現在、潤沢なオイルマネーを背景に、サッカー界で意見を強める中東諸国。蹴球放浪家・後藤健生が所属していた真面目な組織も、…

 現在、潤沢なオイルマネーを背景に、サッカー界で意見を強める中東諸国。蹴球放浪家・後藤健生が所属していた真面目な組織も、いつの間にか、その支配下に置かれていたという。静かに忍び寄る「長い手」に、蹴球放浪家が警鐘を鳴らす!

■あまりに「小柄だった」名GK

 表彰式にはドイツ代表のGK、オリバー・カーンなど多数の現役選手のほか、フランツ・ベッケンバウアーやヨハン・クライフも招待されていました。到着して、会場のホテルにチェックインしてエレベーターに乗っていたら、いきなりイングランドの名GKゴードン・バンクスが乗ってきました。GKというには、あまりに小柄なのでビックリしたことをよく記憶しています。公称183センチですが、そんなになかったと思います。

 IFFHSのメンバーともこのとき、初めて直接対面しました。ベルギー・サッカー協会の役員などもいましたが、ジャーナリストや在野の歴史家が多く、その後も交流は続き、資料のやり取りなどをしていました。インターネットで何でも手に入る時代ではなかったので、僕にとってはかなり便利な情報源でした。

■資金援助後、「本部」はアブダビに

 さて、その後、IFFHSの活動はどんどん派手なものになっていきましたが、そのうちドイツのテレビ局からの資金協力が得られなくなってしまったのです。

 そんな中、ペーゲ博士からメンバー全員にメールが回ってきました。

「アラブ首長国連邦(UAE)のファンドから資金援助してもらえそうなのだが、どう思うか?」というのです。

 僕は、反対でした。「アラブ人の気質を考えれば“金を出しても口は出さない”ということはあり得ない。援助を受ければ、いずれ運営の主導権を握られてしまう」と思ったからです。

 しかし、結局、IFFHSはUAEからの資金を受け入れ、数年後にはIFFHSの本部はアブダビに移り、会長もUAEの人物になってしまいました。

 その後もIFFHSは活動を続けて、今でも「最優秀××」とか「△△のベスト・イレブン」の選出などをやっているようです。

 本部はスイスのチューリヒに置かれていますが、今でも会長はUAE人のまま。ペーゲ博士が設立し、ヨーロッパのメンバーが作り上げたIFFHSは、こうしてUAEに乗っ取られてしまったのです。

■FIFA会長にとって「最重要業務」は

「乗っ取り」がIFFHSだけなら実害はありません。しかし、実際には多くの組織が乗っ取られてしまいました。

 1970年代に西アジアのサッカーが台頭して以来、東アジアとのバランスを取りながら運営されてきたアジア・サッカー連盟(AFC)。本部は、今でもマレーシアのクアラルンプール近郊にありますが、会長職はこのところずっと中東でたらいまわし。アジアカップや各年代別大会、ACLと、ほとんどの大会がサウジアラビアかカタールで開催されるようになってしまいました。

 つまり、「AFC」は事実上「アラブ・サッカー連盟」になってしまったのです。

 いや、IFFHSやAFCだけではありません。国際サッカー連盟(FIFA)もサウジアラビアの資金力に屈してしまったようです。来月開かれるクラブ・ワールドカップも、2026年のFIFAワールドカップも中東の資金頼り……。

 今月15日に南米のパラグアイでFIFA総会が開かれましたが、ジャンニ・インファンティーノ会長はトランプ米大統領の中東歴訪に同行していたため、総会に遅刻して世界中の顰蹙を買いました。今や「中東詣で」こそが、FIFA会長にとっての最重要業務となってしまったようです。

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