Jリーグ屈指の名門である鹿島アントラーズは鬼木新監督の下、「強さ」を取り戻せるのか。恒例のプレシーズンマッチ他から見えたチームの「課題」や「今後」を、サッカージャーナリストの後藤健生がズバリ指摘。2016年以来、優勝から遠ざかってる、かつ…

 Jリーグ屈指の名門である鹿島アントラーズは鬼木新監督の下、「強さ」を取り戻せるのか。恒例のプレシーズンマッチ他から見えたチームの「課題」や「今後」を、サッカージャーナリストの後藤健生がズバリ指摘。2016年以来、優勝から遠ざかってる、かつての常勝軍団の「復権」のために、必要なものとは?

■「プレースタイル」をどう変えるのか

 鬼木達監督が、鹿島アントラーズのプレースタイルをどう変えるかというところにも注目が集まっている。

 昨年まで指導した川崎は、パス・サッカーを極限まで追求したようなスタイルのチームだった。勝利にこだわり、バランスを重視し、攻撃はかつての小笠原満男や現在の柴崎岳のような深みのあるパスを使う鹿島は、川崎とはだいぶスタイルが違う。

 その点を心配する向きも多いようだ。

 しかし、川崎のスタイルというのは鬼木監督の時代になってから作られたものではない。

「攻撃的サッカー」は川崎フロンターレというクラブが長い年月をかけて築き上げてきたものだ。とくに、あのけっして急ぐことなく、小さなスペースを生かしてショートパスを回すプレーは、前任の風間八宏監督が作ったものだった。

 鬼木監督は、そういうスタイルを確立していた川崎の監督となったので、その「最大の武器」を生かしながら、同時に勝負に対するこだわりや、長いパスによる速さのある攻撃も加えて、バランスの取れたチームを作り上げて、超攻撃的サッカーでJ1リーグを制覇したのだ。

■川崎流「ショートパス」をつなぐサッカー

 もともと、鬼木達という選手は華麗なテクニシャンというタイプではなかった。勝負強さを発揮するMFだった。市立船橋高校というチームも、プロとして入団した鹿島も、ともに勝負強さを強みとするチームだった。

 とすれば、鬼木監督はむしろ鹿島のスタイルに適しているのではないかという気もする。もっとも、現役時代のプレースタイルと、監督としての志向はけっしてパラレル(平行)の関係にあるものではないのだが……。

 監督に就任したときに、これまでのあった川崎のスタイルを生かしながらチームをまとめ上げたのと同じように、鬼木監督は鹿島では鹿島らしいスタイルのチームを築き上げていくのではないだろうか。

 もちろん、ボールを握る時間を長くしたいという気持ちは強い監督だと思う。この2、3年、川崎のサッカーが機能しなくなっても、カウンター重視のサッカーに転じることは潔しとせず、ポゼッションにこだわってきたのも鬼木監督だった。

 だが、川崎のようなショートパスをつなくサッカーを目指すことはないだろう。あのスタイルを築き上げるのは、それがもし可能だったとしても、かなりの時間が必要となる。風間監督でも、川崎の監督に就任してからスタイルを確立するまで2年くらいはかかっている。

■かつての川崎とかつての鹿島の「中間点」

 そもそも、鬼木監督は鹿島のプレースタイルについて熟知しながら監督就任のオファーを受けたのだ。目指すべきスタイルについては、すでに方向性は定まっているに違いない。

 昨年の11月、J1リーグ第35節で、川崎フロンターレは鹿島アントラーズと対戦し、1対3のスコアで完敗を喫した。川崎は前半のうちに3失点を喫し、後半アディショナルタイムに1点を返すにとどまった。

 かつて、川崎の全盛期には川崎は鹿島との相性が良く、圧勝を繰り返していただけに、川崎の時代が終わったことが明らかになったような試合でもあった。

 この試合、前半のうちに3点をリードした鹿島は、後半は無理せずに勝利という結果を目指した試合運びを見せた。

 それを見ていて、「いかにも鹿島らしい戦いだなぁ」と思っていたら、試合後の記者会見で鬼木監督が鹿島の試合ぶりについて「時間稼ぎなども含めて鹿島らしい試合運びだった」といった趣旨の発言をした。この頃には、次年度には鬼木監督が鹿島の監督に転身するということはすでに確定的に語られていたので、「公式会見の席で鹿島のプレースタイルについてあんなことを言っていいのか?」とビックリしたのだが、鬼木監督はそのへんも含めて鹿島を率いることを決断したのだ。

 おそらく、これまでの鹿島以上にポゼッションにはこだわりを見せるチームになるだろう。だが、川崎でやっていたようなショートパスをつなぐサッカーを実践することは不可能だろう。

 川崎時代よりも長いパスを使って、ボールを持つ時間はこれまでの鹿島よりは長くなる……。そんなサッカーが鬼木監督の鹿島ということになる。

 かつての川崎と、かつての鹿島の中間的なサッカー。それが、どこまで鹿島寄りになるか、どれだけ川崎寄りにするのか……。一刻も早く、新しい“鬼木アントラーズ”が完成することを期待したい。

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