サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マ…
サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、口をポカンと開けて見送るしかない、「特大の一撃」について。
■記録更新後「代表選手」としてプレー
「91.9メートル」の超ロングシュートを決めたのは、ストーク・シティのボスニア人GKアスミル・ベゴヴィッチ。2013年11月2日のサウサンプトンとのプレミアリーグ・ホームゲーム、開始直後に相手のキックオフからのボールを奪った味方のバックパスを受けたベゴヴィッチは、ゴールエリアを2メートルほど出たところから思い切りキック、それがワンバウンドして相手GKの頭上を越え、ゴールに転がり込んだのだ。
それが「91.9メートルの『ギネス記録』だっただけでなく、キックオフからわずか13秒のゴールということも衝撃だった。ただ、試合は前半のうちにサウサンプトンが同点とし、この試合1-1の引き分けに終わった。
ベゴヴィッチのこの記録を7年ぶりに4メートル余り更新したキングは、興奮を隠せなかった。
「もちろん、狙ったわけじゃないよ。でも、うれしいし、家族も誇りに思うだろう。悪いけど、ベゴヴィッチには、哀悼の意を伝えなければならないね。毎年クリスマスに発行される本に自分の名前が出るなんて、夢のようだね。できることなら、これからずっとこの記録が破られず、『ギネスブック』に載り続けて、孫たちに見せたいものだね」
フルネームはトーマス・ロイド・キング。イングランド南西部の港町プリマスで生まれ、少年時代をスペインにある英国領ジブラルタルで過ごした。U-17イングランド代表の経歴を持つが、2023年からウォルバーハンプトンに所属している。ただし、控えのGKである。この「ギネス記録」の後、2024年にはウェールズ代表としてプレーした。
■Jリーグ最長記録は「フリーキック」
「Jリーグ記録」は、おそらく松本山雅FCのGK村山智彦が2013年のJ2リーグ第40節、11月10日のモンテディオ山形とのホームゲームで決めたFKだろう。前半18分、松本MF喜山康平への山形FW中島裕希のファウルで松本にFKが与えられる。場所は松本ペナルティーエリアの右すぐ外。村山がボールを置き直し、最前線の長身FW塩沢勝吾めがけて蹴った。
だが、風に乗ったボールは思いがけなく伸び、山形守備陣の頭上も越えてペナルティーエリア手前に落ちる。そして高くバウンドすると、前進していた山形GK常澤聡の頭上を越えてゴールに入ってしまったのである。私の推計では93メートル。「ギネス記録」のトム・キングに近い距離だった。
ただ、ベゴヴィッチの「91.9メートル」より長いはずだから、申請していれば村山の記録がキングのゴールまで「ギネス記録」だった可能性は高い。
試合は、後半に山形が逆転し、松本は一度は同点にしたが、アディショナルタイムに山形にPKを許し、MF大久保剛志に決められて、2-3で敗れた。どうもGKの超ロングシュートが決まってしまうと、チームは勝ちにくいものらしい。
■日本代表の最長記録は「鹿島の鉄人」
日本代表では、鹿島アントラーズに所属していたMF小笠原満男が2006年2月18日のフィンランド戦で決めた自陣からのゴールが「最長記録」ではないか。
1-0のリード(小笠原のアシストでFW久保竜彦が得点)で迎えた後半12分、日本代表は自陣ペナルティーエリア前でDF宮本恒靖からDF中澤佑二へと横パスをつなぎ、ビルドアップを開始する。ペナルティーエリアの左前でボールを受けた中澤は、センターサークルから左に開きながら戻ってきた小笠原にボールを渡す。
1点ビハインドながら、フィンランドはしっかりとしたディシプリン(規律)を持つチームだった。日本のテクニックとパスワークに対応するため、自陣にコンパクトで堅固なブロックをつくり、その背後のスペースはGKミッコ・カベンがカバーする守備組織を崩さなかった。その守備を破るアイデアを実行するチャンスを、小笠原は待っていたのである。そして、そのときがきた。
フィンランドがボールを取りにこないのを見て、小笠原は、ハーフウェーラインの手前から思い切ってゴールを狙った。ボールは59メートルを飛び、ノーバウンドでフィンランドゴールに吸い込まれた。
サッカー選手なら、誰でも一度は「ロングシュート」に憧れるに違いない。私の少年時代では、日本代表とヤンマーディーゼルで活躍した釜本邦茂のロングシュートが印象に残っている。
1968年のメキシコ・オリンピック初戦、2-1で迎えた試合終盤、MFに下がっていた釜本は相手のゴールキックをカット、数歩持つと、35メートルの距離から右足を思い切り振り抜いた。矢のようなシュートがナイジェリア・ゴールに突き刺さり、勝利を確定するとともに、チームを大きく勢いづけた。
そのようなシュートを見ると、誰でも自分にもあのようなボールを蹴る力があると思ってしまうようだ。翌日、グラウンドに出た私は、ペナルティーエリアのかなり外から思い切り右足を振り回したが、ボールはゴールの枠さえとらえず、ワンバウンドしてゴールの横を通り過ぎていった。