倒的な強さの要因の一つは、リーグ屈指の陣容を誇る投手陣の“歴史的”な安定感で間違いないだろう。
快進撃を象徴する数字がある。6月28日のヤクルト戦から7月9日の広島戦まで10試合連続で喫した失点はすべて2点以下。これは1956年以来、実に69年ぶりの快記録で、歴史の扉を開くものとなった。
【動画】見よ、華麗なるスローイング! 坂本誠志郎の強肩発動シーン
顔ぶれもかなりのものだ。先発陣では村上頌樹を筆頭に、日本で才能を開花させた元MLBトッププロスペクトのジョン・デュプランティエ、そしてルーキーの伊原陵人。救援陣も守護神の岩崎優に、防御率0点台の石井大智、ブレイクを遂げた及川雅貴などベテラン、若手、助っ人の力が融合したハイクオリティーな投手陣が他球団の前に仁王立ちしている。
そんな多士済々な面々を、主戦捕手としてリードしているのが、坂本誠志郎だ。入団時から定評のあるインサイドワーク、球界屈指のフレーミング能力を誇る女房役の存在も個々の投手能力を最大限発揮することに繋がっていると言えよう。
その最たる例が、今季から結成されたデュプランティエとのバッテリーだ。
来日初勝利を手にするまで1カ月以上を要した背番号20だが、開幕からローテーションを守り、防御率1点台をキープ。率にして11.43という高い奪三振能力と与四球の少なさで支配的な投球を続けている。
そんな助っ人右腕が度々、口にしているのが、「坂本の配球を信じて投げている」という言葉。来日初完封勝利をマークした6月19日のロッテ戦後には「坂本は配球の天才」と絶賛した。本人に聞くと、その心はこうだ。
「今までの登板を見ても、どの登板も全く内容が違う。同じ登板内容はない。彼(坂本)は自分のその日の調子だったり、ボールの軌道、相手のアプローチを見て、配球を変えることができる」
そして、坂本はデュプランティエの場合において、配球だけでなく実は“構え”にも変化を加えている。無走者の際には他の投手とのバッテリー時は付けない右膝を地面に付け、逆に左膝を立ててミットを構えている。これは三塁側に抜けるボールが多いことをキャンプ中に察知した坂本が、左膝をあえて立てて、「壁を作る」ようにしてマウンドからの目標を作った。
バッテリーで相談したわけではない。あくまで「捕手・坂本」の判断である。ただ、デュプランティエは、「視覚的なものもあったのかもしれない。そこ(壁)がないと良いタイミングで投げられない」と効果を実感する。
それぞれの投手の特徴や傾向を分析し、実戦に生かす。坂本が徹底している「下準備」は、開幕のずっと前から始まっている。

相手を探る坂本だが、味方を予習することも怠らない。(C)Getty Images
子どもたちの幼稚園の送り迎えも率先する3児のパパで愛妻家
坂本はチームが始動する春季キャンプのブルペンでボールを受けながら新加入の選手の情報を叩き込む。
ルーキーや助っ人に関しては、動画サイトを駆使して、持ち球や投球フォームをきっちり“予習”。今季5勝もしている1年目の伊原陵人に関しては、ドラフトで指名が決まるや否や、本人の映像はもちろんのこと、社会人時代に対戦経験があり、阪神の元同僚だった北條史也(現三菱重工West)に電話して、印象や特徴の聞き取りも行っていた。
さらにキャンプ中には、滞在するホテルのバイキング形式の食事会場で、若手投手が主食やおかずをどんなバランスで皿に載せているかにも、さりげなく目を配る。
「最初取ってきた量を食べきれずに残したり。同じものだけを取ってきたりとか。それがリードで生きるかは分からないですが、あの投手はああいう性格なんだなとか……イメージとして持っておくことは大事かなと。いろいろ見えてくるものがあるんです。野球以外の部分もいろいろ見てるんです」
何が生きたか生きなかったではない。バッテリーを組み、共同作業で1試合27個のアウトを奪いにいく投手をとにかく知ろうとすること。坂本の行動にはそんな意図が見え隠れする。
「捕手・坂本」への時間を割く一方で、「野手・坂本」の準備も怠らない。18時プレーボールとなるナイターの数時間前、日光が容赦なく照りつける甲子園球場のグラウンドに姿を見せた坂本はゆっくりとランニングを開始。パーカーのフードをすっぽり被ってたっぷりと汗を流す。そうして身体を温め、外野芝生でショートダッシュを数本こなし、休む間もなく室内練習場に移動してマシン相手にバットを振り込む。毎日変わらぬルーティンだ。
今季は課題だった打撃もここまで好調で、26試合連続出塁もマーク。キャンプから取り組んでいることが実を結びつつあるというが、核心を問うと、本人は「いつかは打てなくなると思うんで、また打てなくなった時に教えますね」とイタズラっぽく笑った。
グラウンドを離れれば、3児のパパで愛妻家。子どもたちの幼稚園の送り迎えも率先してやっている。自身4年ぶりとなる今季1号3ランを放った6月7日のオリックス戦後、甲子園から愛車を走らせて自宅に帰ると小学生の長女が、「パパ、プレゼント」とケーキが描かれた絵を手渡してくれたという。
「次の日が日曜日だったので娘も起きていてテレビでホームランを見てくれていました。本物のケーキじゃないんかい、と思いましたけどね(笑)」
ピッチャー、そして愛する家族――。“バッテリー”を組む人たちのために坂本は今日もミットを構え続ける。
[取材・文:遠藤礼]
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