それは予想外の変更だったが、今年の「マスターズ」に臨むロリー・マキロイ(北アイルランド)に大きな成果をもたらした。きっ…
それは予想外の変更だったが、今年の「マスターズ」に臨むロリー・マキロイ(北アイルランド)に大きな成果をもたらした。
きっかけは、南フロリダにあるマイケル・ジョーダンの超高級ゴルフクラブ、ザ・グローブXXIIIのショートゲーム練習エリアで「なんとなく遊んでいた」ときのこと。マキロイはテーラーメイドの違うモデルのボールでショットを打ち始めて、感触が気に入った。それまでボールを替えるつもりはなかったのに、そのボールは次のスタート時にバッグに収まっていた。
その1週間後、新ボールはマキロイの今季PGAツアー初戦「AT&Tペブルビーチプロアマ」(1月30日~)で実戦投入され、優勝に貢献するとバッグに定着。「ザ・プレーヤーズ選手権」も制覇し、オーガスタナショナルGCへやって来る前に2勝を挙げた。
マキロイはテーラーメイド「TP5x」を使い続けてきたが、新たに投入したのは同社の「TP5」だった。
「グリーン周りの反応がすごく気に入った。それで、60から70ydほどのショットを打ってみたら、打ち出しはかなり低めなのに、もっとスピンが効いていたんだ」
さらに喜んだのは、ドライバーのテストで、TP5がより低圧縮のボールにもかかわらず、ボール初速が一切落ちないことが判明したことだ。
TP5はTP5xと比較すると、グリーンを狙うショットやグリーン周りのショットでスピン量が多く、若干ソフトな打感となっている。またTP5xよりやや低弾道。昨年、テーラーメイドが同モデルで3年ぶりに最新版のTP5とTP5xをリリースした際、TP5xは「同社史上最速のボール」とされたのに対し、TP5には「最もソフト」という謳い文句がついていた。また、最新のTP5は従来モデルと比べて、ドライバーショットでより低スピンを実現し、アイアンショットではスピン量が増加している。マキロイが変更に踏み切った理由の一つは、ここにあった。
マキロイは2019年モデルのTP5xを使ってきた。同年モデルのTP5は、ドライバーのテストでスピン量が多すぎると話していたが、2024年モデルは違っていた。
今年のマキロイは2勝以外にも、昨年と比べていくつかのスタッツを向上させている。ストロークゲインド・アプローチ・ザ・グリーンは2024年が52位だったが、19位に。125-150ydの平均プロクシミティも115位から32位へ。スクランブリングも17位から4位に上げている。
いずれもマキロイが目指していたスタッツ上の改善だ。年始に「今年はボギーフリーのラウンドを増やしたい」という抱負を述べ、ショートゲームの向上がそれに一役買うだろうと語っていた。2024年はショートゲームに「少し浮き沈み」があったので、そこの一貫性を高めたいと思っていたのだ。
また、ショートアイアンでは低めでコントロールしやすい「弾道の調節されたショット」を打つようになった。それは「ザ・プレーヤーズ選手権」のプレーオフでJ.J.スポーンを退けた際に見られた。16番でバーディを奪い、3ホールのプレーオフで1打リードすると、アイランドグリーンの17番(パー3)は9番アイアンで「弾道の調節された」ショットを放ち、安全にグリーンを捉えた。その後、スポーンがティショットをグリーン奥の池に入れて、2度目の「プレーヤーズ」タイトル獲得がほぼ確定した。
17番のショットは「スリークォーター、スリークォーター」と言い、これはスリークォーター(3/4)のスイングでスリークォーターのボール初速で打ったことを意味する。
「ウェッジではいつも打っていたショットだけど、9番や8番や7番アイアンで打つことは気乗りしていなかった。でも今年は、17番での9番アイアンや、最終日の8番アイアンのように、短い番手でもよく使うようになったね」
TPCソーグラスの優勝記者会見で、マキロイは2024年「マスターズ」の第2ラウンドに風の中のプレーを改善させる必要性と感じたと語っている。その日、風の強いオーガスタナショナルで「77」をたたき、「マスターズ」初優勝を事実上消滅させたのである。
「風がとても強かった。ああいう日にアンダーパーで回るために必要な全てのショットを持ち合わせていなかったかもしれない。今はああいうコンディションでも、もっと上手く対処できる準備は整っていると思う。ウェッジやショートアイアンの弾道調節の問題が修正できたと思うんだ」
テーラーメイドで上級ツアーマネジャーを務めるエイドリアン・リートベルド氏は、選手がショートアイアンを加減して打つときなどのように、スイングスピードを落としてボールを打つと、ボールとクラブフェース間の摩擦は低減すると説明した。そうなると、ボールはフェースを滑り上がり、低スピンで高く打ち出されるため、ショットの飛距離と弾道のコントロールが難しくなる。しかし、TP5は低弾道ながら高スピンになるよう設計されており、その特性がそうした傾向への対抗策となる。
「今の彼はそういう加減したショットが打てます。打ち出し角が低くなったので、ボールが高く上がってしまうことがなくなり、その上、スピン量をコントロールできるため、飛距離もコントロールできるようになったんです。ボールがもたらした自信で、彼はそうしたショットを快適に打てています」
マキロイの最大の武器であるドライバーショットは、ボール変更の影響を受けていないようだ。ストローク・ゲインド・オフ・ザ・ティ(+0.86)はトップに立ち、ドライビングディスタンス(315.2yd)は6位。なお、直近となる2週前の「ヒューストンオープン」最終ラウンド前に、ドライバーのスピン量を減らすため、ロフトを0.5度減らしている。
今週、再びキャリア初のグリーンジャケット獲得を目指すマキロイは、新しいボールで、ショートアイアンによる低弾道かつ高スピンのアプローチショットを携えてやって来る。ゴルフ史上最高のロングゲームの持ち主の一人が、ショートゲームの引き出しも豊富になった。今週それらをまとめ上げ、悲願達成を実現させるか見ものである。(協力/ GolfWRX, PGATOUR.com)