F1第11戦オーストリアGPレビュー(前編) 角田裕毅(レッドブル)が挑む山の頂(いただき)は、こんなにも遠いものなのか…
F1第11戦オーストリアGPレビュー(前編)
角田裕毅(レッドブル)が挑む山の頂(いただき)は、こんなにも遠いものなのか。
オーストリアGPでは、いよいよレース週末を通して同じ仕様のマシンで戦うことができるため、自分のドライビングに合せたセットアップ手法で、どこまで登り詰めることができるのか。第7戦イモラから手応えは感じながら結果に結びつけられずにいた自分の成長を、ついに結果という形で確かめることができるはずだった。
角田裕毅に降りかかったまさかの事態
photo by BOOZY
金曜フリー走行、そして土曜朝のFP3でも、その手応えは十分。ペースも今までで最もよかった。
予選Q1の最初のアタックでは、マックス・フェルスタッペンに0.280秒差の10位につけた。Q3最後の全力アタックに向けた「素振り」は十分だった。
だが、Q1の2回目のアタックで、まさかの事態が起きた。
「なんで、こんなにアンダーステアなんだ。フロントのグリップがまったくない!」
路面が向上しているにもかかわらず、角田はその後0.017秒しかタイムを縮めることができず、まさかの18位でQ1敗退を余儀なくされてしまった。
「すべてのコーナーで、アンダーでした。1回目のアタックはいいフィーリングだったんですけど、2回のプッシュラップではマシンバランスがまったく違っていて、すべてをうまくアジャストすることができませんでした。もっとうまくやれた部分はあったと思いますけど、『自分』ではなくて『自分たち』として、うまくやれませんでした」
予選で20台がアタックを敢行すると、路面にはラバーが乗って、グリップレベルが急激に上がる。すると、リアタイヤのスライド量は減り、マシンバランスとしては曲がりにくくアンダーステアになる。
その変化を見越して、どのチームもフロントウイングのフラップ角度の調整や、デフやエンジンブレーキといった電子的な調整をアタックランごとに加えて、マシンバランスを最適な状態に保つ。しかし、土曜は路面温度が50度にも達し、金曜と比べると15度ほど暑くなったこともあって、レッドブルはこの調整を外してしまったのだ。
【角田自身が後退したのではない】
フェルスタッペンでさえ、Q1、Q2ともに「マシンバランスがバラバラで、ドライブできる状態じゃない」と訴えていた。ただ、そんなマシン状態でもフェルスタッペンはRB21を知り尽くしているからこそ、引き出せる限界値は高い。
「マックスはそういうクルマをどう扱えばいいか、よく知っている。なので、あのようなサプライズな状況でも、なんとかうまくアタックラップのなかで対処できるんです。
でも僕は、あれだけ1回目と2回目でマシンのフィーリングが違った状況に直面してしまうと、マシンに対する知識が十分でなくてフルにアジャストすることができないので、マシンのポテンシャルを最大限に引き出してアタックラップをまとめることができないんです。予選のたびにこういうことが起きてしまうのは、フラストレーションを感じます」
最終的にフェルスタッペンの0.263秒差とはいえ、レッドブル自体がポジションを下げたこと、そして上位3チーム以外が0.3秒内にひしめく超接戦という要素も絡み合って、角田は18位に落ちてしまった。
フェルスタッペンとの差がいつも以上に小さいことを考えれば、角田自身が後退したのではなく、レッドブル全体が後退したがゆえの結果であることは明らかだ。だからチーム関係者たちも角田を非難するのではなく、チーム全体のペース不足へと視線を向けた。
ひとかたならぬ決意と期待を持って臨んだオーストリアGPの予選だった。だが、目指す頂に向けて山を登り始めると、また新たな山が現われて、再び行く手を阻む──。
角田自身のみならず、チームとしてまだまだ成長しなければならない要素が山積みだということを、あらためて思い知らされた予選だった。