(20日、第97回選抜高校野球大会1回戦 大垣日大0―6西日本短大付) 強打のスラッガーが好守で流れを引き寄せた。 一回表2死一、三塁のピンチ。相手5番打者の左翼線への大飛球を、西日本短大付(福岡)の安田悠月(ゆうき)選手(3年)が、左手…

 (20日、第97回選抜高校野球大会1回戦 大垣日大0―6西日本短大付)

 強打のスラッガーが好守で流れを引き寄せた。

 一回表2死一、三塁のピンチ。相手5番打者の左翼線への大飛球を、西日本短大付(福岡)の安田悠月(ゆうき)選手(3年)が、左手のグラブをいっぱいに伸ばしてつかみ取った。

 「初回で足が重かったけど、準備していた分、追いつけた」

 相手の5番打者は引っ張るケースが多いと試合前に分析できていた。序盤は制球に苦しんでいたエースの中野琉碧投手(3年)も勇気づけた。

 16強入りした昨夏も甲子園の舞台に立ったが、悔しさが残った。

 菰野(三重)との2回戦で2点適時三塁打を放つ活躍を見せたが、3回戦で京都国際のエース左腕に2打席連続三振を喫し、次の打席の前に交代に。チームは敗れ、京都国際は大会を制した。

 甲子園の悔しさは甲子園で晴らす――。安田選手は強打の左打者。右方向へ打球を引っ張るスイングに力強さがあるが、左腕相手だと打つ時に体が開きがちだった。外角球への対応も難しくなり、三振も多くなってしまう。

 課題を克服しようと冬の間、走り込みや筋トレを欠かさず、入学時に65キロだったベンチプレスの記録は、この冬で100キロまで上がった。「スイングスピードも上がり、体も開かなくなった」と手応えがあった。

 1992年夏に西日本短大付が全国制覇を果たしたときの4番打者だった高原典一コーチは「見逃しがちだった外角のストライクを振っていく積極性が出てきた」と期待を寄せていた。

 この日の相手は右腕だったが、成果を発揮した。五回2死三塁。2球目の真ん中甘い変化球を思い切り引っ張った。打球は右中間で弾み、リードを5点に広げる適時二塁打に。「みんな打っていた。自分も、と思い、積極的に行った」

 1、2打席目は逆方向を意識して大事に打とうとして凡退したが、「ちょっと違う、いつも通り持ち味を出そう」と決めた打席だった。

 安田選手は、野球以外の意外な一面も見せる。俳句の才能だ。

 “死球浴び 拳突き上ぐ 夏の空”

 野球部では短歌や俳句などの創作活動に力を入れており、昨年の「第28回全国高校生創作コンテスト」で、安田選手が詠んだこの句が俳句部門で約8千作品の中から入選した。

 「びっくりした。実体験をそのまま俳句にしただけで、たまたまです」と謙遜するが、言葉を大事にすることで、仲間に伝える力やプレーを客観視する力などが身につき、野球にも役立っているという。

 自慢のパワーに加え、言葉の力にも磨きをかけた。ひと冬越えた成長をすべて春の初戦にぶつけた。

 試合後、勝利の一句を求められると、「ちょっと急には……」とはにかんだが、次戦に向け、「持ち味を出し、振り負けないように」と誓った。(波多野大介)