今年、サッカーのルールが変更されることになった。これまでも何度も改正されているゴールキーパー(以降、GK)に関するルー…
今年、サッカーのルールが変更されることになった。これまでも何度も改正されているゴールキーパー(以降、GK)に関するルールだが、新たなルールはサッカーという競技を、どのような方角へと導いていくのか? サッカージャーナリスト大住良之が「8秒ルール」を検証する!
■ルール上の努力は「4歩」から
1992年には、味方からのバックパスに対してはGKは手を使えないという「バックパスルール」が施行された。1997年には、味方のスローインからのボールにもGKは手を使えないことになった。そして、2000年から施行されているのが、現行の「6秒ルール」である。残念ながらこのルールが適用されることは非常にまれで、知らないファンも多いかもしれないが…。
GKのボール保持時間を減らそうというルール上の努力は、1940年代から続いてきた。最初の試みは、ボール保持してからのステップ数を制限しようというもので、「4歩」と定められた1948年のことだった。しかし、バスケットボールのようにグラウンドにバウンドさせたり、空中に投げ上げてのステップはその歩数にカウントされなかったから、GKたちはバウンドさせながら何歩でもペナルティーエリアの中を歩き回った。古い試合のフィルムでよく見かける光景である。
バウンドさせたり、投げ上げたりの間のステップも「4歩以内」とカウントするようになったのは、1967年である。1966年のワールドカップ・イングランド大会でGKによる露骨な時間かせぎが横行したことを受けてのルール改正だったが、これも違反には間接フリーキックが与えられることになっていたので、そう厳格には適用されなかった。
■主審の「心理的負担」が軽減
現行のルールは2000年に改正されたもので、この年のIFABの年次総会では、ステップ数を制限するのではなく、GKによるボールの保持時間が「5から6秒」を超えた場合に間接フリーキックを与えると決議され、最終的にルールでは「6秒を超えて保持した場合」と明記された。しかし、やはり罰則が間接フリーキック(当然ペナルティーエリア内での)という重いものであるため、GKが長時間保持していても主審は「早くプレーしなさい」と促すだけで、ほとんど反則はとっていない。
「私が現役の審判員だったときに、この反則をとったのは2回だけだった」と、エラリー氏は、3月1日の記者会見で告白している。国際サッカー連盟(FIFA)の審判委員長として、このIFAB年次総会の記者会見に同席したピエールルイジ・コリーナ氏(2002年ワールドカップの決勝戦主審)は、「私はとったことがない」と語った。「6秒ルール」は「死文」同然だったのである。
今回の改正はさらにGKに2秒の猶予を与えるとともに、罰則を「コーナーキック」としたことが大きなポイントだ。ペナルティーエリア内の間接フリーキックと比較すると、主審に与える心理的な負担が大きく減り、より実効性のあるルールになると期待されている。
■新ルールが「大きな圧力」に
このテストは、2024年の夏以降、イングランドの「プレミアリーグ2(21歳以下の育成のための大会)」、マルタのアマチュアリーグ、イタリアのユースリーグの400以上の試合で試験採用された結果、コーナーキックが与えられたのはわずか4回、主審がコーナーキックを与えるべきケースで与えなかったのは1回だけ、すなわち「8秒」を超えたのは5回だけ(80試合に1回)だったという。
「この数字に、私たちは衝撃を受けた。だから試験採用の開始から1シーズンもたっていないが、すぐに正式なルール改正をすることにした」と、エラリー氏は説明した。このようなテスト結果になったのは、「ボールをすぐに放さないとCKを取られる」ということがGKに大きな圧力になったためと推測されている。
新ルールは、公式には今年の7月1日から施行されるが、その時点ですでに進行中の大会では、どの時点で導入されるかをそれぞれの裁量で決めることができる。Jリーグでは通常、夏に短い中断があった後の採用となるのが普通だ。