懐かしい“並び”が見られたのは、川崎フロンターレがFC琉球とトレーニングマッチをしている時だった。2025年1月21日、沖縄県恩納村にある赤間総合運動公園のピッチを見下ろせる場所に小林悠、脇坂泰斗、そして中村憲剛氏が座っていた。 沖縄でこ…

 懐かしい“並び”が見られたのは、川崎フロンターレがFC琉球とトレーニングマッチをしている時だった。2025年1月21日、沖縄県恩納村にある赤間総合運動公園のピッチを見下ろせる場所に小林悠脇坂泰斗、そして中村憲剛氏が座っていた。

 沖縄でこの光景が見られるのは中村氏の引退後では初めてのことだが、そんな歳月を超えるかのように3人の表情はとてもリラックスしていた。
「朝6時25分に羽田から飛行機に乗って、ここにダイレクトで来ました」
 愛するクラブを支えようとする高揚感があればこそ、疲れも眠気もそのままに練習場へと足を運んだ。
 今季の中村氏の立場はFRO(フロンターレ リレーションズ オーガナイザー)と変わりはないが、クラブを通じて「今まで以上にチームに近い場所で関わらせていただくことになりました」と意気込むように、トレーニングにも選手・スタッフとともに参加するようになった。その効果の一つが、この沖縄キャンプ入りである。
 キャンプ以外でも、すでに現場に足を運んでいる。今季の始動翌日である1月8日に麻生のピッチに姿を見せると、止める・蹴るの練習で新卒選手を指導。フロンターレの根源である技術の継承に早くも勤しんでいた。

■「いろんな問題点が起きた方がいい」

 4日間滞在する沖縄キャンプの初日である21日は、FC琉球とのトレーニングマッチに視線を向けた。その内容に話を向ければ、「トレーニングマッチもやっぱり簡単じゃないですし、ましてや、今年長谷部(茂利監督)さんがイチからやりたいことをやる段階だと思うので、いろんな問題点が起きた方がいいと僕は思う」と答える。
 そして、「今日の“結果”自体は良くないんですよ、どんな試合でも勝たなきゃいけないから」と現役時代からの勝負へのこだわりを覗かせながらも、「けど、それでも見えるものは僕自身もたくさんありました。スタッフ・選手の皆さんもそれはあると思うので、僕も共有させてもらって、いい方に持っていけるように支えていけたら」と意気込む。
 この試合の1失点目は、チームが長谷部茂利監督の下で臨む新たな戦い方のエラーが凝縮されたものだった。だからこそ、動き出そうとしている感じがあるのか聞いてみると、「感じます、はい」と力強く首肯したうえで、こうも語る。
「うまくいったこともいかなかったことも、全部すごくいいことだと僕は思ってる。うまくいかないことは今のうちにどんどん出した方がいいと思います。キャンプ中は日中ずっと一緒にいるわけですから、そこを潰せる。それがキャンプのいいところ」
 暖かい気候の中でサッカーに集中できる環境がチームを加速度的に成長させると、体で知っているのだ。

■「監督交代はいつだって難しいです」

 川崎フロンターレは昨年まで8年間を鬼木達監督の下で過ごしてきた。監督交代に慣れていない選手も多いが、「監督交代はいつだって難しいです」と中村氏が話すように、長期政権であっても短期政権であっても、そこには乗り越えなければいけないものがある。そんな難しさを前にしても、このバンディエラは胸を高鳴らせる。
「(難しさと)同時に期待感やワクワクっていうのがこの時期には当然あります。これまでやってきたものが色濃く残った状態でやっぱり新監督1年目を戦うことになるので、長谷部さんも多分そこのギャップのところと、これまでやってきた長谷部さんのいいところをやっぱり融合したいというふうに思っていると思います。そこにネガティブなことは僕はないかなと思います。
 みんながすごくチャレンジしていることは麻生の練習を見ててもそう思いましたし、それに沿って練習をやってると思いますし、今日のゲームでもそういう姿勢は見えているので。みんな前を向いて、どんどんトライしてるなって思います」
 外から見ていても、鬼木達監督と長谷部茂利監督の練習がまったく異なることは分かる。とはいえ、指導者100人がいれば、当然、そのやり方は100通りある。正解も不正解もない。そんな進化過程にあるチームのトレーニング姿を見て、中村氏はこう感想を口にする。
「(始動からここまで)全部、ゲーム繋がるような練習の内容だと思いました。ぶつ切りじゃないなってすごく感じています。長谷部さんもそこをちゃんと選手に伝えてるんだなって。
 最初はスモールのところから、(次の練習では)ユニットになって、(その後)グループでチームでっていう段階を踏んでトレーニングになってるんで。特に守備面のところはすごく気を遣っていると思いますし、その効果は今日のこのトレーニングマッチでも随所に出ていました」
 新たな一歩を踏むチームを見つめる中村氏の眼差しは、とても暖かった。
(取材・文/中地拓也)
(後編に続く)

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