熱戦が展開されている選抜高校野球大会で、登録上は1人だが、実際には主将を2人で分担する出場校が目立つ。「ダブルキャプテン」は高校野球の新たなトレンドになるのか。採用するチームや識者に聞くと、現代らしい考え方が見えてくる。「言葉を濁す…

東海大札幌の矢吹太寛(左)と山口聖夏=左は札幌市南区で2025年2月6日、右は大和ハウスプレミストドームで2024年10月23日、いずれも貝塚太一撮影

 熱戦が展開されている選抜高校野球大会で、登録上は1人だが、実際には主将を2人で分担する出場校が目立つ。「ダブルキャプテン」は高校野球の新たなトレンドになるのか。採用するチームや識者に聞くと、現代らしい考え方が見えてくる。

「言葉を濁す場面をよく見た」

 甲子園に春夏通算56回出場の天理(奈良)は、現在のチームが結成されて間もない昨秋から主将を2人にした。チーム関係者によると、1901年の創部以来初の取り組みという。今は永末峻也外野手、赤埴(あかはに)幸輝内野手の両3年生が務めている。

 発案したのは、昨年からチームを率いる藤原忠理(ただまさ)監督だった。

 藤原監督は「以前のキャプテンがチームメートに『これを言うのはどうか』と、気を使って言葉を濁す場面をよく見た。それなら2人で話し合った上で、統制を取ってみたらどうかと思った」と説明する。

 「ダブルキャプテン」のメリットとして、永末選手は「プレッシャーを2人で分けられるのが大きい」と話す。

 永末選手は「普通に話していても声が大きいとしょっちゅう言われる」というチームの元気印だが、それでも伝統校の主将を務める重圧は大きいようだ。「1人だときつかったと思う。赤埴とはけんかもしたことがないし、2人の方がやりやすいです」と笑う。

 赤埴選手も「1人で抱えたくないので、迷うことがあったらすぐに(永末選手に)相談します」。プレーと背中で引っ張るタイプであるだけに、率先して声を出す永末選手は心強い存在。負担を等分し、支え合うことで、2人がより主体的にチームを引っ張れるようになった。

「頭脳が二つある」

 東海大札幌(北海道)は山口聖夏(せな)内野手、エースの矢吹太寛(たお)投手の両3年生が主将を務める。昨年から指揮する遠藤愛義(なるよし)監督が導入した。

 2人を選んだ理由は負担の分散に加えて、性格の違いを互いに補えるからだった。

 遠藤監督は「山口は普段は明るい性格だが、野球の時は冷静に周りが見える。矢吹は冷静に見えるが、マウンドに立つと負けず嫌いが出て、背中で引っ張れる」と説明し、「普段の生活と野球があの2人は交差する。だからこそ、お互いの良さが引き出せる」と語る。

 山口選手は「主将が2人いるということは頭脳が二つあるということで、矢吹と話すことで新しい発見がある」と話す。2人はクラスメートでもあり、自発的な野球談議も進むようだ。

 主将に限らず、チーム内で責任を分散する工夫は他の出場校でも見られる。

 広島商は野球部内に「アナライザー部」「食育部」など「部」を20近く作り、それぞれにリーダーがいる。

 21世紀枠で出場した横浜清陵(神奈川)も内野手、外野手など各部門にリーダーがいて、「自治会議」で議論してチーム作りを進めている。

 野球以外の高校スポーツでも、ラグビーは共同主将を採用するチームがある。

 また、バスケットボールでは全国高校選手権(ウインターカップ)男子で優勝した福岡大大濠、サッカーでは全国高校選手権で準優勝した流通経大柏(千葉)に複数の主将がいた。

「学生スポーツ全般で重要な観点」

 リーダーを分業制にするトレンドについて、京都先端科学大の池川哲史教授(スポーツ組織論)は「責任の分担は高校野球だけでなく、学生スポーツ全般で重要な観点になっている」と話す。そのカギは選手の「主体性」だという。

 部活動を通じて主体性を育んでもらうため、選手たちが自身で考えて行動するように促す指導者が増えている。池川教授は「時代の変遷とともに、運動の技術以外に社会で求められるスキルを身につけられる場所でないと、部活動はその価値を保てないようになった。そこで、選手たちに主体性を身につけさせるための手段として、ビジネスにおいて従業員の主体性を育む手法としてあったリーダーシップを共有する考え方が導入されたのではないか」と持論を述べる。

 一方、責任を分散させるデメリットとして、池川教授は「意思決定のスピードが鈍ったり、責任転嫁や役割の重複が起きたりする可能性はある」と挙げ、「部活動であれば、監督などが目配りする必要はある」と指摘。その上で「社会で評価される資質につながる『自主自律のマインドを根づかせる組織運営』が、学生スポーツ界全般で重要とされている」と強調した。【吉川雄飛】