プロボクサーの村田諒太(帝拳)による初めての世界挑戦は判定負けに終わった。たった一度の勝敗でも、その後の運命は大きく変わる。村田の言葉を借りるなら、「スタートなのかエンディングなのかわからない」のがボクシングだ。

5月のWBA世界ミドル級王座決定戦でアッサン・エンダム(フランス)と拳をぶつけあった。プロ入り後最初の黒星になったが、その代わりに世界レベルの相手と互角の勝負ができる自信を村田は手に入れた。

・前回の【村田諒太 再戦へのゴングvol.1】負けたことで手に入れた自信

村田諒太選手 撮影:五味渕秀行

自分が優秀でいられる場を作りたい
現役続行の一番の決め手を尋ねると、ちょっと首を傾げて「決め手…。やめるという選択があまりなかっただけ」と返ってきた。競技生活を支えてくれる人々の存在もあったが、彼にとってボクシングはまず己の存在を示すものでもあった。

「自分はボクサーなので、それで世間に自分を認めて欲しいと思ってやっているんですよね。初めは勉強をして優秀になろうと思っていたけど優秀になれず、じゃあサッカーをやって優秀になったかというと、僕はサッカーをやったことがないので優秀になることもなく、陸上で優秀になったかというとそれもやっていられなくて…。でも、どこかでやっぱり目立ちたい。自分が優秀でいられる場を作りたいという気持ちがあって、それがアイデンティティーだと思うんですよね」

エンダム戦ではアイデンティティーの確立ができた。それをもっと強固なものにしたかった。だから、村田が「ボクシングをやめる」という選択肢を選ぶことはなかった。

「やはり注目されて、正直嬉しいものですから。『見て!僕を見て!』って(ボクシングを)やっているので。子どもがちょっと悪さをしてイタズラで親の気を引くような感じですよ。ボクシングをすることによって誰かの気を引いて、根本的な行動は大差がないです。それが(前回の試合で)できたし、もともと持っている強い根源みたいなものもあるので、それがある限りは戦うのだと思います」

幸運なことに、再試合という舞台が用意された。その事実に「恵まれていると思うんです。運もいいし…」と感謝の気持ちを噛みしめる。

短い撮影の合間にも常に体を動かしていた 撮影:五味渕秀行

私生活では子煩悩で知られる村田。オフはふたりの子どもと遊ぶ。エンダム戦の後は長男から「パパ負けちゃったの?」と言われた。

「保育園に行って、友だちの親から『パパは負けちゃったんだね。判定で負けちゃってかわいそうだね』みたいに言われたのでしょうね。だから「パパ負けたんでしょ? でも、あれパパ勝ってたよね?」とか、そんな感じですね。まだ6歳なので、わかっていないし」

子どもの話になると頬をゆるめ、優しい目を見せる。まだ理解が追いつかない長男と3歳の長女、負けて帰ってきた夫に「さらさらやめるつもりはないんでしょ?」と理解を示す妻が村田を支えている。そういう家族の存在もまた恵まれていると言えるだろう。

公開練習で報道陣と談笑する 撮影:五味渕秀行

距離感の縮んだエンダムについて
10月22日の再戦に向けて、15日にはエンダムが来日した。前回の試合翌日、村田はFacebookに「大切なことは、2人がベストを尽くしたこと、日本に来てくれて感謝していると伝えました」と記し、エンダムとのツーショット写真を掲載するとスポーツマンの友情として話題になった。

村田にプロボクサーではなく、人柄という意味で「エンダムはどんな人?」と質問を投げてみる。少し考えながら村田は「人柄は…どうなんでしょうね。わからないですよ」と苦笑いを浮かべた。

「(お互いに)試合のあとで何か罵り合うタイプでもないし、別に飲みに行ったわけでもないですからね(笑)。だから、何を話したわけでもないんですよ。ただ同じように罵り合うタイプではない…とは言っても、僕もクリーンなタイプでもない。聖人君子ではないと思うんですよね。この世界で生きて、人を殴ってその上に立って、ということを選んでやっている人間が聖人君子で小綺麗な人間かというと、そんなことはないと思う。だから、(エンダムも)そんなものじゃないでしょうか」

一度戦い、言葉を交わしたことでちょっと距離感の縮まったエンダムとの再戦は、気持ちの持っていき方が難しいと村田は考えている。しかし、ゴングが鳴らされたら殴り合うだけだ。前回の対戦で手の内を見せ合ったが、今回も根本的な部分は変わらないだろうと踏んでいる。

アッサン・エンダム選手(手前)と戦う村田諒太選手 (c) Getty Images

「僕は昔から前に出ていくタイプ。エンダム選手はどちらかというとアウトボクシング。出て、入って、相手の隙を見て撃つっていうのが彼のボクシングなので、そのスタイルが変わることはないと思うんですけどね」

その一方で、変わらない=研究されたら攻略される恐れがあるということだ。そこに一抹の不安はあるが、半信半疑で臨んだ前回でも自分のボクシングが通用した事実が村田にはある。

「相手がもし仮に、僕の右の強いパンチを研究してきていて、完全にかわされるようだったら、もうそれは勝ち目はないだろうし。でも前回の試合と違うのは、今回僕は自信を持って試合に臨めるというのがまず違います。だからリングに上がってみないとわからない。あとはもう結果論なので。リングに上がってどちらのボクシングが通用するのか、試してみるだけという感じです」

【村田諒太 再戦へのゴング vol.3】ノックアウトのチャンスを逃さないために に続く。

●村田諒太(むらた りょうた)
1986年1月12日生まれ、奈良市出身。帝拳プロモーション所属。2012年にロンドン五輪ボクシングミドル級で金メダルを獲得して脚光を浴びる。アマチュア時代の戦績は137戦118勝89KO・RSC19敗。2013年8月にプロデビューし、戦績は13戦12勝(9KO)1敗。趣味は子育て。

取材協力:ナイキジャパン

【村田諒太 再戦へのゴング vol.2】ボクシングは己の存在を示すもの

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アッサン・エンダム(手前) とWBA世界ミドル級王座決定戦で戦う村田諒太(2017年5月20日)(c) Getty Images

アッサン・エンダム(手前) とWBA世界ミドル級王座決定戦で戦う村田諒太(2017年5月20日)(c) Getty Images

アッサン・エンダム(左) とWBA世界ミドル級王座決定戦で戦う村田諒太(2017年5月20日)(c) Getty Images

アッサン・エンダム(左) とWBA世界ミドル級王座決定戦で戦う村田諒太(2017年5月20日)(c) Getty Images