第97回選抜高校野球大会(18日開幕)に出場する32校の中で、2番目にブランクが長い33年ぶり2回目の春に挑む米子松蔭(鳥取)。「選手一人ひとりが監督の意識を持ったプレーを」。そんなチーム作りを進める33歳の監督は元銀行員だ。 「集合!」…
第97回選抜高校野球大会(18日開幕)に出場する32校の中で、2番目にブランクが長い33年ぶり2回目の春に挑む米子松蔭(鳥取)。「選手一人ひとりが監督の意識を持ったプレーを」。そんなチーム作りを進める33歳の監督は元銀行員だ。
「集合!」。グラウンドで実戦形式の練習中、約30人の選手全員が内外野からマウンド付近に集まった。気になったプレーについて互いに意見を出し、より良い〝解〟を共有する。惣郷峻吏(そうごうしゅんり)主将は「全員が理解してプレーすることが重要だと思っています」と話す。
選手だけでの話し合いは、塩塚尚人監督が5年前に就任してから始まった。練習中に何度も集まり、練習再開まで5分を超えることもある。監督は選手の輪の外で耳を傾け、必要と考えれば助言を送る。「高校野球の監督は試合中にグラウンドに立てない。監督の指示を待つのではなく、選手が主体的に考えてプレーできるように」と塩塚監督。惣郷主将も「一つのプレーについて仲間のいろんな考えを知ることができ、新たな気付きもある」と実感を込める。
鹿児島市出身。地元の県立高校から慶応大に進み、野球部でプレーした。高校野球の指導者になる夢を抱いたが、「社会を知らないままでは通用しない」と卒業後は帰郷して銀行に就職。営業で好成績を残し、そのままキャリアを積んでいく人生も見えていた。
ただ、銀行の仕事をしていても「これが高校野球だったら」と考えた。業績が好調な取引先は、社員一人ひとりが経営者の意識を持って働いていると分析。ならば、選手たちが監督の意識を持ってプレーできればチームも強くなるかも――。
銀行を4年で辞めて教員の道へ。鹿児島の特別支援学校の講師を経て、知人の紹介で2019年春に米子松蔭のコーチとなり、20年夏に監督に就いた。21年春の県大会で優勝に導くと、その後も県内では上位の戦績を残した。
育成で心がけるのは、「野球ができる人」ではなく「野球もできる人」だ。高校野球の先の人生を思いながら選手と向き合う。1月に選抜大会への出場が決まった時、口にしたのは信頼を寄せ合う選手たちへの感謝の言葉だった。「甲子園に導いてくれてありがとう」
自身の甲子園での初采配、そして学校の選抜大会初勝利をめざす初戦は開幕日の第2試合で花巻東(岩手)と対戦する。「(米大リーグの)菊池雄星投手や大谷翔平選手を輩出した学校と対戦できるのは楽しみ。しっかり準備し、チャレンジャーとして向かっていきたい」(富田祥広)