1月31日~2月2日、東京体育館では「天皇杯 第50回記念日本車いすバスケットボール選手権」が開催され、神奈川VANGUAR…

 1月31日~2月2日、東京体育館では「天皇杯 第50回記念日本車いすバスケットボール選手権」が開催され、神奈川VANGUARDSが全4試合で20点以上の差と他を圧倒して優勝。チーム初の3連覇を達成した。

■代表戦の映像を参考にしてあみ出した戦術


 11人中9人がハイパフォーマンス(A代表候補)や次世代の強化指定選手と、豪華なメンバーがそろう神奈川の牙城が崩れる気配はまったくなかった。その背景には、昨年の決勝での反省があった。

 1年前の天皇杯で連覇を果たした神奈川だったが、決勝は47-44とロースコアのゲームとなり、神奈川のフィールドゴール成功率は28.8パーセントに終わった。そこでチームビルディングの柱をディフェンスからオフェンスへと切り替え、今シーズンはほぼすべての時間をオフェンスに費やし、徹底的に得点力にこだわってきた。前回との違いの一つは、トランジションから速攻を狙いつつも、ゴールアタックに走るのではなく、バックピックやクロスピックをかけながら攻め、アウトナンバーを狙う点だった。アシスタントコーチを兼任する鳥海連志(2.5)は、この戦術を考案した背景をこう語る。

「日本代表の映像も参考にしたのですが、これまで海外は日本より切り替えが遅いと言われてきました。実際そうなのですが、その海外勢も日本のハイポインターがゴールアタックすると戻りが速いんです。つまり、自分たちの速いゴールアタックが相手の切り替えを速くしているところがある。そうすると、たとえ3対2のアウトナンバーの状況になっても、海外のビッグマン2人がそろってしまうと日本人3人では意外とシュートの確率が落ちてしまうなと。そこでうちのクラブチームでは相手のマインドを素早い切り替えに向けさせないように、5人が連携してクロッシングしながらなだれ込み、常にアウトナンバーの状況を作り出しながら、ということを狙いました」

 そのうえで徹底的に磨いてきたセットオフェンスで、テーマとしてきた3ポイントシュートやインサイドでのシュートチャンスを作る。このスタイルを確立させ、さらに一人ひとりのシュート決定力を上げることに注力してきた。

■第4クォーターで流れを渡さなかった“選択”


 迎えた天皇杯、1回戦はSEASIRSに98-22で圧勝。FG成功率は60.6パーセントとし、積極的に狙った3ポイントも鳥海と古澤拓也(3.0)がともに5分の3の確率で決めた。翌日、長野県車椅子バスケットボールクラブとの準々決勝、前々回は決勝で対戦したNO EXCUSEとの準決勝では、第2クォーター以降にリードを広げる形で快勝。いずれも2ポイントシュートとフリースローの成功率は高い数字を誇り、磨いてきたオフェンス力を発揮しての決勝進出となった。ただ、いずれも3ポイントシュートの成功率は低迷し、ほぼ唯一の課題となっていた。

 迎えた決勝、相手は前回と同じ埼玉ライオンズ。3分間、両者ともに得点できず重苦しい雰囲気でのスタートとなった1年前とは異なり、開始13秒で古澤の3ポイントで先制した神奈川が、3連続得点で一気に流れを引き寄せた。試合はそのまま神奈川リードで進んだが、第2クォーター以降は3ポイントでの得点はゼロ。第3クォーター終了時点で17分の2と低迷したままだった。そのため、神奈川の得点は41にとどまっていた。

 さらに第3クォーターでは神奈川が最も警戒していた大山伸明(4.5/健常)からの得点が増え、さらに隙をついたローポインターのノーマークでのシュートシーンが続くなど、埼玉の勢いが加速し始めていた。そこで神奈川は、第4クォーターは3ポイントではなく、ミスマッチを狙い、確実に得点を挙げる戦略に切り替えた。

 その結果、高さのある髙柗義伸(4.0)、鳥海でのシュートチャンスを作りだし、得点を量産した。この日最多の20得点を叩き出した神奈川は、61-41と埼玉を引き離して日本一の座を獲得。3大会連続6度目の栄冠に輝いた。

 目標としてきた常勝チームへとなりつつある神奈川が、このまま時代を築いていくのか。それとも、王者の牙城を崩すチームが出現するのか。新戦力や若手の成長によって勢いが加速しているチームも少なくないだけに、2025年も日本車いすバスケットボール界は熱気に包まれそうだ。

取材・文=斎藤寿子