ぐいぐい、と音がしているように思えるほどの成長を見せている。今シーズン、ファイティングイーグルス名古屋の主力選手としてその才能を開花させている佐土原遼が、1月17日から2日間、ららアリーナ東京ベイ(千葉県船橋市)で開催のBリーグオールスター…
ぐいぐい、と音がしているように思えるほどの成長を見せている。
今シーズン、ファイティングイーグルス名古屋の主力選手としてその才能を開花させている佐土原遼が、1月17日から2日間、ららアリーナ東京ベイ(千葉県船橋市)で開催のBリーグオールスターでも自身の力量を満員の観衆の前で示した。
佐土原が出場したのは、17日にアジア出身選手と日本の若手選手中心のチーム同士によって行われた「アジアライジングスターゲーム」だった。
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■両軍最多28得点で勝利の立役者に
2年連続での出場となったこの試合。先発として試合開始からコートに立った佐土原は、ティップオフから1分後、いきなりダンクを決めて見せる。その後、身長192センチのフォワードは第1クォーターだけでもう2本、さらに前半終了までにもう1本、ボールをリングの中に叩き込んでみせた。

佐土原遼(撮影:永塚和志)
終わってみれば佐土原は、両軍通じて最多となる28得点を挙げ、ライジング勢の124-121の勝利の立役者となった。
「楽しみながら、自分のできる最大限のパフォーマンスをしようと思っていました」
試合後、佐土原はそのように話した。オールスターは「祭典」だと表現されることが多く、選手たちは「イベントを満喫する」ことに重きを置くことが常だが、佐土原の場合は「楽しむ」と「最大限のパフォーマンスをする」という、いうなれば相反することを表現したのである。
■攻守における稀有な万能さ

(撮影:永塚和志)
佐土原という男に「印」をつけておいたほうがいいかもしれない。3人制バスケットボールでは日本代表としてワールドカップへの出場経験があるとはいえ、佐土原がまだ全国的な名前であるとはいいがたい。だが、佐土原本人は男子日本代表チーム入りが目標であることを口にしており、上を目指す意識は徐々に花開きつつある。
FE名古屋2年目の今シーズンは全試合で先発出場を果たし、平均得点では初の2桁となる11.1得点を記録している。それどころか、チームにけが人が続出したことなどでボール運びから、自身よりかなり大きなパワーフォワードの選手とマッチアップするなど、幅広い役割を担ってもきた。
今月初頭の島根スサノオマジックとの試合ではキャリアハイの27得点を挙げ、大逆転勝利の要因となった。
アジアライジングスターゲームでも、ダンクのみならず多くの場面でボールを運び、3Pを3本沈め、リバウンドは9本と、オールラウンドなプレーぶりが光った。
あるいは、体重が97キロある彼のずっしりと身の詰まったマグロのような体形が見る我々の目を幻惑させているようなところがあるかもしないが、佐土原の攻守における万能さは稀有なものと呼べるかもしれない。
佐土原について、印象的な試合がある。昨年の12月4日に行われた天皇杯(全日本バスケットボール選手権)の3次ラウンド。FE名古屋は85-80で敗れはしたものの、先述の通り外国籍選手を故障で欠くなど手負いの状況で接戦を演じた。その中で佐土原は、多くの時間帯で相手のビッグマンとマッチアップした。
佐土原は渡邊雄太につく場面も多かったが、昨シーズンまでNBAでプレーをし、身長も206センチと自身より14センチも高い渡邊を相手に自慢のフィジカルさとしつこさで対抗した。
攻撃面では5得点に終わったこともあったかもしれない。試合後の佐土原は「実力不足」という言葉を使って、十全な仕事ができなかったと渡邊とのマッチアップを振り返った。
自身の日本代表までの距離感をそれまでは「あと一歩、二歩くらいかな」だと感じていたという佐土原は、この試合、具体的には渡邊との対峙を経て、「あと一歩、二歩も行っていないんじゃないか」と率直な思いを吐露した。
■「尊敬する人」はドジャース・大谷翔平
「試合をやっていく中で点も取れていましたし、いろんな選手について成長をしていると自分の中では思っていたんですけど、今日の試合をやって、代表選手とマッチアップをしてみて、本当にあと一歩、二歩も行っていないんじゃないかっていう気持ちはしています。
トム(・ホーバス、男子日本代表ヘッドコーチ)さんのバスケットというのは見ている限りディフェンスは頑張って、走って、そこからトランジションの3Pをどうするっていうスタイルだと思うんですけど、自分は今、両方ともそこのレベルまで達していないなというのが率直な感想です」
だが、ここまでダイレクトに自身に欠けているところがあると客観的な目線をもって言い切ってしまうことができることが、佐土原の魅力だ。その魅力は、彼の伸びしろであるとしてもいいかもしれない。
自身のプロフィールの「尊敬する人」にロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平投手の名前を挙げているあたりに、佐土原という人物の向上心の高さの一端が表れているといえるのではないか。メジャーリーグのスーパースターにまで上り詰めた野球選手の名前を記した理由を問われると佐土原は、高校時代から高い意識と確固たる目標を持ちながら球場内のみならず、私生活から自身を律しながら努めてきたプロフェッショナルさに感化されたからだと話した。
「メジャーに行ってそういうものが成果につながってきていますし、いちプロ選手として学ばなきゃいけない。超一流のプレーヤーがそういうことをしているということは真似をしたくて、尊敬する人は大谷翔平選手と書きました」
■渡邊雄太も認めたメンタリティ

(撮影:永塚和志)
天皇杯の試合について、佐土原は自身の力量の足りなさについて頭を垂れたが、相対した渡邊は「ディフェンスがしつこく、嫌な相手だった」と述べ、しかし、佐土原の向かってくる姿勢について「大好き」と存在を認める発言をした。
「僕は、僕のことをボコボコにしてやるっていう気持ちで向かってくる選手が大好きです。佐土原選手はそういうメンタリティを持った選手ですし、試合をやるにつれてどんどんうまくなっていくタイプなんじゃないかと思います」
オールスターは「楽しむことが前提」だと、佐土原は話した。実際、試合中は眩いばかりの笑顔を何度も見せた。ベンチに下がっている時でも味方が良いプレーをすればサイドライン付近にまで出てきて、タオルを振り回したり、冗談半ばに判定に対して審判にビデオ判定を要求するような場面もあった。
それでも、コート上では手をほとんど抜くことのない、力強いプレーをしていた印象が先立つ。
佐土原遼という選手はやはり、ぐいぐいと来ている。

(撮影:永塚和志)
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永塚和志(ながつか・かずし) スポーツライター|元英字紙『ジャパンタイムズ』スポーツ記者で、現在はフリーランスのスポーツライターとして活動。国際大会ではFIFAワールドカップ、FIBAワールドカップ、ワールドベースボールクラシック、NFLスーパーボウル、国内では日本シリーズなどの取材実績がある。