モスクワで開催されているグランプリ(GP)シリーズ初戦、ロシア大会のロステレコム杯、競技初日。朝の公式練習で少し入れ込んだような様子だった羽生結弦は、2回パンクしたあとで4回転ルッツをきれいに決めると、その表情に落ち着きを取り戻した。…

 モスクワで開催されているグランプリ(GP)シリーズ初戦、ロシア大会のロステレコム杯、競技初日。朝の公式練習で少し入れ込んだような様子だった羽生結弦は、2回パンクしたあとで4回転ルッツをきれいに決めると、その表情に落ち着きを取り戻した。だが、曲かけ練習では後半の4回転トーループで着氷を乱すミス。少し不満気な顔も見せていた。



GPシリーズ初戦でSP2位発進となった羽生結弦

 それでも、試合直前の6分間練習では、いつもどおりの余裕を持った滑り。ジャージを着たままでトリプルアクセルを決めてエンジンをかけると、4回転トーループ+3回転トーループを余裕十分で決める。4回転ループも非常に落ち着いた精神状態を見せつけるかのようなジャンプだった。

 今大会、羽生のライバルと目されているのはネイサン・チェン(アメリカ)だ。この日第2グループの4番目に登場したチェンは、公式練習ではやや不安定さを見せていたが、本番では最初の4回転ルッツ+3回転トーループをきれいに決めると両手をグッと握りしめてガッツポーズ。その後は少しモタつくような動きになったものの、後半は4回転フリップとトリプルアクセルで着氷を乱した以外、ミスを最小限にとどめ、技術基礎点の高さを生かして100・54点とまずまずの滑り出しをみせた。

 そのチェンからひとりおいて、第2グループ6番滑走で羽生の演技がスタート。最初の4回転ループは着氷が乱れて回転不足と判定されたが、次のスピンふたつをレベル4にし、後半に入ってからのトリプルアクセルは全ジャッジがGOE(出来ばえ点)3点をつける完璧なジャンプだった。今季初戦のオータムクラシックのSPで110点を超える得点を記録した羽生にとって、チェンの得点は脅威にはならないものと思えた。

 だが、次の4回転トーループは着氷で少し尻が下がってしまい、セカンドの3回転トーループは練習時のように両手は上げず、両腕をしっかり締めるジャンプに。なんとか窮地を脱したかに見えたが、着氷でブレードが後方にうまく抜けず、思わぬ転倒となってしまった。

「4回転トーループのあとで迷ってしまったのが問題かなと思います。少し慎重にいってしまいました。4回転トーループ自体は悪くないジャンプでしたが、次を手を上げるジャンプにするには少しスピードが足りないかなと考えて……。一瞬のちょっとした迷いがあったことで、バランスを崩したんだと思います」

 結局、そこでの点の取りこぼしが響き、SPは94・85点でチェンに次ぐ2位発進。それでも、羽生は演技終了後に笑みを浮かべていた。



演技後、氷上で笑顔も見せていた羽生

「もちろん悔しい思いもありました。ただ、演技後の表情を見てもわかると思いますけど、感覚的にはそんなに悪くない失敗のしかたをしているので……。集中してやることはできたなという感じです。もちろん自分の中ではGPシリーズ初戦という緊張感みたいなものもありましたけど、バタバタした感じのショートではなかったですし。ひとつひとつのミスは大きいものだったと思いますけど、ちゃんと集中しながら、いいコントロールができている状態の演技だったのではないかと思っています」

 悔しい思いはありつつも、修正点も見つかった。そのうえ「体力もまだまだ残っている状態だから、その意味でも明日につながるいいステップになったと思う」と羽生は言う。

 この大会、羽生は非常に落ち着いており、余裕を感じさせる。それは、『バラード第1番』も『SEIMEI』も自分の体と心にしっかりしみこんでいるプログラムという思いがあるからだろう。

「いろいろな面でとても落ち着いてできていますね。何よりこの構成が一番練習してきているものですから。もちろんオータムクラシックの4回転サルコウを入れた(SPの)構成と比較すれば20点近く低いので、大きなミスがあったのではないかと思われるでしょう。たしかに評価的には大きなミスがふたつありましたけど、自分の手応えとしてはホントに大きなミスではないと思っています。ちょっとずつ修正して明日に向かえばいいのかなと思っています」



フリーの演技に注目が集まる

 羽生自身がそう言うように、ミスの要因はほんの些細なズレのようだ。ジャンプのほんの数センチの高さの差や、わずか数ミリ単位の回転軸の違いだけなのかもしれない。だからこそ、その落ち着いた気持ちに変化はないのだろう。

「明日のフリーに向けては、誰もが4回転ルッツに期待をすると思いますし、僕自身もルッツを決めてノーミスをすることを期待しながら明日に向けて過ごすと思います。だから、そういう気持ちに逆らわず、期待とプレッシャーを受け止めながら自分が思い切ってできるように気持ちと体をコントロールして、勝ちに向かって貪欲に頑張りたい」

 2013年のスケートカナダ以来、5年連続となるはずだったGPシリーズ初戦のSP1位発進を逃した羽生。その悔しさが、まだ果たしていない自身初の「GPシリーズ開幕戦勝利」へ向けた起爆剤になりそうだ。

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