【入場者数は男子と差があるが......】 2024年7月、パリ。憂鬱な光景が広がっていた。パリ五輪の女子バレーボール、日本は予選ラウンド3戦目のケニアに3-0とストレートで勝利するも、1勝2敗で決勝ラウンドに進出できるかどうかは他会場の試…

【入場者数は男子と差があるが......】

 2024年7月、パリ。憂鬱な光景が広がっていた。

パリ五輪の女子バレーボール、日本は予選ラウンド3戦目のケニアに3-0とストレートで勝利するも、1勝2敗で決勝ラウンドに進出できるかどうかは他会場の試合結果を待つ"生殺し"の状態だった。結局は予選ラウンド敗退となり、目標としていたメダルには及ばず大会を後にした。

 その後、主将でエースだった古賀紗理那が現役を引退。日本女子バレー界は新たな時代へと大きく舵を切ることになった。


NECレッドロケッツ川崎で古賀紗理那の背番号2を継いだ佐藤淑乃

 photo by 西村尚己/アフロスポーツ

 国内では、「世界最高峰のリーグを目指す」を謳い文句に、SVリーグが新たなスタートを切った。日本女子バレーは新時代の扉を開けられたのか?
 
 Vリーグの2022-23シーズンから連覇中の女王・NECレッドロケッツ川崎が、昨シーズン4位の埼玉上尾メディックスをホームに迎えた昨年10月12日の開幕戦は、3280人の入場者数を記録。NEC川崎でプレーしていた古賀の引退セレモニーもあったが、関心の高さが見えた。

 ただ、観客の人数は昨シーズンと比べて多少は増加傾向も、各節の平均入場者数は1000人前後(目標は2000人)。一方の男子リーグは、節によってバラつきはあるものの、目標の2700人を上回ることも多い。昨年11月3日のサントリーサンバーズ大阪vs東京グレートベアーズの試合では、1万人以上の入場者記録を達成(1万1599人)している。

 髙橋藍、西田有志ら日本代表選手を中心に人気が上昇し、サントリーと大阪ブルテオンの開幕戦が民放テレビのゴールデンタイムで放送された男子と比べると苦戦はしているが......女子リーグも負けずに熱い。それぞれの選手に矜持が見える。

「シーガルズのバレーが好きなので、そのバレーが世界に通用するのを証明したい。結束力やつなぎ、粘りが一番大事です」

 そう語る岡山シーガルズの中本柚朱は、総得点ランキングで日本人3位(1月28日現在。以下同)だ。

 デンソーエアリービーズのリベロ、川畑遥奈も野心的に言う。

「エアリービーズをリーグ優勝させたい。個人的にはオリンピックでメダルを獲りたいですが、そのためには、このチームで活躍して勝たないと」

 川畑は実際にチームをけん引。サーブレシーブ成功率では、日本代表登録メンバーにも選出された西村弥菜美(SAGA久光スプリングス)、岩澤実育(埼玉上尾)などを抑えて1位だ。

【古賀の背番号2を継いだ新エース】

 各チームの力は僅差で、接戦が続く。1月11日、NEC川崎は首位の大阪マーヴェラスと戦い、フルセットの末に3-2と逆転勝利を収めている。試合は長いラリーの応酬。最後までどう転ぶかわからないスポーツの醍醐味があった。

 全体のレベルも上がっている。イタリア代表シルビア・ヌワカロール(東レアローズ滋賀)、ブラジル代表ロザマリア・モンチベレル(デンソー)、アメリカ代表ステファニー・サムディ(SAGA久光)と各国の凄腕スパイカーが揃う。さらにアメリカ代表のミドルブロッカー、ブリオンヌ・バトラー(Astemoリヴァーレ茨城)は、身長195cmの長身を生かして制空権を握る。

 そうして"矛"に"盾"が鍛えられるように、日本女子バレーの「粘り」も目立つようになった。

「(日本バレーの特徴は)とにかくディフェンス。今日も、どこにアタックを打っても拾われる感覚がありました」

 強豪・ブラジル代表のアウトサイドヒッター、ロレイナ・メアリーズ(NEC川崎)は、そう言って肩をすくめた。

「ブラジル、イタリアでプレーしましたが、向こうの選手は身長が大きく、展開も速く、セッターがトスを上げて得点、という感じで進みます。でも、SVリーグは違う。ディフェンスが強いチームが多いので、ラリーが長く続く。自分も拾われて焦りを感じるし、その感情をコントロールすることでレベルアップできる実感があります」

 海外のトップ選手と競うなかで、日本人選手も成長している。

「リーグが始まって、最初はプレッシャーも感じていたんですが......」

 NEC川崎の新エース、筑波大学卒のルーキーである佐藤淑乃は、古賀の背番号2を継いだ心境をそう洩らしている。

「(FIVB女子)世界クラブ選手権(昨年12月開催)を終えてからは、自分のスパイクが決まったらチームの結果につながる、というのをあらためて実感できるようになりました。世界のトップ選手と対戦することによって、プレーもそうですけど、チームのなかでの立ち回り方を意識できるようになったと思います」

 佐藤は外国人選手が上位を独占する総得点ランキングで6位(日本人2位)と健闘。正念場での決定力が光る。

「普段からトレーニングは厳しくやっているので。フルセットを戦い抜く体力は、どのチームよりもあると思います」

 そう語る佐藤は、新時代のエース候補だ。

【高校世代にもスター候補が揃う】

 そして、古賀がいた時代を継承する選手もいる。

「(古賀)紗理那さんとはチームでも、代表でも一緒にやらせてもらって、存在の大きさは自分が一番実感しています。代役と言うのかはわかりませんが、誰かが(女子バレー界を)引っ張っていかないといけない。自分がやっていく気概はありますが、バレーはひとりではダメなので」

 そう語った山田二千華は、NEC川崎の連覇に大きく貢献したミドルブロッカー。古賀とは代表でも、東京五輪、パリ五輪など多くの国際大会を戦った戦友だ。1月25日に行なわれた「SVリーグ オールスターゲーム」では、女子部門のファン投票で最多得票を獲得している。

「今は誰かひとりが飛び抜けている実感はありません。リーグ全体のレベルは高いので、それぞれが強みをもっと示していけるようにしたい。SVリーグではチームも新しく、立場も変わってトライすることも多いので、"挑戦の年"だと思っています。今シーズンの積み重ねこそが次の代表につながると思うので、1試合1試合を大事にしたいです」

 SVリーグは、レギュラーシーズンだけでも44試合と長丁場だ。上位チームによるチャンピオンシップを含めた激闘の末、スターは誕生するのか。

 さらに若い血も躍動している。

 今年の春高バレーで共栄学園を優勝に導いた秋本美空は、元日本代表・大友愛の娘だ。オールラウンダーで非凡なアタッカーは大会最優秀選手に選ばれ、注目を集めている。卒業後は、SVリーグで旋風を巻き起こすヴィクトリーナ姫路への入団が決定した。

 共栄学園に決勝で敗れた下北沢成徳のエースで、超高校級のパワフルなスパイクが持ち味のイェーモンミャは、デンソーエアリービーズに入団。まだ卒業後の進路は明らかにされていないが、昨年の春高バレーのMVPで、就実で1年時からエースを張る福村心優美も注目の選手だ。

 そんな後輩たちの目標となるだろう佐藤は、凛として言う。

「サーブを打つ前は声援が聞こえてきます。やっぱり、パワーになりますね。(コロナ禍を経て)大学からSVリーグに入り、応援してもらえる環境があるおかげで頑張れるし、プレーに勢いがつきますね」

 女子バレー界の新スターは、熱気のなかから生まれる。