昨夏に3年生10人だけで和歌山大会で1勝を挙げ、レゲエ校歌が話題になった和歌山南陵。昨秋、今春と部員がいないために公式戦…
昨夏に3年生10人だけで和歌山大会で1勝を挙げ、レゲエ校歌が話題になった和歌山南陵。昨秋、今春と部員がいないために公式戦の出場はなかったが、3年ぶりに生徒募集が行われ、野球部も活動再開となった。
なぜ1年生は和歌山南陵を選んだのか
現在は1年生6人と他校から転校してきた2年生1人の計7人が在籍。今夏は有田中央、貴志川と連合チームを組んで、1年ぶりの公式戦に挑む。再スタートを切った和歌山南陵の今に密着した。
和歌山南陵は教職員への給与未払いなどの不祥事が相次ぎ、2022年に学校法人の南陵学園は行政から生徒募集停止の措置命令を受けている。その影響で2年間は生徒募集ができず、昨年の在校生は3年生のみだった。
昨年までは野球部長だった小林祐哉監督は同法人の菊川南陵出身。2022年12月に赴任したが、その直後に募集停止措置が下され、「やっぱり不安でしたね」と振り返る。
その中でも昨年に就任した甲斐三樹彦理事長の尽力もあり、募集停止の措置命令は解除された。「解除できたのは今の理事長の力。信じてついてきて良かったと改めて思っています」と小林監督は語る。
とはいえ、生徒募集が解禁になったのは12月。大半の中学生は既に志望校を決めており、生徒を集めるのは簡単ではなかった。
その中でも6人の1年生が入学。内訳は大阪府出身と兵庫県出身がそれぞれ3人である。なぜ和歌山南陵を選んだのか。1年生を代表して兵庫県出身の井階陽人と井上寛夢にそれぞれ聞いてみた。
「元々は地元の公立校を考えていたんですけど、良い環境で3年間やりたいなと思っていたところに和歌山南陵高校から声をかけて頂きました。1年生から試合に出ることができるし、悔いなく3年間を過ごせるんじゃないかと思って、和歌山南陵高校に進もうと思いました」(井階)
「元々は違う高校に行く予定だったんですが、中学の監督さんから『和歌山南陵高校行ってこい』と言われて見に行ったところ、校長(甲斐理事長)や小林監督がとても良い人だと思って、ここ入ろうと思いました」(井上)

寮、野球部の環境は大きく改善 グラウンドも改装工事中
さらに2年生の佐藤尋斗が転校生として加入。来春までは公式戦に出られないが、チームの主将を務めている。
大阪府出身の佐藤は甲子園出場経験のある地方の強豪校に進学したが、様々な事情があり、転校を決意。「校歌がレゲエというところにまず惹かれました」と和歌山南陵に興味を持ち、縁あって転校することになった。
全校生徒で2年生は佐藤だけ。授業は先生との一対一である。授業の様子も取材させてもらったが、家庭教師や個別指導塾のような雰囲気を感じた。孤独な面もあるが、プラスの方が大きいと佐藤は感じている。
「前の高校では人数が多いので寝てしまって勉強に取り組めていなかったんですけど、今はマンツーマンで授業を受けられているので、凄く成績が伸びました」
報道では寮の設備や食事が酷いと話題になったが、「テレビで映っているよりもマシというか、全然悪くないという印象でした」と井階が言うように現在はその心配はない。食事は寮の食堂で栄養バランスのとれたメニューが出されており、その様子は野球部のInstagramでチェックすることができる。
寮も徐々に改修工事が進んでおり、選手が生活する3階は何不自由なく生活ができるようになった。空室の2階はまだ手入れが行き届いていないが、来春までには全て修復される予定になっている。
生徒勧誘を担当している橋本大輝部長によると、6月から7月にかけて寮見学の希望が10数件あったそうで、来年は20人前後の新入部員を見込んでいる。かつては県外生が多かったが、今後は県内生も積極的に受け入れていく予定だ。
現在、野球部のグラウンドは改装工事中。来春までには内野部分が黒土で、練習試合も可能なグラウンドが完成する予定だ。

指揮官が語る今後の野球部像
今の練習拠点は学校からほど近いところにある南山スポーツ公園野球場。人数が少なく実戦練習ができないこともあり、「まずは基本を重点的にやっています」(小林監督)と土台作りに力を入れている。
選手が少ないと複数ポジションをこなす必要もあるが、「自分がやっているポジションのことだけわかっていても、上手くならないと思いますので、色んなポジションを経験して、野球を覚えてもらえたらと思っています」と小林監督はプラスに捉えている。
週末には連合チームを組む有田中央、貴志川と合同練習を実施。「3年生との会話ができない状態なんですけど、連合になったことによって、先輩との繋がりや先輩に対しての態度とか、そういったものを学ばせてもらう良い機会だとは思っています」(小林監督)と他校の選手と交流することは野球以外の面でもプラスになっているようだ。
夏の和歌山大会は小林監督が責任教師としてベンチ入り、まだ公式戦に出場できない佐藤はボールパーソンとしてチームに帯同する予定となっている。初戦の相手はセンバツ準優勝校の智弁和歌山に決定。いきなり強敵相手の対戦となったが、どんな戦いを見せてくれるだろうか。
単独出場が可能になる予定の来春以降に向けて佐藤は「やっぱり目指すのは甲子園。その目標に向かってみんなでやりたいなと思います」と意気込む。まずはその第一歩として連合チームながらも夏の大会に出られるのは大きな前進だ。
将来的に目指す野球部像について、小林監督はこう語る。
「今、自分に何が足りないかを、自分で課題を見つけてやってくれたらと思っています。昔の野球は、『監督に怒られるからやらなきゃいけない』みたいな野球が多かったんですけど、今は『自分に今、何が足りなくて、どうなりたいか』という明確な個人の目標を持って取り組んでもらえたらそれで良いかなと思っています。そうしたら、甲子園に近づくと思いますし、個々の目標というのが一番大事かなと私は考えております」
ユニフォームも一新され、新たなスタートを切った和歌山南陵。智弁和歌山や市和歌山など強豪校が集うハイレベルな和歌山の勢力図を変える存在になるかもしれない。