前戦のバーレーン戦から守田英正、三笘薫、南野拓実、上田綺世、堂安律、瀬古歩夢が外れ、田中碧、中村敬斗、鎌田大地、前田大然、菅原由勢、高井幸大がスタメンに加わった。森保一監督は一挙6人を入れ替えてサウジアラビア戦に臨んだ。バーレーン戦はベス…

 前戦のバーレーン戦から守田英正、三笘薫、南野拓実、上田綺世、堂安律、瀬古歩夢が外れ、田中碧、中村敬斗、鎌田大地、前田大然、菅原由勢、高井幸大がスタメンに加わった。森保一監督は一挙6人を入れ替えてサウジアラビア戦に臨んだ。バーレーン戦はベストメンバーで臨み、サウジアラビア戦はサブで臨みました、と言っているようなものだ。なぜ、漸次的に入れ替えようとしないのか。

「FIFAランクを上げるためにW杯までひとつも落とせる試合はない」(山本昌邦ナショナルチームダイレクター)と言いながら、サウジアラビア戦を0-0で引き分けるハメに陥った大きな原因である。継続性の低い別仕様のチームがうまく機能しないのは当然。これぞダメ采配の典型と言える。



バーレーン戦から先発6人を入れ替えたサウジアラビア戦の日本代表 photo by Fujita Masato

 左・中村、右・菅原。3-4-2-1の両ウイングバックも一新された。対するサウジアラビアも3-4-2-1、実質5-4-1の布陣で守りきろうとした。前線からプレスを掛けようとする姿勢はない。試合は日本のワンサイドゲームとなった。77.6%対22.4%。AFCのデータに両軍のボール支配率はそう記されていた。

 試合後、会見場に現れた森保監督は決して不満そうではなかった。「チャンスは作りましたが得点を奪うことができなかった」と省みつつも「押し込まれてチャンスができなかったわけではない」と、試合内容を肯定的に捉えていた。

「チャンスは作りました」「チャンスができなかったわけではない」と、森保監督は言う。しかし、ひと言でチャンスと言っても、内容はさまざまだ。問われているのはチャンスの質であり、度合いだ。惜しいチャンスもあれば、決定的なチャンスもある。あまり惜しくないチャンスもある。

 この試合の決定的なチャンスを挙げるならば、前半8分、前田が放ったポスト直撃弾だ。ゴール正面付近で高井からパスを受けた田中がスルーパスを送る。それに反応した前田が右足で放ったシュートである。スピードの出し過ぎで、腰を十分にひねることができなかったために、シュートを逆サイドに蹴ることができなかったというワンシーンである。

【サイド攻撃が機能しない理由】

 これに迫る決定機はなかった。対して惜しいシーンは2回あった。ひとつは前半19分、前田がプレッシングから相手ボールを奪い、ゴールに迫ろうとしたプレーである。だが次のタッチを誤り、弱々しいシュートになった。ふたつ目は後半37分。鎌田の縦パスを受けた伊東純也が左足で放ったシュートである。枠内に向かったものの相手GKにフィスティングで防がれたプレーである。久保建英が1本ミドルシュートを放ちスタンドを沸かせたが、言うならばそれはあまり惜しくないチャンス、となる。

 チャンスシーンはこの程度だった。森保監督の評価は甘い。77.6%支配しながら、拙攻の山を築いたと言うべきではないか。

 その原因は何か。引いて構える相手にはサイドを突け。この鉄則がまったく徹底されていなかったことに尽きる。試合後の会見では、森保監督もこの点について触れていた。鉄則について理解しているようだった。では具体的にどんな指示を送ったのか。ピッチを俯瞰する限り、その中身はまったく見えなかった。指示が出ていたのにあの程度だとしたら、指示の中身に疑念が湧く。

 ウイングバックの2人、中村と菅原はタイプが違う。4バック時では中村は典型的なウイングで、菅原はSBだ。その両者を同じ高さで起用しているわけだ。

 まず右。菅原が縦を走り、それなりに有効性の高いクロスボールを蹴り込んだシーンは1度。ドリブル&フェイントに特段の武器は持ち合わせていないので、他は自重した。右サイドをカバーすることに終始した。

 サイド攻撃を活性化しようと思えば、2シャドーの右寄りに配置された久保建英とのコンビネーションプレーが不可欠になる。久保は所属のレアル・ソシエダではご承知の通り典型的な右ウイングとしてプレーする。右ウイングプレーのスペシャリストである。だが、森保監督は久保をサイドで起用しない。4バック時でも1トップ下、あるいはインサイドハーフに置く。レアル・ソシエダの久保は、森保ジャパンでは見られないものとなっている。理由は不明だ。

【中央も機能不全に】

 久保はかつてテレビ局のインタビューに、一番好きなポジションはトップ下と答えている。そうした意味で相性はいいのかもしれないが、左利きがプレーに強く現れる選手は、真ん中でプレーすると進行方向がバレやすいという欠点がある。それがレアル・ソシエダで右ウイングとして起用される理由でもあるはずだ。

 しかし、森保ジャパンでシャドーを任されると、久保は内寄りで気持ちよさそうにプレーする。となると、右は菅原ひとりになる。それではサイドを丹念に突くことはできない。建設的なプレーも生まれない。サイド攻撃の成否のバロメーターとなる、最深部からマイナスの折り返しが決まった回数はゼロ。そこにこだわって久保と菅原がコンビネーションの練習に励んだ形跡さえ見て取ることができなかった。

 一方、左の中村。確かに開始直後は魅せた。ドリブル&フェイントで縦突破と内へのカットイン、さらには鎌田から受けたパスを折り返したプレーもあった。ウインガーとしての切れ味は最近の三笘より上ではないか。中村に好印象を抱いたが、それも前半15分までだった。以降は右の菅原同様、孤立した。トライするものの抜けない。これを繰り返しているうちに疲れてしまったように見える。

 中村に期待されているプレーが単独突破であることは、彼をサポートする姿勢が見られない周囲の動きにも現れていた。2シャドーの左、鎌田は久保と異なりサイドアタッカーではない。久保以上に真ん中で構えたがるタイプだ。

 前田が1トップであることも輪を掛けた。前田はポストプレーヤーではない。基本的に遅攻には向かないタイプだ。鎌田がその役をある程度果たさないと、コンビネーションは生まれない。真ん中も機能不全に陥る。

 本来ならば、所属のバイエルンで左SBとしてもプレーする伊藤洋輝に中村のサポートを期待したいところだったが、森保ジャパンでは3バックの左CBだ。中村のサポートに駆けつけるには距離がある。それにそもそも、その意欲が低そうだった。

【狭い3バックの間隔】

 伊藤の行動範囲は狭いように見えた。パッと見は、サボっているようにも見えた。なぜ、相手の1トップに対しCB3人で構えるのか。最終ラインは終始、人がダブついていた。その余剰分が、前方での人数不足を招き、サイド攻撃に悪影響を及ぼしている。ピッチを俯瞰すれば、この構図は次第に鮮明になっていった。

 さらに言えば、CB3人の間隔が狭かった。両ウイングを押し上げる構造になっていなかった。77.6%の支配率を誇るわりに中村、菅原の位置取りは低かった。

 CB3人の間隔が狭くなった理由は以下のとおりだ。

 3人の真ん中で構える板倉滉は常時、相手のワントップ、マルハン・アルサハフィと1対1になっていた。伊藤、右CBの高井は当然、板倉のその状況が心配になる。3人も置きながら、肝心な箇所は1対1というこの現実。3人のCBが相手FWひとりに手を焼く構図に間違いの元がある。

 センターは2バックで十分であるはずなのに3人を据える。森保監督が心配性なのはわかるが、その過剰防衛は効果的ではない。その歪みがピッチの各所、特に攻撃面に押し寄せているのだ。

 なぜ森保監督はこの3-4-2-1を採用するのか。2018年7月に就任して以来、きちんと語った試しは1度もない。「臨機応変」「賢くしたたかに」などという言葉で誤魔化している。この日もお茶を濁すような言い回しで、本質を語ろうとしなかった。

「私は極度の心配性だから」「敗戦を誰より恐れているから」と言うならわからないではないが、それでも、相手が1トップで向かってきたとき、中央は1対1になる3バックの構造的問題は解決されない。W杯本大会に向け、不可解さは募るばかりだ。