国際ボクシング連盟(IBF)ライトフライ級王者の矢吹正道(32)=LUSH緑=が、異例の2階級制覇に挑むことになった。…

 国際ボクシング連盟(IBF)ライトフライ級王者の矢吹正道(32)=LUSH緑=が、異例の2階級制覇に挑むことになった。

 3月29日、愛知県内で1階級上のIBFフライ級王者アンヘル・アヤラ(24)=メキシコ=に挑戦する。矢吹は自身のベルトを保持したままで、王者同士の対決になる。

 この挑戦の背景には、矢吹の過酷な減量があった。

 矢吹は身長166センチで、ライトフライ級の制限体重は約48.9キロ。普段から節制した上で、計量までの最後の1週間で5キロを落とすが、「本当に落ちるのかどうか。毎回、賭けに近い減量をしてきた」と話す。

 昨年10月、世界王者に返り咲いた試合でも体重調整に苦しんだ。計量前夜は同門の木附大己(27)と岩盤浴に向かい、最後の汗を絞り出したが、残り500グラムがどうしても落ちなかった。

 木附は言う。「正道さんは、僕にはきつい顔を見せないんですけど、声をかけてもぼうっとしていて、放心状態でした。どこかにいってしまいそうな感じで」。矢吹はいったん帰宅し、計量直前まで自宅の風呂で半身浴をして水分を絞り出した。

 この試合後、矢吹は階級アップを希望し、フライ級(制限体重約50.8キロ)での世界挑戦を模索した。今回の試合をプロモート(主催)する亀田興毅氏(38)がIBFと交渉し、1階級上のアヤラとの対戦にこぎつけた。

 日本ではこれまで、ある階級の王者が別の階級の王者に挑戦する場合、現在手にしているベルトは返上するのが一般的だった。では、なぜ矢吹はベルトを保持したまま挑むのか。

 矢吹の所属するLUSH緑ジムは、3人の世界王者を生んでいるが、いわゆる「地方ジム」の一つだ。世界戦の常連の大手ジムのように、有利な立場で試合を組むことは難しい。実際に2023年以降、矢吹の世界挑戦の話は何度も浮かんでは消えた。

 そして昨年12月には、日本ボクシング界を引っ張ってきた井上尚弥(31)=大橋=、井岡一翔(35)=志成=の試合が、相次いで相手のけが、病気で延期や中止になった。

 仮に矢吹が今、王座を返上してしまうと、何らかのアクシデントで試合が成立しなかった場合、一人の無冠のボクサーになってしまう。

 亀田氏も世界的には駆け出しのプロモーターだ。ここでベルトを手放し、アヤラ戦が流れた場合、矢吹はまた世界戦から何年も遠ざかるリスクがある。

 亀田氏によると、IBFは矢吹がベルトを保持したままアヤラに挑戦することを認めている。日本では異例の形の世界戦だが、海外では何例もある。主要4団体で王座の取り扱いは異なるものの、仮に2階級の王座に就けば、その後は1階級に絞るのが通例だ。

 現在、フライ級は世界ボクシング評議会(WBC)王者の寺地拳四朗(33)=BMB=らがベルト統一をめざし、盛り上がりを見せている。

 矢吹は「自分が(アヤラに勝ち)フライ級王者になれば、おもしろいことになる」と言った。勝てばライトフライ級王座を返上し、フライ級戦線に参入することになる。

 そして「負けて(ライトフライ級王座を)保持しようなんて思ってない」とも言い切った。

 勝てば道が開ける。負ければ後がない。そんな思いで、これまでも進んできた。

 「この試合に全てをかける」。その言葉にうそはない。(伊藤雅哉)