東大にまさかの連敗から1週間。再起に図る法大は先発の菅野が好投をみせると3回に中山が先制打を放つ。7回に追いつかれるも、8回に先頭の中山が安打で出塁すると、2死三塁から代打毛利の適時打で勝ち越しに成功。その後は菅野が早大打線を振り切り今季2…

東大にまさかの連敗から1週間。再起に図る法大は先発の菅野が好投をみせると3回に中山が先制打を放つ。7回に追いつかれるも、8回に先頭の中山が安打で出塁すると、2死三塁から代打毛利の適時打で勝ち越しに成功。その後は菅野が早大打線を振り切り今季2度目の完投勝利を飾った。早大エース小島に投げ勝った菅野はリーグ戦トップタイの3勝目を飾り、勝ち点奪取へ幸先良く先勝した。

 

 まさかの結果だった。先週、法大は東大に連敗。勝ち点を奪取されるのは24年ぶりであり、さらに法大から連勝で勝ち点というのは89年ぶりだった。2回戦終了後、応援席に頭を下げる選手たちの顔は呆然とした表情、深刻そうな表情で包まれていた。しかしそれは当たり前の結果だったのかもしれない。エース宮台康平を筆頭に、ここ数年飛躍的に成長し結果を残してきた東大。勝ち点は15年間遠ざかってきていたものの、投打が上手く噛み合わせることができれば勝ち取ることができるのも時間の問題だった。あの日、あの時、法大には何が足りなかったのか。隙はたくさんあったはずである。一週間という短い間で法大には結果を真摯に受け止め、もう一度新たな気持ちを持ち直し、早急なチームの立て直しが求められた。

 そんな状況下で迎えた早大との対戦。大事なマウンドは菅野秀哉(キャ3)の右腕に託された。前回の東大1回戦は3回6安打、自責点2で早々にKOされ悔しさが全面に残る登板となった菅野。フォームを見つめ直すことで、昨季で最優秀防御率を獲得した時の姿を追い求め、自身のいつも通りの投球を取り戻すことを目指した。小雨が降ったり止んだりするような悪条件でのゲームとなったが、菅野の投球に前回登板のような狂いはなかった。1回、2回と先頭打者に出塁を許すものの、緩急を上手く使った投球で走者の進塁を許すことなくスコアボードに「0」を刻んでいく。3回から4回にかけては4者連続三振を奪い、好調をアピールした。先週の日曜日、敗戦を受け重苦しい空気に包まれた応援席は、菅野の投球で正反対のような盛り上がりを見せた。 菅野の好投に応えたい打線は3回、ここまで菅野と同じように好投を見せていた早大先発・小島和哉を攻略する。一死から小林満平(法3)の左前安打を皮切りに、主将・森龍馬(キャ4)も三遊間を綺麗に抜いていく左前安打で好機を拡大する。迎えた打者は4番の中山翔太(キャ3)。監督から託された不動の四番打者として、菅野と同じように先週の敗戦を受け気持ちの整理をして臨んだという今日の一戦。気温14度という中、半袖姿といういつものスタイルで打席に向かう中山。菅野に何としても援護点を。彼の背中からは絶対に勝利をもぎ取るという熱い思いが感じられた。小島が外角に投じた138㌔の直球を上手く打ち返す。ストレートかボールかという微妙な場所に投じられた1球だったが、中山に迷いはなかった。打球は左翼手加藤雅樹の正面に落ちる安打となり、二塁走者・小林の好走塁もあり先制の適時打となった。3連打で先制点を挙げる理想的な攻撃となった。

 援護を受けた後の菅野は、最小点差の中でも本来の安定した投球を維持し、早大に対し凡打の山を築く。1-0とリードを守り続けていた7回。先頭の4番・加藤にこの日2つ目の四球を許し、続く宇都口滉の犠打で得点圏に走者を置く。この日それまで2回の得点圏に走者を許すピンチを喫していたが、毎度抑えていた菅野だっただけに安心して見ていられそうな場面だった。ここで早大ベンチが動く。代打攻勢で送り込まれた山田淳平を空三振に打ち取り2死に追い込むものの、続く代打・熊田睦の9球目。菅野自身、「甘く入ってしまった」と振り返った内角の真球は、熊田のパンチある打撃に負け、右翼手、向山基生(営3)の頭の上を越える適時二塁打を許す。中継からの好返球で3死とし、追加点を阻止できたことは非常に大きかった。 先発・小島の前にその後沈黙が続いていた打線。同点に追い付かれた7回に、またもこの男のバットが火を吹いた。先頭打者として自身の役割を果たそうと心がけたこの場面。141㌔の直球を持ち前のフルスイングで左前安を放つ。「凡退したらいつもと同じ。気持ちで打った」。この思いが後続の打者に繋がった。犠打、内野ゴロの間に中山は3塁に進み、ここまで3打数無安打に終わっていた相馬優人(営2)に代わり、代打に送られたのは毛利元哉(法2)。ここまで打席で結果を残しているものの先発として出場できないでいた毛利。中山は塁上で「いつもは感じないような打つ感じがした」と振り返った。打席に向かう姿はここまで控え選手だったようには思えないような自信に満ちているようだった。「自分が決めなきゃダメだ」という強い気持ちを胸に、小島のこの日投じた131球目の直球を思い切り叩いた。打球は一塁手佐藤晋甫の頭上を少し越え、見事右前適時打となった。この場面、一番喜んでいたのは決勝点のホームを踏んだ中山だった。体全体で喜びを表し、毛利の適時打を祝福した。中山はリーグ戦前に、現在期待している選手について毛利の名を挙げ、「バッティングは良いので、気持ちの面でもうちょっと負けん気を出してほしい」と述べていた。中山の気持ちが毛利のプレーにも伝わったように思えた。そんな瞬間だった。

 試合は菅野が見事にリードを守り切り、今季2度目の完投勝利。奪三振も今季最多タイの「8」で本来の調子を取り戻したように見えた。「次は完封を狙う」とさらなる飛躍を約束した菅野。不動のエースとしてまた一歩踏み出した。

 チームは早大に対し16年秋以来2季ぶりの勝利となった。一度どん底を見た男たちは、今この状況で何を思うのだろうか。安堵するのはまだ早い。強い法大を取り戻すために。最後まで熱い気持ちを持ち続けられれば、良い結果は必ずや舞い降りてくるだろう。(岡﨑祐平)

 

クローズアップ

中村浩人 (菅野を好リード ライバルと切磋琢磨し真の正捕手へ)

 最後の打者佐藤晋輔を打ち取るとガッツポーズを見せ、菅野と共に喜びの表情を浮かべた。悲劇の東大戦から1週間。悔しさが残る中で迎えた試合だった。「バッテリーで勝てたと言われるような試合をやろう」この言葉通り悔しさを力に変えて菅野の1失点完投を大きくアシストした。

 2年前の春季開幕カードの慶大1回戦。当時1年生の中村浩人(営3)は衝撃の神宮デビューを果たした。同じく1年生の森田駿哉(営3)を好リードし、打っても決勝打を放つ大活躍。中村が扇の要として法大を背負って立つと誰もが思っていた。しかしその後は不調に苦しみ出場機会を失い、ベンチを外れるという屈辱さえ味わう。さらに昨季は同期の鎌倉航(法3)がレギュラーをつかみ活躍する姿を見せつけられた。それでも今季はチャンスが訪れた。次第に鎌倉と併用されるようになり、先発起用も増えた。その中で今日、見事なリードを見せた。「鎌倉と一緒に配球を研究しているのでどちらがでても2人で頑張っていきたい」と互いに信頼を置いている。だが、あくまで目標はレギュラー奪取だ。「鎌倉の配球を参考にレベルアップしていきたい」と語るように捕手としての飽くなき探求心が伺える。

 「法大の捕手といえば中村」と言われる日まで。個性豊かな投手陣を率いて最高のバッテリー陣を構築してほしい。これからの勝利は全てバッテリーのおかげだ。こう言われる日まで。中村浩人は神宮で躍動する。(石川大悟)