第97回選抜高校野球大会に8年ぶり2回目の出場となる至学館(愛知)には、監督から「21人目の登録選手」と厚い信頼を得る記録員がいる。安藤曽良さん(3年)は投手としてレギュラーを目指したが、昨夏に頭部を負傷して約3カ月戦列を離脱した。…

第97回選抜高校野球大会に8年ぶり2回目の出場となる至学館(愛知)には、監督から「21人目の登録選手」と厚い信頼を得る記録員がいる。安藤曽良さん(3年)は投手としてレギュラーを目指したが、昨夏に頭部を負傷して約3カ月戦列を離脱した。葛藤の中、「勝つためにできることをやりたい」と、率先して始めた役割を甲子園でも果たす。
昨年7月の愛知大会の試合前日の練習中のことだった。ノックの前の「ボール回し」をしている時に、安藤さんの右側頭部に球が直撃した。意識は失わなかったが、体に力がうまく入らない。脳神経外科で頭部MRI(磁気共鳴画像化装置)検査を受け、脳挫傷による出血があることが分かった。
手術は避けられたが、医師からは絶対安静を命じられた。練習はもちろん、頭部にも力がかかる筋力トレーニングや自転車に乗ることもできなくなり、夏休み期間中は自宅で療養して過ごした。
8月の新チーム発足後グラウンドで仲間の練習を見守りながら、徐々に早歩きや階段の上り下りなどから回復のためのトレーニングを始めた。バックネット裏の観覧席では、野球関連の本を読み、変化球の握りを研究した。
スコアを記録する係になろうと名乗り出たのは、「何もできないなりに、何かで力になりたかった」からだ。引退した先輩の女子マネジャーにスコアの書き方を一から教わった。8月の練習試合から記録員でベンチに入るようになった。
チームは秋季県大会を初制覇し、東海大会へ。投手としてマウンドに立てない悔しさがなかったわけではない。「勝てば勝つほど、ふとした時に複雑な気持ちになったのも事実」と打ち明ける。
チームの主力に2年生が多くいることもあり、サプリメントやドリンク類など備品の管理も率先して行う。「ボールが頭に当たったのも、運命なのかなと。それだったら、与えられた役割を果たそうと今は思っています」
甲子園でベンチ入りする登録選手は20人。鈴木健介監督は「投手としての視点で声をかけられる資質もある。記録員であると同時に、『21人目のベンチ入り選手』ですね」と話す。
センバツでの投手としてのメンバー入りはかなわなかったが、横手投げからの変化球に磨きをかけるなど、まだまだチャンスを諦める気はない。「投手として、夏にこの舞台で投げられるよう、練習を積みたい」【梶原遊】