「台鋼VS岱鋼」が実現、2日間で1万2000人のファン集まる 2月27、28日の2日間、昨季から台湾プロ野球の1軍に参入した「第6の球団」台鋼ホークスと、同じく昨季からNPBのイースタン・リーグに加わったオイシックス新潟アルビレックスBCに…
「台鋼VS岱鋼」が実現、2日間で1万2000人のファン集まる
2月27、28日の2日間、昨季から台湾プロ野球の1軍に参入した「第6の球団」台鋼ホークスと、同じく昨季からNPBのイースタン・リーグに加わったオイシックス新潟アルビレックスBCによる交流試合「港都台日親善交流戦」が、台鋼の本拠地で台湾南部にある高雄市の澄清湖球場で開催された。
両チームのマスコットが台鋼は「鷹」、オイシックスは「白鳥」ということもあり、「捍衛領空(領空を守れ)」というキャッチフレーズがつけられた今回の交流試合、何といっても目玉は昨季からオイシックスでプレーしている陽岱鋼外野手だ。台湾での実戦プレーはオーバーエイジ枠で台湾代表入りした2017年11月のアジアプロ野球チャンピオンシップの壮行試合以来、実に7年4カ月ぶり。台鋼のプレスリリースには「台鋼VS岱鋼」(タイガン対ダイガン)という見出しが躍った。
その陽岱鋼と台鋼・王柏融外野手の「新旧元ファイターズ戦士」の揃い踏み。昨季、怪我の影響で台鋼を退団後、故郷新潟のオイシックスに入団した笠原祥太郎投手と、逆にシーズン中に台鋼へ移籍し救援として活躍した吉田一将投手による先発対決。そして、苦しみながらも来年の本大会進出を決めたWBC予選台湾代表選出メンバーのチーム合流など、話題は盛り沢山だった。両日合わせ、およそ1万2000人のファンが球場に詰めかけた。
台湾球界きっての「日本通」として知られる台鋼の劉東洋GMは、2022年の球団創設時から日本人コーチの招聘、日本人選手の獲得に加え、日本球界との交流についても積極的に進めていく方針を示していたが、このオフはそれらが続々と形になってきている。昨年10月末には期待の若手4選手を西武の秋季キャンプに派遣。今年の春季キャンプ期間中には、洪一中監督や横田久則投手統括コーチら首脳陣が、若手投手陣14人を引き連れ、沖縄県糸満市の西崎球場でミニキャンプを実施。来春以降の本格展開に期待を持たせた。
そして、2月27日、28日の両日、台鋼とオイシックスによる「港都台日親善交流戦」が開催された。台鋼側がオイシックス側にオファーし、招待する形で行われた今回の交流試合は、台鋼にとっては記念すべき、チーム創設後初のNPB球団との正式な交流試合だった。加えて今季、澄清湖球場の球場開きとなった。劉東洋GMは、「色々なハードルがあり、とてもタフでしたが、実現できて嬉しいです。こうして、オイシックスさんが澄清湖球場でプレーする姿が見られて非常に感動しました」と顔をほころばせた。
陽岱鋼に台鋼の洪一中監督「台湾に帰ってこい」
オイシックスの武田勝監督兼投手コーチは球場入りすると、「こうした機会をいただけて感謝しています。日本、台湾問わず、バリバリの1軍の選手と戦えることは、特に若い選手にとってはいい経験になりますし、開幕(3月15日)が控えていますから、この経験をしっかりつなげていきたいと思います」と意気込みを見せた。また、現役時代のチームメイトでもある38歳の陽岱鋼については「年齢を重ね、しっかり後輩の面倒を見たり、指導にあたってくれるので、チームにとって大きな存在です」と称賛。「早速、1番・右翼で使います。もう、おじさんですけれど、今日は少年のようにはしゃぎまわってほしいと思います」と冗談を交えて期待を示した。
一方、台鋼の洪一中監督は、挨拶にやってきた陽岱鋼の姿をみかけると、駆け寄ってがっちり握手。報道陣に向け「皆で『そろそろ台湾に帰ってこい』って呼びかけてよ」とリクエストしただけでなく、「僕はずっと、台湾に帰ってこいって言ってるんだよ」と熱弁、台湾球界きっての「名将」のメディアを巻き込んでのラブコールに、クールな陽岱鋼も圧倒されていた。その後、今回の交流試合の意義を問われた洪監督は「とても嬉しい。我々よりもレベルの高い日本野球との交流が続けば、台湾の選手たちの技術面はもちろん、施設などハード面でも差が縮まっていくだろう」と語り、将来的なアジアインターリーグ構想にも言及した。
そして、久しぶりに台湾メディアに囲まれた陽岱鋼は「自分のチームと一緒に台湾に戻ってきて、南部・高雄での試合が実現してとても興奮している。ファンの皆さんにいい試合を見せたい。オイシックスの若手たちには、台湾野球の情熱を肌で感じてもらえれば」と期待を示した。洪監督の「ラブコール」について問われると、「毎回会う度に言われますね」と苦笑いしつつ、「まだまだ学びたいこと、学ばないといけないことがたくさんあるので、急ぎません。プロ選手として、少しでも成長したいと日々考えながら、プレーをしています」とだけ回答。今後、台湾でプレーする可能性には明言はしなかった。
台鋼側で、その活躍により交流試合開催を大きく後押ししたと言えるのが吉田一将投手だ。昨年8月にオイシックスから途中加入し、15試合登板、15回2/3を自責1と救援で素晴らしいパフォーマンスを見せた。ファンから「台鋼のダルビッシュ」という愛称もつけられた吉田は、台湾での古巣との交流試合実現に「向こうにも台鋼でプレーした笠原投手がいて、こちらにも、モヤとかも含めてNPB出身選手がたくさんいる中で、こういう日台交流戦が実現できたということが、アジアの野球界にとってもいいことだと思います」と喜んだ。今季は先発として調整しているという吉田は「岱鋼さんとか、高山(俊)とかNPB出身の選手とは対戦経験があるので、去年、イースタン・リーグで首位打者とった知念(大成)とかと対戦してみてどうなるか、っていうのは楽しみです」と語った。
陽岱鋼は2試合で計7打数5安打の大活躍
台鋼と高雄市政府による共同開催とあり、2月27日の1試合目の始球式では陳其邁・高雄市長が投手、WBC予選で活躍した台鋼の王博玄内野手が捕手、陽岱鋼が打者をつとめた。台鋼の先発はプレミア12代表の左腕、陳柏清投手。オイシックスの先発は元広島の薮田和樹投手だった。
1回、オイシックスは、いきなり先頭の陽岱鋼が、陳柏清の142キロの高めの速球をしっかりミートし、中前へ運んだ。2死三塁から4番・大川陽大外野手の左前適時打で先制。その裏、台鋼も2死三塁から、昨季二冠王のスティーブン・モヤ外野手の右前適時打で1-1の同点に追いついた。
オイシックスは5回、この回から代わった2番手の許峻暘投手を攻め、知念大成外野手の右中間を破る適時三塁打で勝ち越すと、この回一挙3得点。その後も、台鋼の若手投手陣から7回に3点、8回に1点追加したオイシックスは15安打8得点。台鋼打線を散発6安打に抑え、8-1で大勝した。オイシックスは、大川が猛打賞2打点、知念が2安打2打点と中軸が活躍したほか、陽岱鋼も逆らわない打撃でマルチ安打を記録し、ファンを喜ばせた。
試合後、洪一中監督は、6投手が合計196球投げさせられたことに触れ、「まるで日本の打者に、ピッチングとはどうすべきかを指導された感じだ。うちの投手はもっと頭を使わないといけないね」と苦笑。4回1失点と、試合はつくった先発の陳柏清も「とにかくバットに当ててきて、簡単に三振してくれない。変化球のキレを良くしないと」と課題を口にした。
試合後には“台鋼のプリンス”曽子祐内野手と、陽岱鋼の両チームの背番号1による合同サイン会が行われた。参加できたのはコラボグッズを一定金額以上購入したファンから、さらに抽選で選ばれた限定の100名。日本ハムや巨人時代のグッズを身につけ“生岱鋼”に感激している熱狂的なファンの姿も数多く見られた。
笠原と吉田の元NPB投手が投げ合う
そして、2月28日の2試合目、オイシックスは笠原、台鋼は吉田が先発のマウンドに立った。台鋼は2回、この交流試合のために、ゲストとして招待され、2試合全力パフォーマンスを見せた野球応援YouTuberのB-モレル氏が応援をリードする中、王柏融がいきなり二塁打で出塁。ミスもあって2点を先制した。一方のオイシックス打線も2回に知念の適時打、3回に大川の適時二塁打が飛び出し2-2に追いついた。
連敗は避けたい台鋼は、5回2死一、二塁、このオフに支配下登録された売出し中の顔郁軒内野手の勝ち越し二塁打などで2得点、6回にも一挙5安打で3点を追加し7-2とリードを広げた。オイシックスも7回2死満塁から、再び知念の2点適時打で3点差に迫ったが、台鋼はそのまま7-4で逃げ切り、交流試合は1勝1敗で終えることとなった。
6番・指名打者で登場した注目の陽岱鋼は2回、吉田から中前打を放った後、脚をつり一度ベンチに下がったが、「1打席で退くわけにはいかない」と治療を受けるとプレーを続行。5回と7回にもミートを意識した打撃で安打を重ね猛打賞。2試合で計7打数5安打の大活躍で、台湾のファンを歓喜させた。試合前、ともに若い選手が多く、似ているチームカラーと分析していた陽岱鋼は「実際にプレーしてみたら本当に似ていた。この2試合はすばらしい交流になった。両チーム共に、攻守両面で色々と学べたと思う。シーズンではもっと成長したい」と、今季の抱負を語った。
陽岱鋼が洪一中監督のラブコールに応え、将来、台湾でのプレーを検討するかどうかは何ともいえない。だが3月5日、CPBLのGM会議では、海外で一定期間プレーしたベテラン大物選手を対象に、ドラフト会議を経ることなく、獲得を希望した球団が自由に交渉できる制度づくりをCPBLが検討することについて、全6球団が合意した。
台鋼の劉東洋GMは、「これが第一歩、今後もオイシックスさんとの交流を続けていきたい」と振り返った。台鋼は今後も積極的にNPBの各球団をはじめ、海外球団との交流を行っていく計画だという。単一チーム同士の交流試合は、さまざまなイベントが企画され、親睦ムードあふれるなか、ファン同士も交流しやすいのが魅力だ。台鋼ホークスの今後の交流企画にも期待したい。
「パ・リーグ インサイト」駒田英
※情報は3月10日現在(「パ・リーグ インサイト」駒田英)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)